46話 ゾンビ巻き
クブダールが次々に大きな塊を投げ入れてくる。
「外では、人攫いとしてクブダール様が恐れられているそうですよ」
だろうね。
ユヌカスと風間君も参加して、積まれた人間をマッパに剥いて紙に魔法陣の図面を拾っていく。
あ、弟ちゃん達だ。
「オクスィピト兄様、お手伝いすることがありますか?父上からお手伝いするように言われたのです」
弟ちゃん達は私より2〜3歳ほど下に5人もいる。
なのに女の子がいないとか不思議。
全部で男ばっかりの7人兄弟なんだって。みんなお母さんも違うしね。
子どものいない奥さんもいるらしいから、王様の生態は不明だ。
「ああ、ありがとう」
風間君が言うのと同時に、ランディンが口を開いた。
「神がかっているオクスィピト様の、邪魔にならない自信のある厚顔な方はこちらでお手伝いください」
それ、邪魔だって言ってるよね。暗にじゃなくて、モロに言ってるよね。
弟ちゃん達は顔を引きつらせた。
「あと手伝ってもいいが、ラメルに話しかけるのも話しかけられるのも禁止だ」
ユヌカスがゆっくりと見渡す。
「喋るのくらいよくない?」
「ダメだ。あいつらは俺よりラメルに年が近い。警戒するに越したことはない」
弟ちゃん達、唾を飲み込んだ。
と、クブダールがやって来て、次の荷物を降ろした。
「なんだ、こいつら邪魔なのか?仕方ないな、ついてこい。ゾンビ狩りを仕込んでやろう」
あ、黒人間、ゾンビって呼ばれ始めちゃった。
「別に死んでるわけじゃないし、腐ってもないからゾンビじゃないんだけど」
「何度処理しても蘇るんだから、ラメルが教えてくれた通りゾンビだろう」
いや違う。
確かに何度も繰り返し魔法陣が浮き出てきて一向に終わらないけど、アレと一緒にするのはかわいそうだろ。
目に涙を浮かべた弟ちゃん達、クブダールに回収されていった。
「こっちも人手が足りないんだから、手伝ってもらうくらいよかったのではないか?」
風間君が言いながら、図面を拾い終わった人間を私の前に並べる。
「兄上なら安心だからいいのだ」
ユヌカスはゾンビが自決できないよう猿轡をする。
「そうか?お前と同じ年齢だし、何がどう転ぶかわからないだろう?ラメルのことはかわいいと思ってるんだぞ」
あまり油断するなよ、と風間君が不敵に笑った。
私かわいいんだって、ムフフ。
ユヌカスは私の前で暴れないよう、ゾンビの縄でグルグル巻き巻き製作をはじめた。人はこれを過剰防衛という。
「兄上がラメルのことを気に入っていたとしても、その先へ進展することは、絶っっっっ対ないから大丈夫だ」
それは風間君の変態ぶりに、私が惚れることはないと言う信頼の意味なんだよね?
ゾンビの服を喜々として剥がしている、ランディンの満面の笑みを見て判断したわけじゃないよね?
風間君は「?そうか、ラブラブだな」って引きつった。
なんだか流れ作業化してきたが、それを処理……いや治療すると、正気を戻した人達が、次の治療を手伝ってくれる。
服を脱がせたり、暴れてるのを押さえたり。
神殿が賑やかだな〜。
と、服を剥がされた一部のゾンビが縄に縛られる前に逃げ出した。
一斉にカイトウの方へ向かう。
こちらに背を向けて魔法陣を紙に拾っていたカイトウは、一瞬反応が遅れた。
ギャ〜、噛み付いてる!ゾンビだ、本当にゾンビになっちゃった!
「お前ら、やめろ!!」
ユヌカスが怒鳴るのと同時に、ゾンビが吹っ飛んだ。
ユヌカス、いつの間に気功なんぞできるようになったのか。ユヌカスが一番驚いてるけども。
片膝をついてぐったりしているカイトウの側に、ガーディアが走り寄る。
「姫様、カイトウ様のお手当てを」
私は頷いた。
まずは噛まれたところを殺菌しなくちゃ。ゾンビ化したらいけないもんね。
カイトウの傷口に手を当てる。あれ?魔法陣は出てないけど、同じ気配がするよ。
もしかして、本当に感染してしまったのかも?
でも魔法陣が出てないから、どう治療したらいいかわからない。う〜む。
胸の中心に黒い気配が固まっているような感じがあるね。分解して分散くらいならさせられそう。
むむむ。
入念に手当てをしていたら気がついた。
「カイトウ、顔色が悪過ぎですよ」
「そうなのだ。最近の騒動でずっと不寝番を譲らない。言っても聞かんし、ここ10日ぼど寝ていないんだ」
それはダメだね。
「人は10日も寝ないでいられないでしょう。部屋を貸し出しますから少し寝てきなさい。今ならユヌカスの護衛が他にもいて安心ですよ」
と、ギリッと睨まれる。
「先の遠征では10日ほど寝ないで戦ったこともあります。問題はありません」
先の遠征って、私が生まれる前の大遠征のことだよね?
父様が母様の元にお婿に行くことになった原因のやつ。
あれ?カイトウって何歳なんだろ。
ほややんと考えているうちにガーディアがカイトウをまとめ上げた。
「姫様、カイトウ様をお休みさせてきますね」
首根っこを掴むと引きずって歩き出した。
「寝るまで、逃げ出さないように見張りをお願いします」
声をかけると、ガーディアに気合が入った。
あ、余計な一言だったかもしれない。




