25話 できないこと
お母さんから人形の作り方を教えてもらってきた。
私もさっそくやってみよ〜っと。
頭に浮かんだ記号にいつも通り魔力を流そうとしたけど、赤字の記号がある。それもいくつも。
なんだろ。今までのと何か違うのかな?
えい!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、いたああい!
特に深く考えずに魔力を流したら、全身に激痛が走った。
何これ?
しばらくして、蹲っていた体勢からそっと手を動かしてみる。
大丈夫っぽい。
血も出てないみたい。なんだったのかな。
恐る恐る身体を起こして見渡すと、小さなビー玉くらいのクリーム色の物体がある。
手に取ると柔らかくて生きている感じがする。
生きている感じがする?
……どうしよう。もしかして、これが人形になっていくのかな。
あれだけの激痛でこの大きさ、とか。きちんとした大きさにするの無理じゃない?
もうやめていいかな、うん。
でもコレどうしよう。
目も口もないんだけど、生きているっぽいんだよ。
捨てられないよ。
ふわふわで丸くてかわいいんだけど、育て方とかわかんないし。
マリモみたいに水をあげたりしてれば育つのかなあ。
う〜ん。
しまっとこう。空間に入れて保管しておこう。
それにしても、お母さんってすごいなあ。
もう何体も人形を持ってるんだよ。
それに比べて、私は生ゴミを肥料に変えたり、廃棄物を処理して物質ごとに分けたり、応用で壁をすり抜けられるようになっただけだ。
そうそう。壁をバッと消して通り抜けて、通った後またすぐ再生して壁を作る。
スピードと範囲を考えて通り抜ければ、手がゆっくり出てくるような演出もできて、ホラーにもマジシャンにもなれると思っている。
なにげに今、1番のお気に入り能力だったりするのだ。
ムフフ。
そんなことを考えていたら、急に神殿内がざわめいた。
なんだろ、この気配。
「姫様、ご無事ですか?」
いつもと違ってバタバタと走って部屋に入ってきたのは、リブだった。お部屋係のお姉さんの1人だ。
「何かあったの?」
応えると、私の顔を見てホッとしたような表情になった。
「神殿小売店にならず者が入りまして、何人かが怪我をしました。すぐに兵の方が駆けつけてくださいましたから、私は姫様の無事を確認しにきたのです」
ならず者って強盗かなんかかな?
「怪我をした子がいるのね」
部屋を出ると10カーネショップに向かう。
たいした怪我じゃないといいんだけど。
着いたら、ボッコボッコにされてる男の人達が積み上げられている。
ユヌカスだ。
なんかもう安全っぽい。
「怪我をした人がいると聞いたのだけど」
ユヌカスに問いかける。
「ラメル、無事だったか。怪我人はこちらで対処するから、部屋に戻っていろ」
いやいや、みんなの無事を確認しに来たんだし。
今来たばっかりだし。
見渡すと人が集まっている場所がある。
あそこに怪我人がいるのかな?
軽い気持ちで見に行くと、そこにガーディアが倒れていた。
私が行くことで、周りにいた人が場所をあけてくれた。
「ガーディア」
かけた声が思わず震える。
けれどガーディアから返事は返ってこない。それもそのはずだ。お腹を刺されたのか、血だらけで横たわっているのだから。
正義感の強い彼女がみんなを守ろうとしたのだろうと、容易に想像できる。
どうしよう。くっつける? くっつくか、試してみる?
けれど、さっきの激痛が頭をよぎって、身体が硬直する。
「ラメル、部屋に帰れ」
私の様子をうかがっていたユヌカスに引き寄せられそうになって、ハッとした。
激痛が走っても、私はこうして生きている。
けれどガーディアをこのままにして帰ったら、きっと死んじゃう。
そうなったら、絶対後悔する。
意を決して傷口に手をあてて、くっつくように魔力を流そうとしたら、赤い記号が1つもないことに気がついた。
恐る恐る魔力を流してみたけど、痛くない。
傷口がくっつき、服や床に流れていた血液が体内に戻っていく。
ガーディアの顔色もよくなってきた気がする。
おまけに服の破れもくっつけ〜!
お、くっついた。
ふう。
赤い記号は要注意ってことかな。
でもさっきと何が違うんだろう。同じ記号な気がするんだけど。
ガーディアが無事に終わったのを確認すると、次の子のそばに歩み寄る。
この子は怪我をしているだけで、命に別状はなさそう。
今度は頭に浮かんでいる記号、1つだけに魔力をながす。
あ、血液の一部が移動してる。隣の記号にも魔力を流してみると赤い部分も移動し始めた。
このあたりの記号は血液のことみたい。
次は、この記号っと。
あ、血管が繋がったっぽい。ふむふむ、この記号が血管の組織かあ。
じゃあ、こっちが皮膚かな?
いろいろ試して気がついた。
そこにない物を、作り出すことができないってことかもって。
いつもは空間の中にある物しか出していない。
そして今はそこにある物を元に戻しただけ。
さっきは何もないところから人形を作ろうとして、私の身体を削ったってことじゃないかなって。
それならあの痛みも理解できる。
ってことは人形を1体作るのに、人の身体が1人分必要ってことじゃない?
なにそれ、怖いわあ。
1人で物思いにふけっていたら、周りがシーンと静まり返っているのに気がついた。
あ、あれ?
みんなどうしたのかな?
起き上がれるようになったガーディアが私の前でひざまづくと、私のスカートの裾に口づけを落とした。
「このご恩は決して忘れません。私の全てをラメル様に捧げます」
へ? も、もしかしてなんかやらかしちゃった?
「ラメル、今のはいったい……」
ユヌカスまで何か言いたげだ。
何か言い訳ないかな?
この場をうまく切り抜ける何か。
え〜と、う〜ん、あ!
「わたくし大巫女になりましたから、人々を癒すのも仕事のうちなのですよ」
ほほほほほ。にっこり笑って部屋に戻ることにした。
部屋に戻った私は知らなかった。
神殿の大巫女は神の使いだ、とみんなが言い合い始めたことを。
こんなことになるなら、人払いしてからやればよかったんじゃない?
私のバカバカ!




