49話 sideその時の僕ら
僕はイツクィン。
5番目の王子です。父上には17人の奥方がいますが、そのうちの12人は、臣下から望まれた貴族の奥方で、残りの5人は父上が平民から選んだ奥方です。
なんでも自分の子を産む素質がある、と直感したらしく、その5人ともが子をもうけたのですから、父上の感はすごいのだと思います。
そして、オクスィピト兄様は大変聡明で、国の困り事を人の気がつかぬ内に解決してしまう手腕をお持ちです。
人に悟られぬように流れを変えてしまうその素質は、王になれば賢王として名を残すでしょう。
また、ユヌカス兄様はあの若さにもかかわらず、外洋にも遠征に出掛けられる実力をお持ちです。外敵から国を護り、人を動かす天賦の才をお持ちです。王になれば強王として国は安泰するでしょう。
そんな飛び抜けた才能のある兄様を持った僕らは、兄様達を支えて国を繁栄させるためのお力になりたいと日々張り切っています。
まあ、もう1人王になる可能性があるとしたら、それはシチセプですね。一番末っ子のシチセプは、母親の身分が高いですから。
けれどシチセプも、兄様達を押し退けてまで王になろうなんて思ってないはずです。
そんなそぶりを少しでも見せたら、いつ死んでもおかしくないですからね。兄様達は優しいのですが、その側近が怖いのです。
特にオクスィピト兄様に執着している変態のランディンと、剣王と名高いカイトウとは目を合わせてもいけません。
なかなか子宝に恵まれないからか、僕たちの種族は還暦を迎えるまで、見た目がほとんどかわりません。
果たしてあの2人が何歳なのか、父上なら知っているのでしょうけど、怖くて聞き出せませんね。
そうこうしているうちに、クブダール様に連れられて街の外れまでやってきました。動きの緩慢な男達が何人もいます。
「ほら、ゾンビがいたぞ」
クブダール様が剣先で示すと、彼らがこちらに気付いたのか動き出しました。
「ところで先ほどから彼らをゾンビとおっしゃいますが、ゾンビとはなんですか?」
ヨッカルが聞きます。
「ラメルが言うには何度でも蘇るものらしいぞ。他にも何か定義があるらしいが、よくわからん」
倒されても倒されても立ち上がる、不屈の精神を持った者、ということでしょうか。
ゾンビ、すごいですね。
「お前達も何をボサッとしている。ゾンビに噛まれたら感染するらしいから、さっさと動けないようにしておけ」
クブダール様はそう言うと、ゾンビを1人蹴り倒し足で踏みつけ肋骨を折りました。
感染、ですか?
……少し思っていたものと違うかもしれません。
お優しい姫君が、殺さぬように連れて来て欲しいと願ったとかで、彼らは生け捕りすることが決まっているのです。
が、兵士の1人が本気でもって、ゾンビを斬りつけました。あれでは死んでしまうのではないでしょうか?
「こんなに鈍臭い者を、殺さなければ捉えられないとか兵士として力不足だな」
クブダール様に半笑いされた兵士は縮こまり、傷ついたゾンビを抱えました。
「すぐに姫様のところへ運んで参ります」
死ぬ前に姫君のところへ連れて行くことができれば助かるでしょう。
寿命ではどうにもなりませんが、病気やケガなら姫様に診ていただければ必ず助かる、という安心感は国民の心の支えになっています。
姫君は偉大なる大巫女様なのです。
しかし、あまりにもクブダール様が淡々と簡単そうに倒していくので、そういうものだと侮って向かったのが悪かったのでしょうか。
サントリオとヨッカル、そしてムーセクがあっと言う間にゾンビに組み伏せられてしまいました。
……噛まれたら感染すると言ってましたよね。
僕とシチセプは兄弟を助けようと向かいましたが、一太刀すら叩きこむこともできません。
シチセプが懐に飛び込んで、体重とスピードで1人を飛ばしました。
「よし、やったか!?」
が、彼らは痛みを感じないのか、すぐに起き上がってきます。
先ほどの兵士を笑えません。殺すつもりでいかなければ、やられるのはこちらです。
「飛ばしたらすぐに腕や足の一本でも折っておけ。そうしたら奴らは起き上がれないからな」
クブダール様は簡単におっしゃいますが、できるならもうやっています。
「そのぐらい、ラメルでもやれるぞ」
クブダール様が呆れた声をかけてきました。
……姫君は一体どんな怪物だと言うのですか。
もしそれが本当で、癒しも破壊も思いのままならば、この国の最強人物に違いないでしょう。
水の中で広がらないよう、キラキラする飾りを錘として編み込んだ銀髪に、控えめな笑顔。
ほっそりとして、いつもユヌカス兄様の後ろで守られている姫君を思い浮かべ首を振ります。
やはり姫君が簡単にゾンビを組み伏せられるわけがありません。
姫君のことをそんな風に言うなんて、クブダール様は意地悪ですね。
クブダール様はその後5人ほどバタバタと倒すと、僕らの訓練と称して見学しています。
僕らは5人、力を合わせて残りの2人をなんとか倒しました。
兵士がゾンビ達を担ぎ、神殿へと向かいます。
神殿へ着くと、ユヌカス兄様がゾンビを吹っ飛ばしていました。流石です。
しかし、あちらで姫君付きの使用人があのカイトウを倒しました。首を掴みズルズルと引きずって行きます。
……もしかして、姫君が強いという噂は、あの使用人のせいなのではないでしょうか?
安易ではありますが、名前で何人目の王子か想像していただけると助かります。
3番目だけがサンリ◯とかサント◯ーとか、名前に使えないよ!となって困りました
(=◇︎=;)




