44話 プロポーズ
ユヌカスが風間君に絵をプレゼントすると、私の前にも小さな箱を置いた。
「ラメル、誕生日おめでとう。4年後の今日、俺と一緒になって欲しい」
箱を開けると、中には飾りの多い指輪が入っている。
もしかしてプロポーズ?
え?本当に?
私今、キラキラした顔でユヌカスをみつめてると思う。
「兄上に、ラメルの誕生日に求婚すると言ったら、その時には指輪を用意するものだと言われたのだ」
照れながら私の指にはめてくれる。
え、なんか嬉しい!
日本時代の記憶にある物に比べると随分豪華だけど、お貴族様だもん。こんなもんかもしれない。
「魔力を込めて拳を突き出すと、前方30ミートルくらい燃えるらしいんだ」
は?
聞き間違いかな、と表情を止めてみる。
「ラメルは魔力持ちだしいいかなと思って。ちゃんと給与の3カ月分のものを用意したんだけど、装備が物足りなかったか?」
不安そうにこちらを見てる。
いやいや。給与の3カ月分って、地球の普通の人の話だからね。
王子様の3カ月分って、何?
……そりゃ指輪も火を噴くわ。
っていうか、そもそもプロポーズに手渡す指輪に装備ってなんだ。
ま、まあでも嬉しいよ。
「ありがとう」
「火を噴く指輪なんてあるんだな。僕はそんなに火力は無くていいから、ハンダゴテが欲しいんだよな」
少し作業をしたいだけなら、確かにこの指輪は危険だ。
「モノクリツだったら売ってそうだけど」
細工物を作って売ってるのだから、それっぽい物があると思う。
「どういった物ですか?」
ランディンさんが興味を持ったように会話に参加した。
「こういう形でな、ここが熱くなるのだ。金属を加工するのに使いたいんだが」
ふむ、と顎に手を当てたランディンさんには心当たりがありそうだ。
「コーピト族の道具の中に、そういった物がありますね」
「本当か!?」
風間君が食いついた。
「お探ししましょうか?」
ランディンが笑顔で風間君に提案してる。笑顔が胡散臭く見えるのは私だけかな。
「ランディンはコーピト族に繋がりがあるのか?滅多に会うことのできない幻の一族だろう」
関心したようにユヌカスが述べる。
「そうなのです。だから、何もなくお譲りはできないのですが」
「いくらだ?」
風間君、よっぽど欲しいんだね。
「こういう形になっていまして、ここに火属性の魔石をはめます。と、ここから溶けた金属が出てくる物なのですが」
お求めの物はこれでいいですか?とランディンさんが確認をとる。
筒の中に金属を入れちゃう物になるらしい。
風間君がにっこにこだ。うんうん、だ。
「では甘えて要求してください」
急にランディンさんが意味不明になった。
「金ならあるぞ?」
強請って取ったりしないぞ、と風間君。人間性を疑われて、ちょっとご機嫌ななめだ。
「私がお金に困っているとでも?」
確かにランディンさん、お金持ちっぽいね。
「私が欲しいのはお金ではないのです。癒しが欲しいのですよ」
いやし、とな。
「ならば、ラメルの方がよくないか?」
風間君がこっちを見たら、ユヌカスに拘束された。
引っ張られて膝の上にちょこん、だ。
「貸し出しませんよ」
うほ、イケメンに愛されてる。鼻血出そう。
「ああ、それいいですね」
ランディンさんがうっとりした。
空いている椅子に腰掛けると、膝をポンポン。
視線は風間君に固定されている。
まさかな、まさかだよね?
よく考えてみ?
私とユヌカスですら、人前でギリギリセウトなこの行為。15歳の少年の膝の上に11歳の少女とか、ダメじゃん?
ランディンと風間君だと、20歳そこそこの男性の膝の上に15歳の青年……。
きっとユヌカスと私は同じことを思ったはず。
「私、行ってこようか?」
「お、おう」
「ダメですよ!私が行きます」
いつ来たんだ、ガーディア。よっぽど急いで来たのか、まだ髪がしっとりとしている。
出ようとするガーディアを必死で捕まえるカイトウ。
あ、カイトウがいつも通りになってる。黒くない。
蹴られはじめた。……嬉しそう。
「そこ、うるさいですよ」
黒笑顔にはっきりと邪魔と浮かべたランディンさん、コワイ。
これはもう断れまい。
「お兄ちゃん、恥ずかしいだろうから私達帰ろうか?」
見られたくないよね。見たくないよね。お互いの利害が一致した。が、
「いや、むしろこの場から離れない方がいいと思われます」
仏顔のカイトウに助言された。なんで?
頭に疑問をいっぱい浮かべていたら、風間君が断腸の思いいっぱいの声を絞り出した。
「ハンダゴテを諦めようとオモイマス」
おお、風間君が『ガマンする』を取得した。
お兄ちゃんが人として成長する姿を見て、涙が出てきたよ。
決して無言で座っているランディンさんがコワイからではないからね。
ちょっとバレンタインっぽいお話を、と思ったのですが、甘くなりませんでしたね
(=◇︎=;)




