60話 カゴ
内容がほのぼのとは程遠くなっております。
なるべくほのぼのと読んでもらえるよう工夫しましたが、苦手な方はそっと閉じてください。
寒い。ものすごく寒い。
身体にかけられている布を手繰り寄せるけど、なかなかあたたかくならない。
本当はもう少し寝ていたいけど、がんばって目を開けた。
おお!天井から薄い布が垂れていてお姫様ベッドだ!
自分の部屋のベッドですら、こんなにキラキラしてないよ。
「目が覚めましたかな」
おう、誰かがいたみたい。はしゃぎ過ぎてないよね?
っていうか、私が寝てるのに男の人がいるの?
すごい違和感にちょっと緊張する。
ガーディア達いないのかな?
「こんなに早く目覚めるとは、やはり常人とは違いますね」
薄布を分けて入ってきたのはザンダイだった。
見知った人でホッとする。
これなら少しワガママ言っても大丈夫そう。
「ザンダイ様?このお部屋、寒くないですか?」
ちょっと暖房的な物ってないですか?と思ったけど、この国は温暖だから暖房器具見たことないな。
ちょっと厚めのお布団プリーズ!
寒くて、けれども眠いのです。
「ラメル様はお寒く感じますかな。術式に囚われているせいでしょう」
言いながら、ザンダイは私の横、ベッドの上に腰掛けた。頭を撫でられる。
「ザンダイ様?」
近過ぎない?でもお祖父ちゃんならこんな感じかな?
「ガーディア達はどこにいるのでしょうか」
なんだか喉が渇いている。
「ここは城の中ですから、神殿の者は入れませんよ」
あれ?じゃあ誰にお願いしたらいいんだろう。
喉が渇いてるんだけど。
そしてちょっとショックを受けた。お水一杯得るのも、私って1人じゃできないんだって。
なんだか急に、みんなに感謝しなくちゃって気持ちになった。
「あの、ザンダイ様?私、喉が渇いて」
お水を要求しようとすると、布を捲られザンダイに抱き寄せられた。
赤ちゃん扱いだ。そんなに眠そうにみえますか?はい、眠いのです。
「もう少しこのまま眠られるといいですよ」
ポンポンと背中を叩かれると、瞼が重くなってきた。
私、前が15歳で今が12歳で、子供だけど子供じゃない。
でも、お母さんという存在の人以外に、こんなに優しく抱きしめてもらったことない。
向こうの時にはお祖父ちゃんもお祖母ちゃんもいなかったし、こっちのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは遠い人だ。
なんだか胸に迫るものがある。寒いのに、ぽかぽかあたたかい不思議な気持ちだ。
私、もっとクロマに優しくしてあげないといけないんだな。
なんだかお母さんに会いたくなってきちゃった。
でもアレスはもっと寂しい思いをしてるかもしれないし……。
ウトウトと意識の狭間を浮き沈みしはじめた。
「寝たかな?其方は大事な母体様だからな」
ザンダイが私の髪に口を寄せ、小さな声で何かを言っている。
優しく触られるのも、撫でられるのも気持ちがいい。
「しかし、目が覚めるということはまだ成長が足りないのかもしれん。抵抗せぬよう意識を縛ればいいか?確かに、少し育ってもらわねば抱くのも楽しくないな」
笑いを含んだ呟きが、とても遠くから聞こえる。
「これほどの器を持ち、またあれほどの器を持つ子を生み出せる貴重な母体だ。王族の血を引かぬ男児を産んでもらわねばならない」
なんだかとても重要なことを聞いているはずなのに、頭が重くてボワ〜としている。
「もう一度神の座につくのは私だ。せっかく長い時間をかけ、ラミキシオンの血を引く者をあと1人まで減らしたのに、先の遠征でしくじったからな」
声音が苛立ちを含んだ。
声が震えると、不安な気持ちになる。その声は嫌だな、と少し身体を動かして伝えようとした。
と角度を変えて抱え直された。
頰から首筋にザンダイの手が通る。
いい子いい子されて、私もいい子で寝ようと顔を埋めた。
「唯一と愛した女を殺してしまえば誰とも子を作らないかと思えば、まさか誰でもよいと、ああも子をもうけるようになるとは思わなかった」
計算違いだったとザンダイがため息をついた。
誰のことだろう。
そうしてしばらくゆらゆらと揺れていたけれど、私が動かなくなったのを感じて、優しく優しく布団の中に戻された。
「其方もこんな老いぼれを相手にしたくはないであろう?そろそろカイトウの身体を支配せねばならないな」
頭を撫でられながら聞こえてくるのは、優しい優しい子守歌。
けれどそれは残酷な子守歌。




