43話 回診
午後の回診にやってきたら、ラトゥイが1人でベッドに座れるようになるまで回復していた。
赤い記号が出た後だから、心配で時々様子を見にきているんだよ。
そして、ガーディアが学校に通いはじめた。神殿の子は外に出ることがあまりないから、海に出るのは時間がかかるかもしれないとは思っている。でもガーディアだしどうだろうか。
そんなことで、今日ついてきてくれているのはリズだ。リズは言葉は少ないが、気の利く美人さんだ。
なんで結婚しないのかと思うほど。
部屋に入った私たちに気がついたか、ラトゥイが微笑んだ。なんだか元気そうだ、よかった。
「お加減はいかがでしょう」
ラトゥイに近寄ると、いつも通り跪いて魔力を通し体内を観察しようと手をとった。
「姫様、いけません。わたくしが跪き姫様の手に額を寄せますから」
ラトゥイがベッドから降りて屈もうとする。
声が出るようになってる〜、じゃなくて、待て待て、急にどうした?
「まだラトゥイ様は全快ではありませんから、どうぞそのままで」
私の意を汲んでリズがラトゥイをおさえてくれる。
「ラトゥイ様は、またこうしてオクスィピト様と生活できるようになったことを殊の外感謝しておいででして、ラメル様を神聖視してるのですよ」
ラトゥイ付きのセロリアがふんわりと微笑んだ。
ベッドの上のラトゥイに手を貸すと、ゆったりとしたソファまで移動させる。
「ですが、ラメル様を困らせてもいけません。こちらでお二人共、椅子にお座りになってされたらいかがですか」
そうだよね。普通の病院みたいでいいんだよね。
よっこらしょ、と。わーい、ふかふかだ、ムフフ。
「やっぱりいけません。姫様より高い位置にいるではありませんか」
成人済みのラトゥイと、まだまだ子供の私では座高の高さに差ができる。
動揺したラトゥイが慌ててその場に跪こうとした。
いいかげん、面倒になってきたぞ。
「エイ!」
ゴチっとデコを強引に合わせ、座るラトゥイの上に私が覆い被さった。ラトゥイは涙目だ。
そのまま椅子に押さえつけて目を閉じる。ラトゥイの手を握りこんで勝手にお祈りポーズをとった。
違和感バリバリだけどもういいや。
それにこんな時しか頭の中なんて観察できないことに気がついた。
ずっと寝ていたんだもん、隅から隅まで検診した方がいいよね。
うん、今日は脳の診察しようぜ。
ラトゥイの頭の中に、血の巡りが極端にゆっくりなところがある。異物を取り除き綺麗にすると、血の巡りが正常になっていく。
もしかしたら、脳梗塞っぽい症状もあったのかな?
ドン!ガラ、ガン!
主に右の方に緩やかな場所が固まっているようだと、重点的に治療を施していたら何かが落ちた音がした。
ゆっくりと薄く目を開ける。
「オクスィピト?」
ラトゥイが目をパチクリしている。
私もラトゥイから離れてそちらをみた。
風間君、顔を赤くして手で口を隠しているね。
どうしたんだろ。
あ、鼻血出てきたよ。
「大丈夫?」
声をかけたら「そのままでいろ!」だって。
「美女と美少女が目を閉じて顔を寄せてるとか、なんて2次元萌え」
片方が母親じゃなかったらもっとよかったのに、って
おい、風間。
心配して損したよ!
「ラトゥイの頭の中より、お兄ちゃんの頭の中の方が大変かもしれない」
ラトゥイの頭の中は血の巡りが悪かったけど、風間君の頭の中は速すぎるに違いない。
がっつり止めてあげよう、フフフ。
風間君に近づいておでこを合わせようとしたら、後から入ってきたユヌカスに持ち上げられた。
「たとえ兄上でも他の男と近くにいると、いろいろ我慢してるものが飛んじゃうからやめて?」
目が笑ってない。コワイ。
最近ユヌカスがクブダール化してきた気がする、ブルッ。
できれば少し脳筋で、真っ直ぐわかりやすいユヌカスがいいです。
だからだろうか?カイトウも少し違う。黒い物がふよふよと舞っている雰囲気だ。
ちょっとした違和感に首を傾げながら、セロリアさんに誘われてユヌカスも風間君も席についた。
「お兄ちゃんはもう少し自分を抑えないと、結婚できないと思いますよ」
あんなに頭がいいと思って尊敬してたこともあるのに、今ではただの変態だよ。
「いや、一度見たものをインストールしてもらったから、萌え本もしっかり覚えていてだな」
くぅ、前世の風間君がダメすぎる。
「いや、今のお前達がこんなでな」
萌えるだろ?と、机の上の紙にサラサラと描いた風間君の絵がひどい。
「あんなに図面を引くのが神がかってるお兄ちゃんの絵が、人物画になると酷すぎるんですけど」
仕方ないな。
風間君の欲しいのはこうじゃろ?とラトゥイを萌えっぽく描く。我ながらむっちゃ上手くいった。
目がキラッキラ美少女っと。
「すげ〜な」
風間君にも褒められた、ムフフ。
あ、あれ?みんなの目が死んでいる。
なんとか生き返ったらしいユヌカスが紙とペンを手にした。
「兄上は、ラトゥイ様とラメルの絵が欲しいのですか?」
言うとユヌカスが描いた絵の種類が違いすぎた。
風間君の絵が小学生の落書きなら、私の絵はライトノベルとかの挿絵だ。
そしてユヌカスの絵は宗教画だった。
いや、わかるよ。レベルの違いをヒシヒシと感じるよ。
けど、風間君の欲しいの、多分それじゃない。
「僕の煩悩を滅する方法を教えてください」
目に涙を浮かべた風間君の口から、ふわりと魂が出た。
一度見たものを忘れられないっていうのも、案外かわいそうなのかもしれない。




