19話 お嬢様になりたい
クブダールがこの国を支えていることが発覚してから考えた。
もっと効率よく魔力を利用できないだろうか?
そうすれば魔石を使えるようになって、クブダールも楽になるんじゃないかな。
コンセントから電気を引っ張るような配線を作ることはできない?
頭の中にはいくつかの式が浮かび上がっている。
魔力を流すと、指の先から金属の液体状のものがうねうねと出てきた。
だが私のイメージ、コレじゃない。
ペンの先から細く書くみたいに出したい。
と、手のひらにペンのような棒が出てきた。
これで細く書けるかも?
クブダールの身体に描かれていた魔方陣を思い出しながら、魔力を流す金属をインクにしてペンで描いていく。
ただし、際限なく魔力を引き出す模様だけ省いて。
「できた!」
ちょっと魔力を流してみる。発動するかな?
おお!なんかグングン吸い取られてる。
部屋の明かりがパッとついた。
これをそれぞれの部屋に置けば、魔石さえあれば生活できる、と思う。
10シンチミートルくらいの板に次々と模様を描いていたら、ノックが聞こえた。
「どうぞ〜」
バタン。
あれ? クブダールかユヌカスだと思ったら違ったみたい。
綺麗なお姉さんです。
「この部屋は明かりがついているのね」
周りを見渡して、こっちを見た。
「貴女の家とこの部屋の周りだけ水路が美しいのを知っていて?」
「私の家とこの部屋の周りだけ、ですか?」
美しいってなんだろ?
ディニテに連れられて神殿の外に出た。
水路で行かないのを不思議に思っていたけど、なるほど、これはひどいね。
水路が循環していないからだろうか、緑色になっている。
冬の学校プール状態だよ。
私の家まで歩いてディニテが口を開いた。
「これを見たら、わたくしが貴女を訪ねていきたくなる気持ちもわかるでしょう」
ここは本当にキレイだね。
っていうか
「あの、人が無茶苦茶いる気がするんですけど」
「1日に1回は水に入りたくなってしまうからよ。安心して浸かれるのはここだけですもの」
我が家、温泉ならぬ、冷泉の観光名所になってるっぽい。
「やり手のバーグ様のお住まいだもの、国が機能しなくなっても安全に過ごせる秘密があるのでしょう?」
教えてくだささらない? と言われても。
「お父様ってやり手なんですか?」
そんな感じが一切しない。
「ラメル様のお父様はリードルース家のご長男でしょう?リードルース家といえば国の舵取りを行える大貴族ではありませんか。けれどその家を捨てナンテコッタへ渡ったと思ったら、第一皇女様と恋に落ちて結婚。なんてロマンチックなんでしょう」
真面目に聞いていたけど、やり手ワード出てこんかったな。
お父様を追い出した後のリードルース家の凋落ぶり、とか言われても会ったことのない親戚なんぞ知らんがな。
まあ、でも
「水を綺麗にする魔石ならまだあるんですけど。浄水魔石っていいます」
これがあれば綺麗になるんじゃない?
「譲っていただきたいわ。おいくらかしら」
ディニテがぎゅっとしてきた。
ぐ〜る〜し〜い〜
ひとまず、ディニテに浄水魔石を1つと魔石電池を売ることになった。
「このくらいでどうかしら」
の額が家を買えちゃうんじゃないかな、って金額でびびった。
ディニテって何者?
「できれば、平民でもがんばれば買えるようにしたいのです。いくらくらいがふさわしいでしょうか」
今のところ材料費が無料なんだもん。
ディニテがなんだか顔を赤らめてナデコナデコしてきた。
ワタクシノメガミサマって意味わからん。
しかし国全体にってなると材料がいるよね。
最近はなんとなく、この式はこの物質かなあとわかるものも増えてきた。
廃材の中から物質を調達できるのだから、ゴミ箱あさりでもすればいいんだけど。
……この国のゴミ事情ってどうなってるんだろう。ゴミの日に持っていくとか、やったことないね。
「恥ずかしいことに今まで考えたこともなかったんですけど、いらなくなったものが出た時にどこに持っていけばいいのかしら」
部屋に帰って部屋付きのお姉さんに聞いてみる。
首を傾けてなるべくお嬢様っぽく見えるように、だ。
言葉遣いも気をつけはじめた。
学校みたいなところに行く前にお嬢様になるのだ、私。
「姫様が持っていく必要などありませんよ。私共が片付けますから」
いや、それじゃあ困る。
かと言って、ゴミが欲しいとか恥ずかしくて言えない。
お嬢様目指すの、もちっと後でもよかったかもしれん。




