41話 手術
奥の部屋に入ると儚げ美人がベッドの上に横たわっている。
「もう10年ほどこのままなのです」
儚げ美人の腕が傷だらけだ。手を当てて滑らせながら傷痕を消していく。
「なぜこんなに傷だらけなのですか?」
「僕が母上の血液を採取して調べたからだよ」
そっか。あまり医療が発達していないから、飲み薬や塗り薬くらいしか治療法がないに等しい。
そんな環境の中で原因を調べるのは大変だっただろうな。
「そしたら、血液の形が変化していることがわかったんだ。新しく血液を作ることが難しい血液の形で、結果重度の貧血状態になったと考えている」
ってことは、ひとまず輸血すればいいってことかな?
血液を入れることができれば、時間稼ぎにはなるよね。
けれど今まで治療してきた人達は、流れてしまった自分の血液を戻してあげていただけなんだよね。
だがラトゥイはその血液がない。
どうしよう。
そもそも血液型とかないのかな。みんな同じ?それとも違う?
う〜ん、血液、血液ねえ。
みんなが同じ血液型なら、みんなから少しずつ回収してもいいけど、アレむっちゃ痛いんだよ。
普通に剣で傷つけて採取した方が痛くないと思う。
ん〜、あ!
高値で取り引きされる血液ならあるじゃん。
高値で取り引きされるくらいだから、いけるんじゃない?
竜の使いの血液。
きっと何か凄い効果を持っているに違いない。
私達って人間じゃなくて魚かも疑惑もあることだし、大丈夫な気がする。
ムフフフ。
それに少しだけ入れてみて、ダメだ危険だと思ったら、またすぐ分解吸収すればいいんだし〜。
いける気がする。
このヒラメキ。私、天才かもしれない。
他に方法が思いつかないんだから、ひとまずやってみよっと。
ラトゥイの手を握り、私のおでこにつけて魔力をこめる。
「さすがはラメル様ですね。祈る姿が美しいです」
へ?
ガーディアがおかしなこと言い始めた。
集中できないからやめて!
単にベッドに横になっている人と手を繋ぐのに、跪いた方が楽そうと思っただけなのだ。
この行為に高尚な意味は皆無なのよ!
ガーディアの反応に変な汗をかきながら、ラトゥイの体内に少しずつ竜の使いの血液を流していく。
魔力とともに掛け合わせると、もともとのラトゥイの血液の記号から棒が増えて、竜の使いの血液と結合を始めた。
これはいいこと?それとも悪いこと?
内心の不安を隠して、少しずつゆっくりと時間をかけて結合血液を増やしていく。
と、急に赤い記号になった。
慌てて魔力を流すのを止める。
赤い記号なんて出てくるから、心臓がバックンバックンいっている。
目をあけてラトゥイを見ると、顔色がよくなっている気がする。
赤色記号に驚いた私の顔色は多分真っ青だけど。
「姫様、お疲れになりましたか。少しこちらで休まれる方が」
リズに手を引かれ立ち上がる。
と、ラトゥイが薄っすらと目を開けた。
「……、……」
口を動かして何か言おうとしているけど、聞き取れない。
風間君が走り寄って耳を近づけた。
風間君の姿を見て、私は反省した。
私にとって、父様や母様はどんな存在だったんだろうか。こんなに風間君みたいに家族だと思っていただろうか。
こっちに渡ってきた後の私にとって、それでも濃い家族と思える人は、お母さんだけだった気がするのだ。
ぼ〜っと眺めていたら、風間君に力一杯抱きしめられた。
ってか、潰れる。
え、何?
さっきの仕返しなの?実は激怒だった?
軽くパニックになった私の肩が濡れてきた。
お、怒っていたわけではないっぽい。
が、泣いてる男子の慰め方がわからない。
つまり、私のパニックも止まらない。
肩口で「ありがとう」ってぐもった声がする。
「ほら私、大巫女様ですからね。ご祈祷くらいちょちょいのちょいなのですよ」
だからね、落ち着こう?
さすがに私も潰れちゃいますよ。
「ひとまず椅子に座りましょう?」
と、さらにぎゅっとされる。
嫌なの?椅子に座るの嫌なのね?
背中に回した手でポンポンしてみる。
落ち着いたか?
「はあ、困ったお兄ちゃんですね〜」
途端、バッと顔を上げた。
「もう一回言って」
「は?」
「もう一回」
「え、と。困ったお兄ちゃんですね〜?」
痛い痛い痛い痛い!
力緩めて!
「萌える」
ってお前!私の感動返して!




