スナイパー 矢野
気配で敵の動きを掴むことができる剣士 ひなた父。
そのひなた父が敵が襲ってくることを感じ取った。
慌てて、あかねソードを構えた。
ドクン、ドクン。
鼓動が高鳴っているのを感じる。
視界を妨げていた防弾膜がゆらりと動いた。
張られていた支点を失い重力の力で、地上に向かって波打ちながら落下する防弾膜。
その向こうに動きを見た。
が、あまりの速さで、それが何なのか判別するのが遅れた。
一つは蜘蛛の糸。
そいつは、あかねソードを持つ俺の右手を絡めとった。
もう一つの動きはあの異様な速さの神の使い。
向かった先は?
それを確認する間もなく、俺は蜘蛛の糸に引っ張られ、前のめりに体勢を崩して、地面に倒れ込んでしまった。
俺を捕らえたその蜘蛛の糸は、俺を敵の下へと引っ張っていく。
抗おうとしても、倒れてしまった体勢では何もできやしない。
このままでは、敵の足元まで引きずられてしまう。
バン!
その時だった。一発の銃声が響いた。
俺の視界の先。
俺を捕らえていた蜘蛛の糸の神の使いが側頭部から血を噴出して、倒れて行った。
振り返るといつの間に移ったのか、さっきまで俺たちがいたビルの隣のビルの四階の窓から、矢野がライフルを構えていた。
これで五人で、あと二人。
俺たちが優勢。だが、決して余裕がある訳じゃない。
慌てて起き上がると、左手にあかねソードを持ち替えて、右手に絡みつく蜘蛛の糸を切ると、背後に目を向けた。
もう一人の神の使いが向かったのはひなたの所だったらしい。ここも決着がついていた。
ひなたを襲おうとした神の使いの背中から飛び出しているあかね色の光。
あかねソードだ。
その根元に目を向けていく。ひなたのわき腹あたりから突き出たあかね色の光。
それは、あかねのあかねソードだった。
ひなたに向かってきた神の使いをひなたの背後から、貫いたらしい。
神の使いが体を支える力を失い、突き立てられたままのあかねソードで体を上部に向かって消失させながら、崩れて行った。
「ありがとう。あかねちゃん」
ちょっと恐怖で固まったひなたに代わって、ひなたの父親が言った。
「いえ。ひなたちゃんを守るって約束ですし。
お兄ちゃんの大好きな一突きで女の人を倒せたし」
そう言って、俺ににこりとした笑みを浮かべた。
こんな時にも余裕のあかね。ちょっと背筋がぞくぞくっとしてしまった。
いや、それどころじゃない。まだもう一人いた。
最後に残った神の使い。こいつの能力は何なのか?
そいつの視線は上方に向けられている。
仲間をやったスナイパー 矢野に視線を向けているに違いない。
そいつが動いた。
その動作は視認できる。あの素早い神の使いではない。
視界にきらきら光るものが現れた。蜘蛛の糸の使いらしい。
その糸が向かう先。それは矢野だ。
全力でダッシュする。
神の使いの視線が一瞬、俺に向いたが、すぐに元に戻した。
きっと、矢野を捕らえたか、捕らえる直前で、そっちのけりを先に片付けようと言う事なんだろう。
矢野が危ないかも知れない。
力の限界を超えて、向かって行く。
上方に伸びる白い輝きを放つ蜘蛛の糸。
蜘蛛の糸があかねソードの間合いに入った瞬間に、あかねソードでその糸を切り裂いた。
神の使いが怒りの顔を俺に向けたかと思うと、蜘蛛の糸を放つ腕が動いた。
今度のターゲットは俺のはず。
あかねソードを神の使いに向けて突進する。
俺の視界の中がきらきら光った。
この至近距離。蜘蛛の糸から逃れられる術などない。
奴もそう思っているはず。そこが狙い目だ。
俺はあかねソードを盾のモードに切り替えた。
俺の腕にまとわりつきかけていた蜘蛛の糸があかね色の光の盾で切断され、俺の視界の中でゆらゆらと揺らめきながら、地上に落下していった。




