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本物の偽物 凛ちゃん

 教会の神の使い、偽物 凛、教祖高山。すべてを倒し、決着がついたかに思えた時、何かを感じ取ったひなたの父が「来るぞ!」と叫んだ。

 俺の視界の片隅に映る街の風景の一部がゆらゆらと蜃気楼のように揺れたような気がした。

 そして、続いて何かが何かにぶつかる音が二回聞こえてきた。


 ドスン!

 ドスン!


 その音の正体は?

 音がした方向に目を向け、視界の中に映る異変を探す。


 見つけた異変の一つ。

 道路に沿って立つ建物の壁にもたれかかるようにしてぐったりしているひなたの父親。口から血を垂らしているところを見ると、かなりのダメージと思われる。


 そして、もう一つの異変。

 矢野は完全に建物の壁近くで倒れ込んでいた。


 何が起きた?

 誰がやった?


「お父さぁぁん」


 ひなたが倒れているひなたのお父さんに駆け寄った。


「ついに出てきたようね。

 いい!

 守りたいものがあるのなら、勝ちなさいよ!

 そして、生き残りなさい!

 守りたいもの。それが私じゃなくて、葉山だったとしても。

 いつかは私も葉山に勝って、水野を手に入れてやるんだから!」


 目の前の服部が言った。どうやら、かなりの敵が出てきた事を服部は感じ取っているらしい。

 その敵はどこだ?

 辺りを見渡した時、少し離れた場所に、凛が立っていた。


 肩までの黒のストレートヘア、ふくよかな頬にも負けない通った鼻筋に大きな瞳をした凛。

 凛のコピーは他にもいたらしい。

 だが、このコピーは何かが違う。普通の人間じゃない。視線も定まらず、表情に狂気を纏っている? そんな風に思えてしまう。


「凛!」

「颯太。なんて事をしてくれたのぅぅ?」

「颯太。そいつがあの時の凛ちゃんのコピーだ。

 お前たちでは勝てない」

「どうして、俺のお父さんを探している」

「佐々木さんを作ってほしいのぅぅ。

 決まってるじゃない。

 簡単な事よねぇぇ?」

「はい?」


 確か佐々木とは記憶処理の技術を担当していたとか言う研究者。

 だが、どうして、そのコピーを凛が欲しがるんだ?

 それにコピーなら、自分たちで作ればいじゃないか。


「佐々木さんにぃぃ、褒めてもらいたいのぅぅ」


 さっきの言葉の意味も分からないが、今度の言葉の意味はもっと分からない。


「そう言う事か」


 思考が迷走しそうな俺に父親の言葉が届いた。

 どうやら、俺の父親は偽物 凛の言葉の意味が理解できたらしい。


「どう言う意味なんだ?」

「記憶を操作する技術はその対象となる人物の思考にも影響を与える事ができる。

 佐々木の奴、システムの中に記憶を書き込む時に、自分への忠誠心、いや服従心を潜ませていたんだろう。だから、彼女の精神は佐々木に依存しているんだ」


 そこまで言い終えると、今度は偽物 凛に向かって言った。


「結局、あれから佐々木には会えなかったのか?」

「佐々木さんのぅぅ仲間でもある高山たちと共にぃぃ、佐々木さんを探しに出てぇぇ、佐々木さんを見つける事ができたわぁぁ。

 変わり果てた姿の佐々木さんにぃぃぃぃ」


 そう言い終えた偽物 凛の瞳はムンクの叫びかのように大きく見開いていた。

 やっぱ、こいつは正気じゃない。


「もう息をしていなかったのよぅぅ。

 なんでこんな事になったのぉぉぉぉ?

 そう問い詰めたら、全ては金山が指示した事だって言うじゃないぃぃぃ。

 許せない。だから、金山には死んでもらったのよぅぅぅ。

 でも、佐々木さんは戻って来ないぃぃぃ」


 そこまで言って、偽物 凛が嫌、嫌と言わんばかりに、激しく頭をくるくると左右に回した。

 どう見ても、精神が安定していないんじゃないのか? そう思わざるを得ない。


「でもねぇぇ、私は知っていたのぅぅ。

 あなたが実験で佐々木さんのセル3Dデータをスキャンした事がある事をぉぉ。

 あなたが生きているって知った時、あなたに佐々木さんを作ってもらえばいいじゃないってぇぇ、考えたのよぅぅ。

 ねぇ、データはどこにあるのぅぅぅぅぅぅ?」


 そう言った偽物 凛の形相はまるで飢餓の者が、目の前に食べ物を見つけたかのような鬼気迫るものだった。

 これが、俺の父親を探している理由だった訳だ。


「凛を、凛を探している理由は何なんだ?」

「はあぁぁぁ?」


 鬼気迫る表情を変えないまま、何か自分よりも下の者を蔑むような視線を俺に向けた。

 お前は馬鹿か? と、偽物 凛の目が言っている。


「自分と同じ顔の人間の存在なんて、許せるぅぅぅ?」

「いや、さっき死んだのだって、同じ顔だろ?

 あれはお前が作ったんだろ?」

「あれは私の言う事を聞く人形よぅぅ。

 それに人形を使っていないと、あんな風に突然暗殺されるかも知れないじゃないぃぃぃ

 今だってぇぇ、私も殺そうとしたじゃないぃぃぃ」


 偽物 凛の論理はちょっと理解できそうで、できないところがあるが、精神的に不安定だとしたら、そんな事もあるだろう。


「あのオリジナルは弱々しいのよ。

 私と同じ顔をしていながらぁぁ。そんな奴は生かしておけやしないぃぃ。

 だから、あの場で殺したはずなのにぃぃ、生きていたなんて。

 でも、そんな真剣に探す理由なんて無いのよぅ。

 目の前に現れれば、殺してあげるぅぅぅ。はははは。

 その程度にしか興味は無いのよぅぅ。

 だけど、颯太のお父さんと一緒にいるのなら、話は別ぅぅぅぅ。

 オリジナルを探す事ができてもぅぅ、颯太の父親を見つける事もできるんだから、確率は倍になるわぁぁ。

 それに、私が颯太のお父さんを探してぇぇ! なんて、変じゃないぃ。

 私が私の偽物を探すのなら、話はおかしくないでしょぅぅぅ」


 そう言うことかと納得した時、背後で男の悲鳴がした。


「ぎゃっ」


 目の前の偽物 凛は少し場所を変えていて、振り返ると大久保がひなたの父親のように、建物にもたれかかるようにして倒れていた。


「銃器に手をかけるな。大怪我をするぞ」


 背後で俺の父親が叫んだ。


「大怪我だなんて。

 銃器を手にしたから、ほんの軽くお仕置きしてあげただけよ。

 死ななかっただけ感謝しなさい」


 偽物 凛が一瞬の内に、俺のはるか背後で銃を手にしていた大久保に攻撃を仕掛け、元の場所に戻って来たのだろう。この偽物 凛の移動速度はこれまでの神の使いをはるかに超えているらしい。

 この偽物 凛を前にして、視界にうつるところで銃器を手にするのは危険極まりなさそうだ。

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