34話 愛剣は双剣
おかしなことに、私は今剣を握っている。
水中回避法の認定をもらったら、陸でやる勉強のお部屋に行くはずだったんだけど、もらったのはペンではなくて剣だった。
なんで?
そして教えてくれる先生は、クブダールだ。
剣を抜いて藁で作られた的を切る。
ただそれだけのことなんどけど、クブダールがやるとジュッと音がした後、塵も残らない。
「やってみろ」
って無理に決まってるじゃん!
なんで?
なんで剣の先生がクブダールになったの?
竜の使いを一瞬で倒せる生徒を、教えられる教師などおりません、ってどういうこと?
じゃあ、別に兵士のコース取らなくてもよくない?
警急時に資格のないものを帯同するのは手続きが大変ですから、持っていてくださると助かります、って?
なんだかモヤッとするのだが。
まず、そもそも剣が重い。
よくみんな、背中に背負ってるのをスッと抜いて構えることができるもんだ。
「もう少し軽い剣はないでしょうか?」
ズルズルと剣を地面に引きずって歩く、9歳の少女を見て思うことはないですか。
あの時のマリンって、よくユヌカスの護衛剣士やってたよね。今になって尊敬してる。
「軽い剣はあるが、強度がないぞ」
クブダールが空間の中から、いくつか見繕ってくれる。
これは軽いけど、ドクロみたいのついててコワイからヤダ。
これは軽いけど、デカすぎて背中に背負えないからボツ。
これ、どうだろう。細くて小さい。背中に背負うタイプではなさそうだけど、どうだろう。泳ぐ時に邪魔になるかなあ。
「それがいいのか?」
「うん、これにする。ありがとう」
お父さん、ってギリギリ聞こえる小さい声でクブダールに囁いてみる。
一部の人以外はクブダールがお父さんって知らないもんね。
目を見開いたクブダールが、いそいそと私の身体にセッティングしはじめた。
ロングブーツを空間から出すと、なんかいろんな飾りをつけて剣をブーツに収納する。
「このまま泳ぐことができるタイプだ。うん、か、かわいいぞ」
クブダールがデレてる。
おおう。世の中のお父さんって、かわいい生き物だったんだな。
クブダールの気持ちが嬉しいから、これにすることに決定した。
両足に装填した、双剣だ。
まずは1本ずつ使えるようにならねば。
剣を抜いて的を切りつけるが、剣が細い上に、私の力がないから、表面しか切れない。
「剣の強度ってどうやったらあがるかなあ。私が力持ちになればいいかな?」
腕立て?それとも素振りのスピード?
「だ、ダメだ。せっかくシルヴィアに似てかわいいのだから、筋肉モリモリ、イケマセン」
お、おう。なんかクブダールが女性像に夢見てる。
意外と恋愛経験少なめとみた。
ではなくて。
「クブダールはどうやってあんなの切ってるの?」
「俺か?俺は、あ〜神力……魔力で切ってるな」
なるほど!それならできそう。
剣に魔力をまとわせてみる。
クブダールが的を焼き尽くしちゃってたから、無意識に火属性の魔力をまとわせたらしい。
剣がうっすらピンクに光ってる。
なんかかわいい!
えい!
的に向かって振ってみた。
的、燃え尽きた。
性能はかわいくなかった。ガクブル。
「さすがラメルさんは、先生がやった通りにできてしまいましたね〜」
兵士用の担当先生が遠い目をして認定してくれた。
「剣は毎日の鍛錬が必要だ。これからは毎日一緒に練習しないとな」
一緒に、ってクブダールがものすごく嬉しそうに強調した。
え、なに?
クブダールって親子の団欒したかったの?
気がつかなかったわ〜。




