42話 照れる
お城で鬱々することが流行っているのだろうか。
目の前に体育座りした何かがいる。
ラトゥイに会いに来たはずなんだけど、カイトウに違う部屋に引きずり込まれたら、膝の間に顔を突っ込んで鬱々しているユヌカスがいた。
何日も会ってないなと思ってたら、こんなところで凹んでいたらしい。
「姫様の行き先を遮るなんて、なんて不敬なんでしょう」
後ろではガーディアに足蹴にされているカイトウもいる。
もう振り返らないことに決めた。
でも前も面倒くさそうだ。
ユヌカスもお母さんとか調子悪かったっけ?
いや、ディニテはむっちゃ元気だったな。
じゃあなんだろ。
え〜と元気になる方法は、
「困ったお兄ちゃんですね〜?」
ガバッと顔を上げたユヌカスがぶわっと泣き出した。
え?なんで?
風間君、むっちゃ喜んでたよ?
「ラメルにとって、俺は兄なのか?」
顔!イケメンが汁だらけだよ。
「あ、え〜と、お兄ちゃんって思ったことは特にないけども」
風間君があんなに喜ぶから、ユヌカスも喜ぶのかと思ったら違ってたらしい。
「よかった」
ちょっと肩の力が抜けた顔になった。
「兄上に言われるまで考えたこともなかったんだ」
風間君が何を言ったのかな?
「父上を見ても複数の妻を得るのが義務だと信じていたし」
あ、その話か。そういえば、ユヌカスのお父さんって何人の奥さんがいるんだろうね。
「ラメルはずっと自分1人とだけ結婚してくれる人がいいって言ってたのにな。複数の妻を得ても、一番大切なのはラメルだ。それを理解してもらえる妻だけ娶り、ラメルと1日おきに通えば何も問題はないと思ってたんだ」
帝がいるよ!ここに平安時代の帝がいるよ!
「私は夫婦2人、平等なのがいいの。条件が同じのがいいだけなんだよ。ユヌカスが奥さんを2人もらうなら、私も旦那様を2人もらうみたいなの」
ちょっと違うな。説明が難しい。
ってどうした。
ユヌカスが沈んでいく。顔が見たことないくらい死んでるよ!
ど、ど、ど、ど、どうしよう。
これはあかん。私、何を間違えたんだろ。
「えと、ほらユヌカスはもう成人してるから、別に結婚しちゃってもいいんじゃない?」
あれだあれ。ユヌカスはもう15歳で、いろいろ我慢できないお年頃なんだわ、きっと。
「よく考えたら私が成人するまで待ってたら20歳になっちゃうもんね」
そりゃかわいそうだ。周りのお友達はみんなかわいいお嫁さんをもらってるのに、ユヌカスだけ独り身とか。
そうやって考えると、私、結構ひどいことしてたのかも。けれど、奥さん2人とかはやっぱりヤダ。
うん。
「ユヌカスも年の近い奥さんをもらうといいよ。私も年の近い旦那様をもらうことにしたわ!」
決定!今人生のルートが一つ決まりました。
って、え?
がっしりと肩を掴まれ、グイグイ押されてる。
踏ん張れなくて、ちょっとずつ後ずさったら背中に壁がくっついた。
「ラメルは少しも俺のこと好きじゃない?」
ものすごっつ低い声にビビって、私は首をプルプル横に振る。
「じゃあ、少しは好き?」
今度は縦に。
おお!蕩けるような笑みが浮かびましたぞ。
今日初めての笑顔でないかい?
は〜、よかった、よかった。さてユヌカスが元気になったっぽいし、帰るか。
……ってか、帰して!
がっちり掴んだ肩を離してくれない。
か、顔が近い。
お主、何かまだ申したい事でもあるのかの?
恐る恐る上目遣いでユヌカスを見ると、髪を引っ張ってグイッと顔ごと上向きにされた。
もう片方の腕が腰に回されて逃げられない。
「ラメル」
「へい!」
反射的に変な声出た!恥ずい。
ユヌカスも深〜くため息をついた。と、周りにあった重たい空気は無くなった。
グッジョブ、私!
「ラメルが他の誰かのものになっちゃうくらいなら、5年くらい我慢できるよ。一生ラメル1人でいい。それなら俺のこと好きになってくれる?」
それならいう事ない。
もともとユヌカスのことはかっこいいと思ってたんだもん。
きちんと頷く。
おずおずとユヌカスの手に自分の手を重ねる。
ユヌカスが優しい雰囲気に戻った。これで私達仲良しになっただにゃ、ムフ。
ところで、2人の意思が確認できたところで聞いてもいいですか?
ずっと視線の端っこに映っていて、気になって仕方なかったんだよ。
「ねえ、ユヌカス。なんでカイトウは縛られて喜んでるのかな」
なんでガーディアはカイトウを亀甲縛りしてるのかな。
「……見ちゃいけません」
目隠しされた私は、そのままユヌカスに抱き上げられて部屋に帰ったとさ。
めでたし、めでた……くないよ!
ガーディア!?




