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33話 竜の使い

なぜか両脇に護衛をつけて海の中を進んでいく図になった。


『1人で海から街まで帰れるよ』の試験なのに、スタートから失敗している気がする。

まあ、今日中に私まで順番が回ってくるかわからないけど。


試験は海の中の大きな岩がスタート地点。街中の水路まで一気に帰るか、遭遇した敵を排除して水路に戻るかできれば認定してもらえるのだ。

速さか強さ、どちらかが必要だ。


基本的には長く教室に通っている人から試験がはじまるから、私の番はまだまだ後だ。

元々の素質がものすごくあっても、経験値が少ないと後々危ないことになるかもしれないから、長く学んできた人から試験、というのは一理ある。

特に兵士希望の人とかは下積みとか経験が多い方がいいだろうし。


スルメイ君はどのグループに入ったとしても古参組になるから、一回分の魔力込み漁師道具をお父さんが貸してくれたんだって。


「漁師の卵として、大物は無理でも魚の群れを連れて帰りたい」

気合い一杯だね。

アンクレットを足につけると魔力を放流し始める。

魔力は魚を引き寄せる餌になるんだって。

ってことはスルメイ君、囮なの?

え?人間が囮になって漁業するの?

私達、本当に人間なんだよね?


スルメイ君は、?マークがいっぱい浮かんでいる私の前をスタートした。

大きな岩を1周して周りを伺っていたスルメイ君が、一気に街に向かって泳ぎ出した。


あ、なんかの魚がスルメイ君の後ろの方を追いかけてる。

ん?なんか大きくない?

横を見るとルルウちゃんが真っ青だ。

「なんでこんなところにサメーラがいるのよ」

「あれ、カーブリじゃない?」

確かに大きいけど、私よりも小さいよ。サメーラほど大きくない。

あ、スルメイ君追いつかれて足に食いつかれた。

だから、捕縛具みたいにしっかりしたつくりなんだね。


「そ、そうじゃないわよ。その後ろよ!」

後方にサメーラが5匹くらい現れた。


スルメイ君も気がついたのか、さらにスピードが上がった。顔が引きつっている。


あれ?サメーラって群れるっけ?

聞いたことない。

ユヌカスとクブダールが岩場から飛び出してスルメイ君を逃がせるようにサメーラと対峙しながら街の方に行ってしまった。


2、3分して隠れていた岩場から先生が顔を出した。

「それにしてもユヌカス達がいてよかったですね」

あの2人がいるなら大丈夫だろう。


ルルウちゃんを安心させてあげようと明るい声で話しかけたのに、ルルウちゃんがガタガタと震え出した。

先生や他の子達もだ。

先生が、海の上に向けて筒を投げる。

海の中を高く昇り空気に触れると、大きな音と共に閃光を放つ。


「ラ、ラメルさん。もっと後ろに気がつかない?」

何かいるかな?私、目が悪いのかよく見えない。

「みんな目がいいね」

「何、呑気なこと言ってるのよ!」

「全員退避だ!」

先生の号令で一斉に街に向かって泳ぎ出す。

サメーラに追いついてはいけないし、後ろの何かに追いつかれてもいけない。


「前方のサメーラ。後方の竜の使い、だと?」

竜の使いって、あの深海にいるヒラヒラ長いお魚かな。

見てみたい。

ちょっと後ろを見てみた。

見なきゃよかった。


おでこのところに尖った角が付いていて、角の下に大きな目があるでっかい魚が、海を揺らしながら猛スピードで向かってきてる。

普通にコワイ。


「竜の使いなんてここ30年くらい見てないぞ。ここにいるのが兵士ばかりなら、いい素材狩りになるんだがな」

先生は腹をくくったように海の真ん中で止まった。


「お前達はこのまま街に向かえ。前方のサメーラの群れはユヌカス様とクブダール様がなんとかしてくれているはずだ」

ここにいるよりも生存率は高そうだ。でも

「先生はどうするんですか」

生徒の1人が小さな声をだす。


「お前達が街に入ったのを確かめたら、もちろん帰るさ。救援要請してあるから、そのうち援軍も来るだろう」

それまで竜の使いを引き止める、とは口に出さないけどそのぐらいは伝わるよ。


先生は街の方を確認すると、肩の力をぬいた。

まだ、安心はできないけど、援軍がこっちにきているのが見える。

竜の使いとどちらが速いだろうか。


でも援軍が来ているなら大丈夫そうだ。

だってユヌカスもクブダールもいるんだもん。

私もちょっと気を抜いた。


そしたら先生がいい素材って言ってたの思い出して、なんか気になってきた。

「先生、竜の使いっていい素材が取れるんですか?」

みんなの目が緊急時に何を言っているのかってなっている。

「鱗や骨、血なんかは高値で売れるから、いい素材なんじゃないか?」

答えながら先生は背中から剣を引き抜き、いよいよはっきり見えるようになった竜の使いに臨戦態勢をとる。


私達は邪魔にならないように下がった方がよさそうだ。先生を気にしながら街に向かって泳ぎ出す。

男の子達は自分の持っている短剣を構えて、私達を囲みながら泳いでいく。

ルルウちゃんが「取り乱さずに護られるのも私達の仕事ですよ」なんて周りの女の子に声をかけていたりして感心した。


そうこうしているうちに追いついてしまった竜の使いに、先生がぶつかるように剣を押し当てた。と、竜の使いが先生に噛み付く。

けれど、海の中を泳ぐ時に着る、黒い服は簡単には牙を通さないらしい。

なるほど、防御重視ってこういうことか。

あ、でも先生の腕の辺りから赤色が流れ始めてる。さすがに普通のお魚ではなかったらしい。


私は泳ぎを止めた。

このまま街に帰っていいのかな。

私、後悔しない?


クルクルと回旋する先生と竜の使い。

身体をしならせて体当たりした竜の使いの勢いで、先生の身体が飛ばされた。

竜の使いが大きな口を開けて先生を追いかける。


食べられちゃう!


何か、私にできること。考えろ!

いくら大きな魚でも、骨を抜いちゃったら動けなくなるんじゃない?

思い付いてしまった私は、みんなの制止の声も聞こえない。

先生を追いかける竜の使いを追いかける。

スピードには自信あるのだ。

しっぽのところになんとか届くと魔力を流す。

骨抜きの竜の使いに、なったはず。


でもまだ、変な風に動いている。竜の使いの動きが止まらない。

えっと、えっと、血!血を抜いたら貧血になるかも!

えい!

ぐいっとしっぽを引っ張りながら魔力を流す。

竜の使いがグテ〜っとなった。

止まった!止まったよ!やったあ!


嬉しくなった私には、この子が急に素材の塊に見えてきた。じゅる。

じゃあ、大人しくなったところで、鱗、いただきます。

もう1度魔力を流すと、大きな白身魚になった。

なんかおいしそうじゃない?


みんなの方を振り向いたら、みんながポカーンと止まったまま動かない。


えっと、早く先生を救護室に連れて行かないと可哀想だと思うんだけど、救援隊の人達って何しにきたのかな。




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