70話 対決
ここにいる全ての人がザンダイを敵認定して剣を構えた。
にも関わらず、ザンダイは余裕の笑みを湛えて立っている。
「ふはは、どうされました。皆さんお揃いで」
「もうお前の目論見はみなわかっている」
ユヌカスが言うと、ザンダイが眉を少し上げた。
「ならば、どうしてこのようなところに来てしまったのです?」
ザンダイの足元からゆらりと黒い魔方陣が浮かび上がった。
「この閉鎖された空間に来て、貴方がたが全滅してしまえば、何が起きたのか誰も知りようがないでしょうに」
武器すら手にせず余裕だ。
「こちらが全滅することなどない。ここで滅ぶのは其方だ」
王が剣を構え、ユヌカスが間を詰める。
「はてはて。神に最も近い私を倒せますかな?」
ザンダイは馬鹿にした顔でこちらを見渡した。
「神に最も近い者、ねえ。ユヌカス、お前らが仮にこいつに敗北し全滅した後は、俺がこいつを消滅させてやる」
クブダールが宣言すると、ユヌカスが笑った。
「そうだったな。こっちには神に近い者、ではなく、神がついているのだったな。ほんの少しの癇癪でこの国を滅ぼせる恐ろしい神だ」
肩の力が抜け、楽しそうな顔すらするユヌカス。
見遣った王はため息をついた。
「馬鹿を言え。なんの罪もない国民を死なせられるか」
「相手が誰であろうとも、負けることなど有り得んわ!」
こちらのやり取りが面白くないのか、ザンダイが仕掛けてきた。
ふわふわと浮かぶ目に見える魔方陣の下に、透けて見える魔方陣。
「魔方陣が2重に展開されています」
私が宣言すると、王がクロマを抱えて後ろに飛んだ。間を入れず飛び込んでくる魔方陣。
ユヌカスは魔力を纏わせた自身の剣で、黒い魔方陣を弾いた。
私はその下方、時間差でやってくる見えない魔方陣を一祓いする。と、端からポロポロと崩れ出す。
一瞬目を見開き顔を歪めたザンダイが、崩れ始めた魔方陣を回収すると、次は小さな黒い魔方陣を無数に飛ばし始めた。
魔力を纏わない武器では防ぐことができないのか、王が、後方の者達が、呻きながら膝をつく。
腕の中にすっぽりと包まれたクロマが、小さな悲鳴をあげた。
小さな魔方陣でも、数が数なだけに骨が折れる。
白南風に触れれば、シューシューと消えていく魔方陣。
みんなのところに届かないように白南風を振り続けるけれど、四方八方に飛ばされる数に私の動きが追いつかない。
1秒間に5回振るのが限界だ。
ザンダイがこめかみに青筋を立ててこちらを見た。
そんな中、ユヌカスだけが魔方陣に当たっても何も感じないように対峙して、ザンダイを直接攻撃し始めた。
今動けているのは、私とユヌカスだけだ。
「あ!」
クロマが何かに気がついたように叫んだ。
自身を大きな身体で覆い、膝を付いている王に手を回すと「世界、狭間!」と声を出す。
と、ほんの一瞬王が淡く光り、直後から呻き声をあげなくなった。
ユヌカスと同じだ。クロマが何かしたらしい。
王はクロマを後方のイツクィンに投げると、魔方陣をものともせずザンダイに向かう。
「お前を打つのは私だ」
切っ先がザンダイの身体を抉る。
ザンダイから血が流れはじめた。
「チッ」
武器を持っていなかったザンダイが、壁に飾ってあった剣を手に取った。
魔方陣の効かない相手に、初めの余裕はなくなったようだ。
王やユヌカスと剣を合わせるザンダイは、とても老体とは思えない動きだ。が、随一と言われる遣い手を2人も相手に戦えるわけがない。
私は次々と放たれる魔方陣を、後ろでなんとか受け止め祓う。
私のさらに後方にいる者達に届いてはならない。
「はあ、はあ」
けど、さすがに息が切れるよ。
前にいる3人はジリジリと間合いを詰めているけど、私はずっと走ってるんだもん。
と、王の剣がザンダイをとらえた。背中から一突きされたザンダイが膝をつく。
「ガッは」
ぼたぼたと落ちる血液に、これで終わりだという安心感が流れた。
その時だった。
ザンダイから何かが飛んだ。
その先には頭を抱え、のたうちまわるカイトウの姿が見える。
「カイトウ様!」
走り寄って抱き上げるガーディア。
を、払い落とすカイトウ。
ありえない。カイトウがガーディアを攻撃するなんて。皆んながカイトウから距離を取る中、ガーディアは逃げ遅れた。
「ふははは、いくつもの手を打たぬ者が、ここまでのし上がれるわけもないだろうに」
カイトウの口から彼のものではない言葉が飛び出ると、ガーディアを人質にジリジリと下がる。
「ラメル様、私とカイトウ様を共にお打ちください!カイトウ様がカイトウ様で無くなることを、彼も決して喜びませんから!」
「うるさい!黙れ!」
ガーディアがカイトウにしがみつきながら言うと、カイトウinザンダイがガーディアの首を絞め上げる。
あのね、私の目の前で、私のかわいい部下に手を上げないでくれる?
元々カイトウには意地悪された仕返しを、いつかしてやりたいと思ってたんだし、こんな好機逃すわけないよね!
やる気出てきた〜!




