教祖 来襲!
神の使いたちと偽物 凛。
その戦いに終止符を打ったところに現れた高山は、二人の少女と得体の知れないデバイスを引き連れていた。
高山たちの後方に並ぶデバイスの数は10。その高さは大人の腰の辺りまでで、足が六本。形状はまさにてんとう虫っぽく、1mちょっいくらいの大きさだ。
正面に目のようなものがあり、額っぽい位置にもう一つの目のようなものがある。
「あれは?」
「颯太。あれがお前たちが入ろうとしていたビルの警備ロボだ。
ビルの廊下を警備する事を目的に作られたもので、直進は異様に速いが、方向転換は少し鈍い。
武器は額にあるレーザー銃だ。射程は10mほどしかないが、照射角度はある程度変える事ができる。
ビルの中の廊下で出くわせば、最悪のロボだが、この広い通りなら私たちが優位だ」
正面から戦わなければ勝てると言うことらしい。
「ごちゃごちゃうるさいな」
高山はそう言い終えると、一度上げた右手を振り下ろした。
それを合図に高山の横にいた少女たちが動き始めた。
一瞬に迫ってくる少女たち。やはり、あの異様な速さと力を持つ、最も恐るべき神の使いだったらしい。
少女たちの動きに全神経を集中させたからなのか、さっきまで俺の視界の中にいた服部の姿が無い。が、今、そんな事に気を取られている訳にはいかない。
二人の少女の動き。その進路から言って、一人は俺ではない方向を目指している。明らかに俺よりも後方にいるあかねやひなたたち。
そして、もう一人が狙っているのは俺だ!
どうやって、迎え撃つ?
なずなの友達を葬った光の盾。あの時、正面からぶつかってくるしかない状況をこしらえたから成功したのであって、今だとタイミングをとらなければ左右に回避されてしまう。
ソード状態で斬る。かつて、失敗した。これもタイミングが必要だ。
迷っている内に、敵はもう迫って来ていた。
ソード状態で振り下ろす。
あの時と同じで、俺が振り下ろしたあかねソードは虚しく空を斬り、俺の視界に少女の姿は無かった。
どこだ?
振り返った俺は背後で、ひなた父が払ったあかねソードをかわすもう一人の少女の後ろ姿を見た。
そして、俺のあかねソードをかわした少女も、そこに向かっていた。
「待て!
お前の敵は俺だろうが!」
そう叫んだ俺に少女は振り返って、鼻で笑うような顔を見せたかと思うと、俺を無視して、ひなた父に向かっていった。
「うぉぉぉ」
雄たけびを上げて、俺は駆け出した。
「ばかっ!
不用意に向かって行ったら、だめっ!」
服部の声がした。が、すでに動き出している俺の体は物理的にも、感情的にも、理性的にも止まる要素は無かった。それどころか、逆に駆ける足にも、あかねソードを持つ手にも力がみなぎって来ていた。
もう一人の少女はひなた父とひなたを相手にしていて、俺にかまっている余裕は無さげで、さっきの少女はひなたたちに襲い掛かる機会をうかがい、俺に背を向けたままだ。
背中を見せている敵を斬るのは心が引けるのは確かだが、ここは勝機だ。
一気にケリを付ける。
そんな思いで、あかねソードを振り上げた時だった、さっきの少女が身を翻して、俺に向かってきたかと思うと、不気味な笑みを浮かべ、握りしめた右の拳を振り上げた。
俺の体にも慣性が付いていて、すぐに止まる事も、曲がる事もできやしなかった。
まずった!
そう思った時、俺の体を突然襲った横からの衝撃で、俺の進路が変わり道路に倒れ込んだ。
少女の攻撃はかわせたが、俺は激しく道路に倒れ込み、あかねソードを手放してしまった。
俺のあかねソードが、道路を転がっていく。
新たな敵か?
そんな思いを抱いた俺の耳に、女の子の悲鳴が届けられた。
「きゃぁぁぁぁ」
誰の?
声がした方向に目を向けると、左目を手で押さえているさっきの敵の少女の姿があった。
その左目からは血が流れ、何か黒く細長いものが突き刺さっている。
クナイ?
誰が?
そう思った時、歩道の植栽に突っ込んで、仰向けに倒れている服部の姿が目に入った。
服部が俺を救ってくれた?
「私のお兄ちゃんに、手を出さないでよねっ!」
気づくと、あかねがその少女を真っ二つにしていた。
「服部、大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫な訳ないじゃない!」
「お兄ちゃん、まだ戦いは終わっちゃあいないんだよ!」
服部のところに駆けよろうとした俺をあかねが引き止めた。
「服部、こいつらを片付けるまで、ちょっと待っていてくれ」
そう言って、俺があかねソードを拾い上げた時、あかねはすでにひなた父たちの援護に回っていた。
気配を読めるひなた父は神の使いにとっても、容易に倒せないらしい。ひなたも参戦しているが、どうも戦力と言うより、ひなた父に守ってもらっている感が強い。そこに、あかねの参戦。俺もそこに向かって、駆けだした。
「颯太!
警備ロボが動き始めた!」
その言葉に立ち止まり、振り返った。
高山の背後に並んでいた警備ロボが、一気に加速して迫ってきていた。
「あかね!
俺が言った事、分かっているだろうな!
最悪の場合以外、その範囲で行動しろ!」
俺の父親があかねに言った言葉の意味は、俺にはよく分からなかったが、そんな事に囚われている場合じゃない。
向かってくる警備ロボに全神経を集中させながら、あかねソードを構えた。
レーザーの射程は10m。近づくまで待つ。
20mほどの距離に近づいた頃、素早く警備ロボの横に回り込んで接近を図った。
そんな俺の動きに、警備ロボが急減速して、停止した。
すぐに向きを変えられず、その場で足踏みをしているかのような動作で、向きを少しずつ変えて行っている。マジで方向転換は不得意らしい。
側面方向からあかねソードで、一体をなで斬りにする。
どんなものでも、触れる物を消失させるあかねソードの前には、警備ロボもただの物体にすぎなかった。あかねソードが切り裂いたその一体は、胴体のような部分を上下に分離され、動きを停止し、その内部から火花と煙を発している。
そのまま背後に回り込んで、もう一体にあかねソードを突き刺す。
パチパチと言う音と煙を発しながら、そいつも動きを停止した。




