52話 進化
黒丸ちゃんがちょっとずつ大きくなっている。
黒丸ちゃん、名付けてクロマ。
クロマは1枚だけの羽を器用に動かして、ぴょこぴょこ移動する。
生まれてはじめて認識したのが私だったためか、私を親だと思っているらしい。雛鳥みたいなものかな、羽もあるしね。
そして口があるからか、なんとなく意思も伝わるようになってきた。
それまでは『ピ』とか『プ』とか言ってて、それはそれでかわいかったんだけども。
『マ、マ。クロマ、目玉、ホシイ』
ね?って
「目玉?なんで!?」
なんでちょっとホラー系?
『マ、マ。見タイ』
そ、そっか。ホラー系だと思ってごめんね、クロマ。
目、目玉かあ。どこかから確保してくるとか、流石にハードル高いなあ。
う〜ん。目玉の代わりになりそうなもの、ないかなあ。
が、空間の中を探ると目玉があった。でもどうしようか。
「あるにはあるんだけど、1つしかないの。しかもクロマの顔よりだいぶ大きんだよね」
なんていったって、竜の使いの1つ目だもん。
かと言って、誰かからクロマに合う大きさの目玉を取ってくるとか無理だよ、どうしよう。
クロマが手に乗るくらい小さいから、昆虫の目になっちゃうでしょ?
昆虫の目、イヤだ。
『目玉、一個デイイ。マ、マ見タイダケ』
なんだろう。
言ってることが無茶苦茶かわいいんだけど、かわいいって思えない気がして微妙だ。
「クロマがいいならいいんだけど、はい」
目玉を取り出すと、クロマの前に置いた。
「クロマ、これが目玉だよ。けど大きすぎるよねえ」
クロマが、クロマより大きな目玉の周りをクルクル回って、口を開ける。パクッと咥えると少しずつ目玉を飲み込んでいく。
けれど目玉が大きすぎたのか、クロマが動かなくなった。
なんていうかクロマが「目」になったよ。
大きすぎだよ、竜ちゃんの目。
黒丸ぴょこぴょこの時の方がかわいかったな、ぐすん。
と、廊下が賑やかになった。
ユヌカスとクブダールだ。朝の訓練から帰ってきたっぽい。
「ん?なんだ?この間報告のあった黒い生き物ってこれか?」
ユヌカスが、私の見つめているものに気がついた。
「動かないんだな」
ユヌカスがクロマをつつくとコロンと転がって、やっぱり動かない。
「さっきまで動いてたんだけど、目が欲しいって言うから竜の使いの目玉をあげたら、動かなくなっちゃったの」
「へえ」
ユヌカスが羽を掴んで持ち上げる。
「ダメだよそんな持ち方したら。クロマの羽がもげちゃう。かわいそうでしょ」
クロマを取り返そうとしたら、私から遠ざけるようにユヌカスが慌てて高く持ち上げる。
「これは危険だ。今、ごっそり魔力が抜かれたぞ」
『パ、パ?』
クロマが動いた。
「パパ?じゃないな」
ユヌカスは急に喋ったクロマにびっくりしたらしい。少し微妙な顔をして私を見た。
『ママ、ダ!』
目玉になったクロマが飛んでくる。
「クロマ、見える?」
『ウン、ママ、見エル』
なんとなく、嬉しそうな声だ。
そしてユヌカスを見ると少しななめに傾いて
『パパ、チガウ?』
次にクブダールを見て『パパ?』と傾いた。
「待て待て待て待て、なんでラメルがママなんだ?」
ユヌカスがクロマを捕まえる。
『クロマ、ママ、カラ生マレタ』
ユヌカスがワケがわからない、と呟くとさらにクロマが答える。
『クロマ、ママ、カラ出タ、塊。蘇リノ種、食ベテ動ケルヨウニ、ナッタ』
蘇りの種?
私がクロマに質問しようとしたらユヌカスが興奮気味に私を捕まえた。
「ラメル、卵を産んだのか?」
……。
私ポカーンだ。
今までもよくわからないことが多くて、それでも自分なりに頑張って適応してきたつもりだったんだけど。
「ユヌカス様」
リズが今までにないくらい非難めいた顔でユヌカスをたしなめる。
「卵を産むって何のことですか?」
とたん、部屋にいる人がみんな固まった。
リズやガーディアなんかは真っ赤だ。
「そ、そうか。ラメルの母はこの国の者ではなかったから、知らないかもしれないな」
ユヌカスはそう言うと嬉しそうに、そうかそうかと繰り返す。
「なんかユヌカスが変態っぽい顔になってる」
「ゴ、ゴホ。いや、ラメルも大人になったのかと思っただけだよ」
なんかユヌカス達の反応を見ていて、急にピンときた。
アレだ、私、女の子の日がきた感じなんだ。
お母さんとかがいたらお祝いしてもらえる感じなんだ。
それが、好きな男子のいる前で発覚するとか、なんだか恥ずかしくなってきた。
ど、ど、ど、どうしよう。
しかし、そんな空気はクロマの言葉で吹き飛んだ。
『ママ、クロマノパパ、コノ人ニスル!』
言われた本人も周りの人間も凍りついた。
何故にカイトウ。
っていうか、あれ?
こっちの子作りってどんな感じ?
誰に聞いたらいいのかな?




