59話 洗礼石
ピキピキに凍っている石と私の顔を覗き込むクロマ。
心当たりがあるとすれば、洗礼石なのだけどそれが凍ってるって解釈でいいだろうか。
「クロマにはこの人達の洗礼石が凍って見えるの?」
クロマが頷いた。
私は彼女達のお腹で凍っていそうなところを探してみる。
冷た!ってなってるのかな?
勝手な想像で、洗礼石って心臓のところにあるかと思っていたのだけど、凍っていそうな物がない。
そもそも洗礼石ってなんだ。
むむ、ないなあ。もっと下?
身体を順に下へと探っていくと、ちょうどおへその下あたりで違和感を感じた。
凍っているわけではなく、停止している。
よくわからないのだけどそう感じる。
洗礼石の機能が停止しているんだと思う。
どうしたらまた動き出すのだろうか。
「ママ」
クロマが呼ぶ。
「イ〜ツ〜!」
イツクィンも呼ばれている。
解凍されたイツクィンがクロマの横に座らされると、同じように手にハンカチを握らせた。
手が凍っていく。
クロマはハンカチを外すと、お湯をかけた。
「ぐっ」
血流の止まったところに、温かったとしてもお湯をかけると痛いよね。
私は思わずイツクィンに同情した。ましてや、私達はお魚だよ?
周りを見渡すと、顔色の悪いカイトウをはじめ、目を潤ませているガーディアや使用人がいる。
これではいけない。
クロマがいじめっ子認定されてしまう。
「クロマ、やり方わかったから大丈夫よ」
にっこり笑って冷凍解凍実演を終了させる。
「そう?」
クロマは持っている水差しを見て「まだ、あるよ?」と残念そうだ。
「立派になられて」
若干引いている私の耳に、ガーディアの呟きが聞こえた。目頭を押さえて感極まっているらしい。
え?そっち?
ガーディアの価値観おかしくね?
クロマの感性が歪んではならないと、私は慌ててお腹に「温かくなあれ」と魔力を流した。
魔力を流していくと、お腹だけではなくどこか違う場所に流れていく線がある。
少し考えた後、線をちょん切った。
プチッとな。
ドンッ!
と、今まで流していた魔力がいっぺんに戻ってきたのかって勢いで私のところに流れてきた。
熱っ!
え、もしかしてこの人にこんなに熱い思いさせてたってこと?
ご、ごめん、なさ、い。
急な魔力の奔流に意識が遠のいていく。
「ママ!」
心配そうなクロマの声。
大丈夫だよ、ちょっとびっくりして眠いだけ。
むしろ、その女の人の方がね。
そこにいる人達も私が倒れたことで、ザワザワと落ち着かない雰囲気になったようだ。
と、誰かが私を抱き上げる。大きい人だ。
「この惨状はなんだ!」
「ママ!」
抱き上げられた私にクロマがつかまっている。
「クロマ様を城の部屋に案内しなさい」
ふう、とため息をついたこの人が指示を出す。
「はい」
耳に届くのは、聞いたことのない声の返事。
「本来なら、もっと違った時にご案内する予定でしたが、クロマ様は王族の血を引く方です。城にもクロマ様のお部屋がございます」
さっきとは違って優しく話しかける声に聞き覚えがある。最近よく聞く声だった。
私を抱き上げてるのザンダイらしいよ。お腹がタプタプでクッションみたい。
「ラメル様が医務室にいる間、そちらでお待ちした方がいいでしょう?」
その問いにクロマが同意したらしい。
「其方達は神殿の者に同行し、ラメル様とクロマ様の身の回りの物を預かってくるように」
「はい」
先ほどの声の持ち主達は、城にお勤めの人達だろうか。
「神殿の者は城にはたやすく入れぬ。入城を希望する者は申請するように」
ザンダイはそう告げると歩き出した。
途中、「クロマ様のお部屋はこちらですよ」と優しい女性の声がした。
「すごい!」
クロマの嬉しそうな声だ。
「イツクィン様に伺って、このようなお部屋になったのですけど、本当によろしかったですか?」
「お気に召さなければ、すぐに取替えますから教えてくださいませ」
何人もの人がクロマを優しく迎えてくれているのがわかる。
「ん。イツ、丸!」
っていうか私も見たいよ、クロマの部屋!
むむ、目〜開け〜!
私が身動いだのがわかったのか、ザンダイが私の身体をゆったりと揺する。
あ〜無理、それダメだよ。眠い、寒い。
ザンダイが温かい気がして、身を寄せると少し笑った気配がした。
だって寒いんだよ。
お父さんとかお祖父ちゃんとかに抱っこされたら、こんな感じかな〜と思っちゃったんだよ。
「ラメル様は特別なお部屋にご案内しますよ。こんなに早くご案内することになるとは、思っていませんでしたが」
とっても優しい雰囲気に、なんだか久しぶりに甘えてもいいのかなという錯覚に陥った。
ほら私ママだけど、まだこっちだと12歳だし、ギリギリセーフだよね?




