29話 料理の腕前は
鬱陶しい。
何がって?
私の部屋の隅っこで膝を抱えてるクブダールが、だよ。
「シルヴィアに会ってもらえない。何度行ってもどこにもいない」
ああ、うん。お母さんアレスのところに行っちゃったもんね。
「クブダールって神様に愛されてないよね~」
タイミングが悪すぎだよ。
クブダールがすごい衝撃を受けた顔をしてガン見してくる。
「シ、シルヴィアに愛されてない……?」
「違う!違う!違うから!」
クブダールもシルヴィアも神様だから、普通の言い回しの言葉が通じないよ!
「ちゃんと愛されてる、(はずだ)から!」
ジト目のクブダールを励ます方法はないものか。
こんなに面倒ならお母さんに押し付けておけばよかったよ。
「お母さん、ちょっとの間用事があって留守にしてるの。だから、お母さんが帰ってくるまでに、お母さん好みになれるよう努力してみたらいいんじゃないかな」
「シルヴィア好み?」
思い付きで言ってみたけど、なかなかにいい案だと思う。
「そうよ。クブダールの身長も、私が見つけた時は私より低かったのに、今は同じくらいになったじゃない?」
私よりも頭1つ分小さかった子が、ものの何カ月で同じになったんだもん。すごい成長率よね。
「少なくとも、自分よりはるかに小さな子に恋心は抱かないわ、私なら」
クブダールは立ち上がって自分の容姿を確認する。
「あの野郎、今度会ったらぶっ殺す」
とかいうクブダールの不穏な呟きはもちろん聞こえてないから!
「こ、今度会うまでに大きくなって、お料理とかもできるようにならないと」
「……なぜ?」
全く想定してなかっただろう提案に、瞬きを繰り返すクブダール。
「家族ごっこをするのが、お母さんの夢だからよ」
たぶん。
2人でご飯作ったり、2人でお出かけしたり。
地球でのあの暮らしが、お母さんの理想なんだと思う。
懐かしさに思いを馳せていると、クブダールがぎゅうっとしてきた。
「もう1人にしない」
ってな。
……ほだされないわ〜。
私、この間殺されかけたもんな。
思わず遠い目をしてしまう。
けどまあ、これがこの間の親子ゲンカに対する仲直りの言葉だと思えば、久々に人の温もりを堪能するのもいいかなという気持ちになった。
ぎゅう。
少し落ち着いて、さっきの話をまに受けたクブダールが調理場に行ってしまうと、ガーディアやリブ達が静かに近づいてきた。
「姫様はユヌカス様とクブダール様のどちらを選ばれるおつもりですか?」
周りを気にした風に小さな声だ。
「何に選ぶの?」
何か行事でもあったっけ。
「将来の伴侶に、です」
将来の伴侶!?
「私まだ8歳なんですけど」
「存じあげておりますよ。遅いくらいです」
遅いの?この国の人って何歳から結婚できるの?
まあ、うん、でも。
「クブダールはないかな。クブダールは他に大好きな人がいるからね」
お父さんだとは言えないし。
その言葉にガーディア達が驚いた。
「他に想う人がいながら、姫様にあの執着ですか?クブダール様は悪魔か何かでしょうか?」
女の敵ですね。
ガーディア達がなぜか燃え上がってる。
「ユヌカスはねえ」
言葉を切ってガーディア達を見ると、なんかキラキラしてる目で見られてる。
「ほら私、自分自身に収入があるでしょ?住んでないけどお屋敷もあるし。全く将来困らないと思うのよね。結婚する意味がわからないもの」
「姫様が枯れてる」
枯れてるって失礼な!
「そ、それに姫様はどなたかお相手を決めませんと、悲劇の姫君になってしまいますよ」
「そうでした!早ければ早いほどいいに決まってます」
え?え?
口々に早期の結婚を勧められるのですが、私、そんなに結婚できなそうなの?
髪の色とかみんなと違うから?
もしかしたら、私ってかわいくないのかな。前世基準だと、かわいい!って思ってたんだけど、まさかの美意識がズレてたの?
不安になっていたらドタドタと足音が聞こえてきた。
「できたぞ!」
クブダールの手には、皿に乗った黒い何かの物体がある。
「調理師に習ってきたのだ」
得意満面だけど、それ食べ物だったの?
食べたくないわあ。
「人に食べさせる前に、自分で毒味をしてから勧めるのがマナーですよ」
顔を引きつらせながら、クブダールを席に案内したガーディアが述べる。
ガーディア、グッジョブだよ!
「ん、それもそうか」
クブダールが素直に口に物体を入れると、そのまま動かなくなった。
部屋の扉の外では、クブダールに教授したと思われる調理師達がいる。
クブダールが動かなくなったのを確認すると、その場で全員がドゲーザをした。
「姫様、お願いします。2度と調理場にクブダール様が入らないよう説得してください」
「調理具が破壊されまして」
「食料が燃え尽きまして」
「壁に穴があきまして」
……
彼らの苦情が止まらない。
ああ、うん。ごめんよ。
壁に穴っていうのがわからないけど、うん。
私が悪かったってば。




