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その日の夜

 助けた少女の自宅に泊めさせてもらえることになった、その日の夜。あかねと二人っきりの空間。

 何があったのかよく分からないが、今日の事件以来、あかねは小悪魔でもなければ、ワルな素振りも見せず、何かに怯える子ウサギのようで、今も黙りこくっている。

 そんなあかねの横に寄り添い、軽く肩を抱いて引き寄せてみる。

 お前は俺が守る。そんな気持ちを込めて。


 続く沈黙。

 何があったのか聞くのは簡単だが、言いたくないかも知れない。

 なら、俺はこうしてあかねが自分で語りだすのを待つ。


 どれくらいの時が流れただろうか、あかねがぽそりと言った。


「お兄ちゃん。私、大怪我した事ってあったと思う?」

「いや。そんな事無いだろ。

 確かに入院はしていたけど、あれって病気だろ?」

「うん。そう記憶しているんだけど」


 そう言ってから、あかねは自分が入院した時の事を語った。

 あかねは自分が病に倒れたのは、急きょ決まった海外出張の準備のために自宅に戻っていた父親の前だと言った。それは俺が聞いている通りなのだが、あかねは自分が倒れる直前に、リビングのソファに座った父親が出張用の大きなスーツケースをぽんぽんと叩いた事を印象的に語ったが、俺はあの日に、そんなスーツケースをリビングで見た記憶が無い。

 あの日、父親はあかねに付きっきりで、家には戻って来なかった。あかねが見た大きなスーツケースがリビングに無かったと言う事は、あかねを病院に連れて行く前に片付けたと言う事になる。緊急事態に陥っていたはずなのに、そんな事をする余裕があったのか?

 もしそうだとしたら、俺の父親はどんだけ几帳面なんだよ。

 スーツケースはどうしたのかと聞きたいところだが、あかねに聞いても答えを持っている訳もない。

 そして、ずっと病院で単調な入院生活が続いたとも、あかねは語った。だったら、どうして俺はあかねの見舞いに行かせてもらえなかったんだ?


「単調な入院生活だったのか?

 俺は面会謝絶だと言われて、結局見舞いに行けなかったんだが」


 俺の質問にあかねは答えを持っていないらしく、横目で見たあかねは小首を傾げて悩む表情をしていた。こんなあかねもかわいくて、しかも体が触れ合っているだけに、ぞくぞくしてしまう。って、弱っている妹にぞくぞくしてどうする!

 しばらくして、あかねが口を開いた。


「今まで何も感じてなかったんだけど、その間、お父さんがよく見舞いに来てくれていたのよね。あんなにいつも忙しくしていたお父さんが」

「それはそれだけあかねの事が心配だったからだろ」

「そうなのかな。

 でも、よく考えてみると、他の人の記憶が無いの。

 看護婦さんとか、先生とか。

 記憶の中に出て来るのは、いつもベッドの横で微笑むお父さん」


 そんな事って、あるのか?

 論理的な答えを見つけられない俺が小首を傾げた時、不安げな視線をあかねが向けている事に気づき、その場を取り繕うような答えを言った。


「まあ、それだけ、普段はいなかったお父さんが、そばにいたって事の印象が大きすぎたんじゃないのかな?」

「そうなのかな」


 俺の本音を知っている訳じゃないだろうが、あかねは信じ切ってはいないみたいだ。


「もしかしたら、私……」


 そこまで言ってから、あかねが頭をくるくると軽く数回振って、何か嫌なものを振るい捨てるような仕草をしてから、俺を見つめてきた。


「あのね。

 よく分かんないし、頭が変になったって思われるかも知れないんだけど」


 あかねの口調には戸惑いも感じられるが、思い切って大事な事を話そうと言う決意があるような強さだった。何か深刻な話を始める決意。そう感じた俺の顔が引き締まった。


「男に捕まえられ、喉元にナイフを突きつけられたなずなちゃんを見た時、何か自分がそうされているような光景が頭に浮かんだの」

「はい?」


 身構えた力が俺の中から一瞬消え失せた気がした。が、あかねの顔つきに深刻さが漂っている事に気付いた俺は、再び顔つきを引き締めた。


「その時、一瞬の内に忘れていた記憶が思い出された時のような感じで」


 そう言ってあかねは不思議な話を語り始めた。

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