63話 天災
先に行った父上とユヌカスを追いかける。
どう頑張っても僕が2人に追いつくのは無理だから、後から行けばいい。
廊下に出ると、扉の外で控えていたらしいランディンと合流した。
「オクスィピト様、お怪我はありませんか?」
頷くことで無事を知らせる。
走りながら話すのしんどい。
それにしても広原がいなくなったってどういうことだ?死んでないよな?
クブダールはおそらく、それに対しての制裁をしたんだろうしなあ。
死んでるなら、もっとすごい攻撃を受けるはずだよな?
現場に着くと兵士達が水を運び、火の波の中に投げ入れている。高温の蒸気が上がって余計に危険だ。
「一度水を投げ入れるのを止めろ!」
焼き魚と蒸し魚になってんじゃねーか。
「クロマ、凍結の魔方陣貸してくれ」
「はーい」
クロマがハンカチを出してくれる。
「これで治療するのはお前の仕事だ。今、冷やすために水中にあいつら入れるなよ。水に見えても、水温が低いとは限らないからな」
国民が煮魚になるぞ。
ほいっとハンカチをユヌカスに渡す。
「なんで俺!?」
魔力持ちは有効に使わないとな。
そして、交渉にユヌカスはいらんが、クロマは役に立ちそうだから連れて行くことにする。
ひょいと抱き上げると歩き出す。
さて、あの人達を止めないとな。
空から下を睨みつけるクブダールと、全身を殺気で覆う父上。
「クブダール、何があった?」
宙に浮いて昇殿があった辺りを睨みつけているクブダールに声をかける。
父上が彼に明確な殺気を向けているが、いくら父上が負け知らずでも、アレ相手では勝ち目なんてないからな。
「オクスィピトか?」
チラリと視線を向けるとまた、攻撃した辺りを見つめる。
「あの辺りにラメルが囚われてるらしい。最小限の干渉であちら側と繋ぐ予定だったんだが、俺の今の最小限がこれだ」
クブダールが手の平を見つめながら言う。
「は?」
攻撃するつもりですらなかったの?
全員のアゴも落ちるわ。
最小限がこれって、もう人間じゃなくない?
いや、人間じゃないことは知ってるんだけどさ。
「ラメルが死んでるなら最大限の攻撃を打ち込むところだが、まだ生きてる気配がするから救出に向かおうと思ったんだ」
話し合いをするために、クブダールが降りてきた。
ということは
「もし、ラメルに何かあったら?」
予測はつくが、一応確認だけはしておかないと、な?
「この国ごと滅ぼすが?遠慮なく最大限を打ち込んでやる」
キリッじゃねーよ!
いっつもお前は方向が明後日過ぎるんだよ!
「遠慮なくの最大限が、この国だけですむのか?」
少し考えたクブダールの目が泳いでいる。
絶対に周辺の国を巻き込んでの大惨事になるだろ、お前〜。
「この国は最高神からの裁きを受け、今まさに制裁を受けている最中ですよね」
緊張感から、目上の者と交渉するモードになる。
読み漁った知識。広原からの情報。そして、僕がこちらに来るときに会ったあの爺神の言葉。
全てを繋げて解決の道を探り出さないと。
ここからは父上にもユヌカスにもできない、僕の勝負だ。
「その上、周辺の国々に罪はない、ですよね」
しっかりとクブダールに視線を合わせる。
「その場合、意味のない惨殺行為をしたとして、この星の神とあの最高神から制裁を受けるのは、クブダールになるのではないですか?」
にっこりと笑顔を浮かべる。
クブダールの気持ちを落ち着かせなければ、僕らは終わる。
他に何かないか?
「制裁の内容が、シルヴィアさんとの再会を妨げるものでないといいですね。二度と会えなくなったりして」
「は?」
クブダールが衝撃を受けて狼狽えている。
なかなかいい所をついたかもしれない。僕、天才!
「なかったことにするには、これを消しちゃえばいいんじゃないかと思いますよ。火が消えてしまえば気付かれないでしょう」
神様っていうくらいだから、気がつかないわけはないと思うけど、解決した案件に関わってくるほど人の世界に興味もなさそう。
神ってそういうもんだろ?
「力の制御ができないから一帯が凍るぞ?」
さっきの力加減から、クブダールが唸りながら答える。
「延焼して城が焼け落ち、街がなくなるよりはいいんじゃないですかね」
提案すると「そうか」と、いきなり閃光を放った。
瞬間一面が白い世界になる。
いやいやいやいや、やる前にあの辺の人達、退避させたげて!
何人か氷漬けになったよ!
いや、治療のためにはよかったのか?
しかし、こんなアホが神だとして、こいつに管理されてる星ってかわいそうだよな。
ってか管理している星あるの?
「極端だな」
戦意を喪失していたらしい父上が呟いた。
「オクスィピト、其方よくあんなのと交渉しようって気になったな」
目の前の惨状に、僕も今自分を奮い立たせているよ。
膝が震えてるわ。
いやだからさ、結局のところ広原に何があったのよ?




