64話 伝え方
自身の予想を大きく超える光景に唖然としていたが、オクスィピトの機転により無事収まった。
いやあ、危なかった。
ひとまず繋がればいいかと「最小限で」と偶然にもあの時思っていなかったら、この辺り一体吹き飛んでたな。
城の一部が燃え落ちて、周りの人間が右往左往している中「消せるんなら消しちゃいます?」なんて気づくとか、あいつ動じないのな。すっげえ冷静だ。
俺はシルヴィアに会うことができなくなったら、世界を破壊する自信がある。
原因になったこの星なんてどうなってもいいと思うだろうし、そうしたらケイミーも無事ではいられずリリタースと喧嘩になるだろう。
神と神の喧嘩だぞ?
ある程度力を制限されている間はいいけど、今みたいに力が戻りつつある状態なら、あっという間にいくつかの国が滅ぶわな。
いや〜危なかった。
そもそも長い年月を生きる俺らは、人の1年を長く感じない。10日くらいな感覚か?
ラメルに「お母さんと会えないの寂しくないの?」と聞かれたことがあるが、10年くらいなら特に思わないな。
会いたいが今すぐじゃなくて構わない。
束縛して鬱陶しがられたとかでは、決してない。
「しかし見事に氷の城になったな。城主が女の子だと萌えるのにな」
オクスィピトが変わったことを呟く。
「女城主どころか女剣士すら少ないもんな。氷の城に女城主とかいいのにな」
……そうか?
まあしかし銀世界にはなったが、暑さに弱いこの国の民達にとっては心が浮き立つものなのかもしれない。
ほら見ろ。俺が歩くと、皆が笑顔で立ち止まる。
寒さのせいでかなり震えてはいるが、無茶苦茶感謝されているのがわかる。
いいことをするって気分がいいんだな。
そして兵士達が後片付けに奔走する中、こちらでは現状の把握が始まった。
シルヴィアに会った時に娘1人すら守れなかったようでは、合わせる顔がない。
ここは俺も参戦しておこう。
「ザンダイ、ママ連れてった。クロマ、お城、部屋いた。ママ、消えたの」
クロマが言葉を紡ぐ。
けれどクロマは自分の言いたいことを満足に言えないのか、足で地団駄踏んでいる。
「落ち着け、クロマ」
少し考えこんだオクスィピトが、服の内側から紙とペンを取り出してクロマに渡す。
「人に自分の気持ちを伝える方法は1つではない。話すこと以外にも、字を書いたり絵を描いたり、手振り身振りで教えたり、歌ったり。いろいろ試せばいいだろ」
言われたクロマは目を見開いた。
「実際の年齢がまだ1歳に満たず、なのに見た目が4〜5歳。けれど思考はそれより上に見える。そんな症例を身に詰まるほど知ってるからな」
クロマもそれだろ?とオクスィピトが苦い笑みを浮かべる。
なるほど、ラメルと同じだと彼は思ったらしい。
クロマよりむしろオクスィピトに興味が湧いてきた。
「お前みたいのが一人いると、楽だよな」
頭の回転がよく、気長で度胸がある。
「臣下にしようか」
「絶対にイヤだ」
聞こえていたのか、オクスィピトが即答する。
なんでだ。
寿命伸びるぞ、神の眷属になるんだから。
クロマが受けとった紙に文字を記し始めた。
「書ける!」
叫んだクロマの目に喜色が浮かぶ。
話し言葉のみ制限をかけるとか、アホだな、神。
よっぽど嬉しかったらしい彼女の滲んだ目元を、王が袖口で拭う。と、周りの人間が揃いも揃って全員驚愕の表情になった。
クロマが書き終わったのか、満足げな表情で顔をあげる。
ん、なになに?
俺らは一斉に手元を覗き込む。
「おい!ザンダイに付いて昇殿の渡りに行った者を探し出せ!」
オクスィピトが命じると、1人の兵士が少しオドオドと前に出てきた。
「発言をお許しください」
「許す」
兵士は膝をつくと震えながら言葉を発する。
「私は神殿で倒れたラメル様を『城の医務室にお連れする』とおっしゃったザンダイ様の後を追いかけました」
そこで言葉を切ると唾を飲み込んだ。
「クロマ様をお部屋に案内し、昇殿の渡りに足を踏み入れたところで、ラメル様を運んでいたザンダイ様共々、忽然と姿を消したのです」
顔色が真っ青だ。
「信じていただけないでしょうが、本当なのです」
手を握りしめ震えている。
「嘘ではないだろう。ラメルの気配がそこからしているからな」
俺が発言すると、視線が集中した。
「ママ、いる?」
クロマが不思議そうだ。
「クロマはラメルを感じないのか?」
そうか、まだ力が成長していないか。
クロマは長い間異空間に留まっていたせいで、空間の狭間と相性が良さそうに見える。
人としては極めて珍しいことに、時空を操れる可能性があるんだがな、ふむ。
「クロマとユヌカスが頑張れば、ラメルのところに繋げられる可能性があるが、やってみるか?」
「やる」
「当然だろ」
2人とも気合の入った顔つきになった。
力の制御が難しくなってきているところをみると、俺がこの星に干渉を許されるのはあと僅かな時間だ。
その間くらい、付き合ってやろう。
ああ、でもオクスィピトが欲しいな。
じっと見ていたら、背後から視線を感じた。
でも、こいつがついてくるならいらないな、うん。




