66話 新たな恋の物語?
ものすごく寒い中、長い時間を漂っていた。
起きたら旦那様が亡くなっていて、元から親はなく、天涯孤独になったと聞かされた。
その場合「私じゃなくて、旦那さんの生きている女が起きればよかったのに」って嘆くよね、普通に。
そうなの、私。
起きたくなかった、眠ったままでよかったってメソメソ、メソメソ泣いたのよ。
今でもその行動は別に悪かったとは思っていない。
ところが
「せっかくラメル様が命をかけて助けた方が、不幸になるなんていけません」
とか神殿勤めの人が言ったかと思うと、あれよあれよという間に着飾られ、どこかに運ばれた。
目の前に座る美丈夫。
これ、アレだよ。
恐れ多くも国王様だよ。
私ら一生、生でお目見えすることないお方だよ。
「新しく奥の殿にお入りになられます、コンシーラ様です」
付いてきた女性が何か言う。
は?
聞いてませんけど!?
奥の殿ってアレよね?国王様の奥様達が住んでるところよね?
国王様も聞いてなかったのか「お、おう」みたいになってるじゃん!
え?何?
この国の王妃様とかって、こんな感じで増えてるの?
国王様の意思とか関係なしなの?
イヤだ〜。
てか、え、私も何の意思確認とかもされなかったよね?
国王様すら意思確認されないのに、なんで庶民の私の意見が通ると思ったんだよって?
はい、スミマセン。
って、世の中の女が皆「玉の輿に乗りたい」とか、考えていると思うなよ!
無理だよ、コワイよ。
礼儀作法もなってないし、女の争いとかに巻き込まれるのゴメンだし!
でも国王様に、それを面と向かって言う度胸もない。
プルプル震えて目に涙浮かべる以外にどうしろと?
と、背後に立っていた兵士の1人が口を開いた。
「王よ、お許しいただけるなら、この女性を私にお譲りいただけないでしょうか?」
ってな。
な、な、な、な、何が起きてるの?
ガバッと見上げるとちょっとマッチョがいきすぎた感じの、元旦那様に似た普通?の人がいる。
目の前の美丈夫より、よっぽど私向きだと思う。
が、
「お亡くなりになったご主人を思い、未だに心を痛めている女性です。このように涙を浮かべ震えている優しい女性に、奥の殿は厳しいでしょう」
とか言われると、それは違うな、と思う。
美丈夫国王より普通兵士の方がいい。
けど、むっちゃ私に夢見ている人より、私に興味無さげな人の方が心が痛まない。
まだ旦那様のこと好きだからね。
1人で生きていく不安がすごいあるだけで。
ううむ、究極の選択だ。
1人でモンモンと悩んでいたら
「いいだろう。下げ渡そう」
とかあっさり決まった。
私の意思、ここでも関係なかったわ。
と、座っている私の膝の下に手を入れられ、ひょいと持ち上げられた。
お姫様抱っこだ。
うお、照れる。
「では失礼いたします!」
颯爽と歩き出し、なんだかルンルンだ。
「10年間、こうして待っていた甲斐がありました」
「え?」
10年っていうと、結婚したぐらいよね。
「トコラシオが結婚したと紹介してくれた時に、貴女に一目惚れしたのです」
いきすぎマッチョの独白が始まった。
「貴女と結婚できなかったのは、結婚する前に貴女を見つけ出せなかった自分が悪いのです。だから、万が一、トコラシオに何かあった時、貴女の支えになりたいと、決して死なないよう身体を鍛えてきました」
確かにすごいマッチョ。
「トコラシオが勤めの日に休みになるよう調整し、貴女を影ながら見守ってきた10年。買い物をしすぎて水路から上がれない貴女は可愛いらしかったし、海で迷いウネギに追いかけられている貴女は可憐でした」
……この人、病気かな?
むしろ助けてくれてたら好感度上がってだと思うけど。
「あ!隊長!俺、10日くらい仕事出ませんのでよろしくお願いします!」
前方にいる集団に宣言し、走り出したマッチョ。
宣言された集団が呆気にとられている。
「この忙しい時に何言ってるんだ、アホかお前!」
我に返った隊長らしき人、時すでに遅し。
誰かの家に飛び込み(マッチョの家かな?)バタンとドアを閉めるとガッチリと鍵をかけた。
「休みを10日ももぎ取りましたから、どんなプレーも大丈夫です!どれからいきましょうか!」
ってお前、休みはもぎ取れてなかっただろ!
「本当にどんな風でも?」
しおらしくシナを作り、お願いポーズをする。
「も、も、も、もちろんっす!」
興奮しすぎて暑苦しい。
「じゃあ、……放置で!」
「はい!ほう、ちで?」
目を白黒させて顔色を無くしたマッチョ。
「10日もあるんだから、まずやることがありますよね?」
あのね、私まだ旦那様が好きなのよ?
口説き落とすところから始めるのが筋でしょう?
なぜだか真っ赤になったマッチョは「まずやることですか?」と呟いた。
なんだかイヤな予感がする。
マッチョは奥の棚から布を取り出し、隣の部屋に入る。ゴソゴソと動いている気配がするけど、一向にプロポーズらしき感じはしてこない。
「キチンと綺麗にしました!」
隣室からやってきたアホマッチョ。
「違うわ!!」
けれど、女が1人で生きていくには厳しいこの国で、私を10年も待っていた気持ち悪いこの人が。
子宝の恵まれにくいこの国で、1人目の子を産んだ時仕方ないなあとなった。
ついで、まあいいかとなり、楽しくなり、4人目の子を産んだあたりで暑苦しさもかわいいなあと思えるようになった。
貴方が生きていて私が幸せだったのなら、50年でも100年でもきっと影から見てるだけで満足していたと思えるこの人が。
思わぬ転機におかしなテンションになったこの人が。
こうして毎年貴方を訪れる私についてきてくれるこの人が。
つまり、私、結構幸せにしてるから、もう心配しないでいいよって、ただそれだけのことなのよ。




