53話 子作り?
「待て待て待て待て、クロマ、なんでカイトウがパパなのかな?」
ユヌカスのひたいに血管が浮いている。
『パパ、チガウ?』
クロマはユヌカスのところまでぴょんぴょん飛ぶと言った。
確かにさっきユヌカスは否定してたもんね。
だからクロマはユヌカスがパパではないと理解したらしい。
続いてクブダールのところまで飛ぶ。
『パパ、ナレナイ』
クブダールはクロマのパパになれないらしい。
何かパパとしてふさわしくない理由があるっぽい。
心当たりがありすぎる。正解はどれだろうか。
そしてクロマはそのままカイトウのところまで飛んだ。
『今ナラ、パパニスル、助カル』
だって。
意味不明過ぎる〜!
なんでカイトウがパパ候補になるかなあ。
ほら私の感覚だと、仮にカイトウをパパって言い出したところで、別にカイトウと結婚した気になんかならないから別にいいんだけどさ。
けど、こっちの結婚事情がよくわからないから、それが理由でカイトウと夫婦になってしまったら、それはイヤだ。
だって、私の好きな人はユヌカスだし。
だからクロマにとって意味のない、おままごとみたいな呼び名だったとしても、パパはユヌカスがいいな。
ちょっとした希望を込めてクロマを見る。
「あ〜、クロマ。俺がパパになろうか?」
ユヌカスが、さっきとは違って猫なで声になった。
『パパ、イイノ?』
「お、おう。いいぞ」
ユヌカスがクロマをどう扱っていいのかわからない感じで答えている。
「クロマにとってママがラメルなら、その連れ添いの関係は誰にも譲りたくない」
へへ、嬉しい。
クロマはユヌカスとカイトウをクルクルと見て傾いた。
『ケド、コッチノ、パパ、助カラナイカモ』
ん?
「クロマ、カイトウがパパにならないと何が助からないの?」
『カイトウ、パパ』
えっと、よく理由はわからないけど、カイトウが危険だったとして、そしたらカイトウと夫婦ごっこした方がいいのかな?
カイトウを見上げる。が、
「いや、今クロマのパパになっても物理的に死にますからね」
剣の持ち手を握りしめプルプルしているユヌカスを見て、カイトウが後ずさった。
『ユヌカスガ、パパ?』
「そうだな」
クロマがユヌカスの前に行くと、瞬きをした。
ってか、瞬きできるんだ。
『ママ、クロマニ、クレタ。卵』
クロマが何かを伝えようと揺れる。
『パパモ、クロマニ、クレル』
言うと、クロマがユヌカスの身体にめり込みはじめた。
何がはじまるの!?
「ま、じ、か」
ユヌカスが痛そうだ。
「ユヌカス!」
「来るな!」
近寄ろうとしたら怒られた。
「でも痛そうなんだけど」
なにが起きているのか理解できない私は、オロオロするだけだ。
「痛いわけじゃないんだ。カイトウ、全員部屋から出して、呼ぶまで入るな」
「は!」
カイトウとガーディアに引きずられて、隣の部屋で待機だ。
後ろ髪引かれ隊だ。近くで心配するのもダメなのかな。
しばらくして、ユヌカスに呼ばれた。なんだかぐったりしているね。
そしてユヌカスの隣に大きな繭がある。バスケットボールくらいの大きさだ。
「ユヌカス、大丈夫?」
目が死んでる気がするけど、頷いた。
「クロマは?」
ユヌカスが繭を指す。
「ある意味本格的な子作りだった」
ユヌカスが遠い目をしている。
「子供ってこうやってできるんだね〜」
きっと繭から生まれてくるんだ。よくわからないけど。
「んなわけあるか!」
「違いますよ!」
全員から全否定だ。
もうわけわからん。
繭ボールを抱っこすると、微量の魔力が流れていく。
繭の中がトントンと動いたような感じもするし「これが胎動!」って感動する。
「ひ、姫様」
リズが何やら一大決心をしたように前に出てきた。
「姫様、これは普通の子作りではありません」
周りの人がみんな頷いている。
「通常は母親の体内で子を育むのです。時が満ちると生まれてきますが、母体によって5ヶ月から2年ほどで生まれます。子どもとして形成されなかった卵は、命を得ないまま体外へ排出されてしまうのです。普通なら、体外へ排出された卵が命を得ることはないのですよ」
ふむ、鮭の産卵みたいなのかなって思ってたけど、なんとなく普通に地球の営みとかわらないっぽい。
「この際だからついでに言うと」
ユヌカスが近づいてきて私ごと繭を抱きしめる。
「排卵を経験すれば、大人として活動できるようになる。目安として成人は15歳になってはいるが、だな」
言葉を続けようとしたユヌカスの首に、ピタリとナイフが添えられた。
「それを私が許すとお思いで?」
ユヌカスを警護しようと動いたカイトウは、踏みつけられて恍惚顔だ。
ああ、うん。
ユヌカスが何を言いたいのかはわからなかったけど、ガーディアが最強だってことはわかったよ。




