ひなた父
轟いた一発の銃声。
これは宣戦布告と言えてしまう。
「ぎゃあぁ」
醜い男の悲鳴がした場所に目を向けた。
低木の植栽に浮かび上がる裸の男。
保護色の男を何者かが銃撃したらしい。きっとその者は、このビルの上階にいるに違いない。そんな思いで、上を見上げると、ライフルを構えた見知らぬ男と服部の姿があった。
男は次に備えているかのようにライフルを構えていて、その横で服部が指さしながら、何か指示している。
そう言えば、軍と教会がぶつかった戦いの時にも、服部は保護色の神の使いの存在を見破っていた。どうやら、服部はその手の事に向いているらしいと思った瞬間だった。次の銃声が響いた。
「よくも仲間を殺してくれたわねっ!」
鷲尾が怒りの形相で俺に向かってきた。
道路で凛に従っていた者たちも行動に出た。
俺たちの側も本格的に銃撃を開始した。
俺の目の前の敵、鷲尾の動きは鈍かった。なずなやえりなたちに比べてと言う事になるが。
あかねソードの起動が間に合い、向かってくる鷲尾のおなかの辺りをあかねソードで貫くと、そのまま横にスライドさせ、腹部から横に鷲尾の体を切り裂きながら、道路の中ほどまで飛び出した。
まずは一人。
そして、服部の指示で放たれた銃弾は、潜んでいた新たな保護色の神の使いの頭部を撃ち抜いていた。
俺の背後で階段の途中に控えていたひなたのお父さんやひなたにあかねも飛び出してきた。
ビルの上からの銃撃は激しさを増している。
道路に展開していた神の使いたち。今は銃撃を防ぐため、蜘蛛の糸を使う神の使いたちが、いつもの防弾膜を張っている。
銃撃音が轟く中、ひなたの父親が起動していないあかねソードの柄を手に、ゆっくりと防弾膜に近づいていく。
防弾膜で見えない向こう側の敵をどうする気だ?
そんな事を思いながら、ゆっくりと近づいてくる防弾膜と、それに向かって行くひなたの父親の後ろ姿を見つめていた。
そろそろあかねソードの間合い。そう思った瞬間、ひなたの父親があかねソードを起動し、防弾膜を切り裂いた。
二つに分かれ地面に落下する防弾膜。
その分かれた隙間の向こうに血しぶきをあげ、体を真っ二つに斬られた神の使いの姿が見えた。
これで二人。
このまま突撃か? と思ったが、ひなたの父親はそのまま攻撃をしかけず、すぐに引き返して来た。
防弾膜を切りに行った時に、偶然、神の使いも斬れたのか?
それとも?
崩れ落ちていく防弾膜の隙間を狙って、銃弾が襲う。が、この程度の弾幕では異様に速い神の使いを倒すことはできないらしく、そこに新たに倒れていく神の使いの姿は見て取れなかった。
防弾膜はすぐに修復され、俺たちとの距離を縮めていく。
「ひなた。
奴らは異様に速い。
視覚に頼るな。視覚に頼ると、奴らの動きを脳が誤って判断する。
他の感覚に頼れ」
「じゃあ、さっきのも、防弾膜の向こうの気配を読んで斬ったんですか?」
「ああ」
これが本物の剣士なのかも知れない。俺も剣の腕にはそれなりの自信があったが、格が違う感じだ。
ひなたの父親が再び動き始めた。
俺はその場で立ち止まり、目をつぶって見た。
が、真っ暗な闇の世界だけで、その気配を感じる事はできない。
自分の限界を認識し、目を開けた時、ひなたの父親が再び神の使いを一人、血祭りにあげていた。
これで三人。と思った瞬間、切り裂かれ地上に落下する防弾膜の隙間に、赤い鮮血のノイズに混じり、金属光沢のきらりとした輝きを見た。
それは村雨の輝きであって、隙間から蜘蛛の糸を放っていた別の神の使いを、ひなたが切り裂いていた。
これで四人。
俺も負けていられない。
防弾膜の向こうには、あと三人の神の使いがいて、その中にはまだ蜘蛛の糸を使う神の使いがいるらしく、防弾膜はすぐに修復された。
が、今度は防弾膜は動きを止めていた。
ひなたの父親の力をもってすれば、停止してしまえば、相手はただの的だ。
なんて、ちょっと勝利を予感した瞬間だった。
防弾膜の向こうから、俺たちがいたビルの上部に向かって、空中をキラキラ光る何かが向かって行ったのが目に映った。
なんだ?
そんな思いで、ビルの上部に目を向けた時、三階の窓から身を乗り出して、銃撃を加えていた一人の男が蜘蛛の糸に捕らえられ、窓から落下して来た。
ドシャ。
そんな音と共に、道路を血で赤く染めた。
げっ!
蜘蛛の糸。ずっと防弾膜のような使い方しか見ていなかったが、そもそもは人を絡めとると言う使い方のものだったのかも知れない。
ドシャ!
ドシャ!
銃撃を加えていた者たちが、次々に葬られていく。
鳴り響いていた銃撃音が止んだ。
銃撃を加えていた者たちが、葬られたらしい。
道路に出来上がった肉片と血の海の中、矢野や服部の姿もあるかも知れないが、それを確かめる前に、ひなたの父親が言った。
「来るぞ」
慌てて、あかねソードを構えた。




