58話 眠り姫
「起きませんねえ」
見つかった奥様達、一向に目覚めない。
救出された奥様達は簡単な検診の後大きな外傷なども見当たらなかったため、旦那様達の強い希望により連れて帰ることになった。
けれど行方不明になってから1年以上の間に、旦那様のいなくなってしまった女性が神殿に残されている。なんとなく責任を感じることもあって、丁重にお預かりすることになった。
いやだって、全部ではなくてもクブダールのせいでしょ。
彼女達の今後の憂いを少なくするのは、クブダールの仕事だと思うよ。もちろん私も手助けする気持ちはあるけどさ。
彼女達も身元がわかり次第、親や兄弟に引き取られていくことになるのだと思うけど、その前に起きてこないからお話も聞けない。
それに一人っ子の人も多いらしいしなあ。
何人かの面会者の人が来て、身元の判明している人もいるのだけど、神殿で原因の解明をしてくれるなら、とお預かりしている状態だ。
でも眠ったままで動かなかったからなのか、痩せ細ってはいない。こうして生きている状態で見つかったのは、眠っていたおかげなのかも?と思えたりする。
「これほどまでに状態に変化なく身体を保存できるなんて、医学的な観点から言えば理想的な延命でしょうね」
冷凍保存しなくても、持病を完治できる技術が開発されるまで、寝て待っていればいいんだよ?
不謹慎だけど感心しちゃう。
「医学という認識がない世界では、無意味な技術だと思うけどな」
風間君は彼女達の身体の異常を調べに来ている。
けど相手が女性なだけに、やれることが限られているのだ。
知識が一番あるのは風間君だけど、お医者様でもないのに裸に剥いて検診、できないもんね。
「でもオクスィピトなら、そのうち医学開発とかできそうじゃない?」
私が言うと、風間君が日本語になった。
『もし、僕らの身体が地球人と同じ構造ならな。とてもそうとは思えない種族の体内を、想像できるか?』
『できないね』
魔力持ちで、おそらく魚科だ。
体内に石も入ってるんだよ。
あと個人的には、私たちにはエラらしきものがないのに、水中に入った時の水ってどうなってるのかなって気になっている。
息してるんだよ。喋れるんだよ。飲んでるはずの水分はどこに行っているのか……風間君なら知っているのかもしれないが、私にはさっぱりわからない。
『しかも、薬師はいても医師のいない世界で、処刑予定の悪人でいいから解剖したいとか言い出したら、僕どうなるよ』
『サイコ認定されるね』
下手したら、風間君が処刑される未来が安易に予想されるわ。
『僕や広原が死んだあとの医学を確立したいなら、その辺りをクリアしないと一気に昔に戻るんだよな』
それだけじゃない。
『お水を綺麗にする浄水魔石が壊れるまでなら水も綺麗だけど、そもそもの装置を他の人が作れるようにしておかないといけないってことだね』
『水に限らずな』
今やっているリサイクル全般かあ。無理じゃない?
私たちは顔を見合わせてため息をついた。
先は長そうだ。
周りの人達が訝しそうに見てくるけど、気づかないふりをした。
「いやいやいやいや、だからそれですよ。兄上、ちょっとあちらでお話しませんか」
風間君、怖い笑顔のユヌカスに連れていかれちゃった。
そう言えば、ユヌカスはまだ風間君から教えてもらってなかったのかな。風間君、バイバ〜イ。
さて、それにしても彼女達は黒人間達みたいに、どこかに魔方陣が浮かんでいるわけではなく、傷をつけられているわけでもない。
う〜ん。
「ママ」
「どうしたの?クロマ」
クロマとイツクィンが手を繋いでやってきた。2人の重なった手の上に、ハンカチに包まれた石が置かれている。
私、クロマにせがまれる度に、いろいろな魔方陣を組み込んだハンカチを作ったんだ〜。
だが、たくさん作りすぎて、もはや、何の機能がついたハンカチがあるのか把握していない。
このハンカチは何機能付きだろう。
私がしゃがむと顔の前で石がピキピキ凍り出した。
あ、ピキピキ凍り出したイツクィンもいるね。
ええと、これあれかな?真実の愛で溶けるやつかな。
って放置かよ!
クロマ、イツクィンを放置しちゃうの?
なんだろう。
私が学校に行っている間とか、ザンダイに呼ばれてお仕事しに行ってる時には、ガーディアに預けて出掛けるのだけど、それがいけないのだろうか。
イツクィンの扱いがカイトウっぽくなってない?
そうこうしているうちに、シチセプ達が氷の彫像みたいなイツクィンを運んでいった。上からお湯かけて解凍するらしい。
抱き合って生還を喜び合っているね。麗しいかな、兄弟愛。
じゃなくて。
わざわざクロマが見せに来たんだもん。
何か意味があるはずだよねえ。




