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56話 刺繍

貴族のお嬢さん達は12歳になると刺繍を学びはじめるらしい。


15歳過ぎで結婚して旦那様の服に守りの刺繍を入れられるようになると、できる奥様と思われるのだ。

防具としての衣装はスッパイダラという蜘蛛の糸を使うから、平民には手が出ない。そのため刺繍の教室にいるのは貴族だけらしい。

確かに平民の子は見当たらないね。


「最終的には、海に出る旦那様の防具に飾り刺繍ができるようになるのが理想なんですけど」

先生は私の手元を見て複雑な表情だ。

「ラメル様は魔方陣だと美しく仕上げますのに」

私としてはものすごく上手くいったと思うんだけど、誰も共感してくれないんだよね〜。


強そうな顔している妖怪のコ◯さん、かわいくない?

でもまあ、海に遠征に行くユヌカスの背中に大きな◯マさんの刺繍とか……ないわな。

絵のような刺繍は諦めて、魔方陣とか、幾何学模様の刺繍にした方がいいんだろうな。

うん、このハンカチはクロマにあげよう。


それにしても、こっちの刺繍糸って色の種類が少ない。

染め粉に使うのはテフテフライの鱗粉だよね?自分で作ろうかなあ。

お鍋に入れてグツグツ煮てたよね、向こうでは。


部屋に帰ったら、さっそくレッツクッキング!

「姫様、何をされているんですか?」

ガーディアが困惑顔だ。

そりゃ、鍋の中を見ればそう思うだろう。

私も困惑している。青と黄色を混ぜれば緑ができると思うじゃん?

黒くなっちゃった。

試しに別の鍋で赤と青を混ぜたら、それも黒くなる。


「あれ?テフテフライ粉って混ぜたらダメなの?」

「混ぜて色が作れるなら、貴重な色の糸がこれほど高い値段で取引されないでしょう」

なるほど。テフテフライ粉もスッパイダラの糸も、元の色をそのまま使うしかないらしい。

なんだ、クロマにかわいいハンカチ作ってあげたかったのにな。


「ママ?」

クロマが手に瓶を持ってやってきた。

「ママ、欲しい、色の糸」

魔石粉の瓶をはい、と渡される。

「これを入れると、色が出るってことかな?」

クロマに尋ねると、首を縦に振った。


せっかくクロマが持ってきてくれたんだし、魔力を込めてキラキラさせてから入れてみよう。

スプーンに3杯、と。

「姫様、緑色になりましたね」

ボーゼンとした声のガーディア。

本当だ。黒かった鍋の色がじわ〜っと緑に変わっていく。

魔石粉が万能すぎる。


「クロマすごいよ!よくわかったね」

頭を撫でこ撫でこしてあげると、クロマがハニカミ笑いをした。かわいい。

本当に嬉しい時のクロマは背中の羽がぴこぴこ動くから、本当にかわいい。

鍋から糸を取り出して軽く水洗いをして干しておく。

他にも何色か作って完成だよ。グラデーションだよ。


「クロマにハンカチの刺繍をしてあげるね。どの布地にする?」

クロマが教えてくれなかったらできなかったから、ご褒美だよね。

ピンクかな?黄色かな?フリフリ好きじゃない女の子は水色だったりするよね、ふふふん。

「ママ、これ」

上目づかいで胸にキュッと持ってきた。かわいい。


が、何故に黒。

「ク、クロマ、この色でいいの?」

コクンと頷き、期待混じりのキラキラ視線だ。

黒地だと、かわいい刺繍が映える気がしない。

で、でも魔方陣ならカッコよく映えるかも。

よし、カッコいい系でいこう。


風間君に教えてもらった、防御の魔方陣を真ん中に入れて、周りにクロマの名前とかわいくチューリップの絵を入れてみる。

もちろん向こう式の簡易チューリップだ。

文句ある?

絵で描いたような刺繍とか、表も裏も同じ柄でなんて無理やん。


「ママ、これ、ここ」

クロマが風間君の描いた魔方陣のマークをガサガサと持ってきた。

「このマークをここに入れたらいいの?」

「うん!」

おお、入れちゃるぜ。クロマのお願い聞いちゃるぜ。


「ママ、ありがと」

クロマが出来上がったハンカチを大事そうに持って、イツクィンのところまで行くと「えい!」とぶつけた。

とたん、イツクィンが何か重いものに当たったかのように3ミートルくらい飛んだ。


「ママ!」

クロマが持ってきたハンカチは色を失い、真っ黒のハンカチになってしまっている。

「ママ?ぎゅ〜!」

え〜と?

よくわからないままクロマごとぎゅ〜とすると、ハンカチがまた色を取り戻した。

なるほど、魔力を使ったら黒地に戻っちゃうから、また魔力を込めないといけないのね。


色を取り戻したハンカチを持って、クロマはまたイツクィンのところに行く。

ちょっと引きつった顔のイツクィンが、おいでおいでされている。

「イツ?」

呼ばれて近づいたイツクィン。

またハンカチを投げられて飛んだ。


クロマが手を叩いて嬉しそうだ。

イツクィンも額から少し血を流しながら、クロマの笑顔に見惚れている。

母は引いておるぞよ。


イツクィン、君はそれでいいのか?





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