一発の銃声
やっと探し当てた、凛と俺の父親がいる場所。
そこに凛のコピーもやって来てしまった。
ここで激突になるのは、もう避けられないだろう。
「あの子のコピー、あいつの力はとんでもない」
「神の使いの力は知っているよ」
俺の父親の言葉に、俺だけでもやってみせると言う決意を込めて返した。
「あの子のコピーの能力は格が違うだけじゃない。教会は全知全能と言っているらしいが、それは本当だ」
「どう言う意味なんだ?」
「あの子のコピーは遺伝子改造されているだけじゃない。佐々木の技術が上積みされるのだ。
それは記憶だけじゃない。特別にシステムに登録していた人物の運動に関する結合もコピーするようになっている。つまり、有能なスポーツ選手の力も同時に手に入れているのだ」
それはとんでもない話だ。
例えば、剣道や空手、柔道の強者の能力を手にしていると言う事じゃないか。
「だったら、どうすれば」
「颯太君と共に、私も出る」
そう言ったのは、ひなたの父親だった。
剣の使い手と聞いているひなたの父親の右手には、俺の父親が渡していたのであろうあかねソードの柄が握られていた。
「だったら、私も」
ひなたが続いた。その手はもう村雨の柄に手がかかっている。
「お前は待っていろ」
「嫌よ」
ひなたは譲らないぞ! 的な視線を犬塚の父親に向けている。
「お父さんの背中を守りたいの!」
そう言う事か。ひなたは立派な娘だと思ったが、それは誤りだった。今の声はあかねだ。
「だよね?」
あかねがひなたに目を向けて、言った。
「そうよ」
「犬塚さん、なら、あかねも出す。
あかねにはもしもの時、ひなたちゃんを守ってもらう。
それでどうかな?」
俺の父親の提案に、ひなたの父親が渋々頷いた。
「私は上から敵を狙撃するわ。
銃器あるんでしょ」
矢野が言った。
「ああ。他の者にも援護してもらおう」
ひなたの父親が言った。
これで、こちらの体勢は決まった。って、服部がいない?
女の子がこんな戦いから逃げるのも当然だ。とりあえず、服部は戦力外でいいだろう。
「だが、対決になってしまう前に、まずはごまかしてみるよ」
そう言いながら、ポケットに手を突っ込んで、あかねソードの柄に手をかけた。
細い階段を一人で降りていく。
コツ、コツ。
階段に響く俺の足音も、どこか不安げに小さい。それは逆に俺の鼓動が緊張と不安で高鳴っているから、そう感じさせているのかも知れない。
二階と一階の間にある踊り場を曲がった。その先の階段は地上に続いていて、地面に反射した太陽の光が差し込んでいる。その光を背に影を作っているのが、鷲尾彩だ。
「やあ」
とりあえず、そう声をかけてみた。
「どんな手を使って、私をあそこに置いて行ったの?」
元々、鷲尾とは親密さが低かったが、その口調には険悪さがにじみ出ている気がする。
「えぇーっと、何の事かな」
「おかげで、私は凛様に叱責されました」
「で、その凛が来ているって訳か」
そう言い終えた時、俺は地上に足を下ろし、鷲尾の目の前まで来ていた。
道路まで出て、辺りを見渡すと、左側に少し離れたところに、フードを目深に被って、偽物 凛は立っていた。
「ねぇ。颯太」
フードの奥から俺を呼ぶその声は凛の声に違いない。
「ここに私の偽物と颯太のお父さんがいるのかな?」
「何の事だ?」
「隠さなくていいじゃない。
彩をどんな手で惑わしたのかは知らないけど、彩から離れて行きたい場所って言ったら、私の偽物や颯太のお父さんのいる所しかないもんね。
しかも、迷わず、一直線にここに来たくらいだし」
「いや。色々回って来たんだ。
ここにいるのもたまたまであって、まだ二人を見つけられていないんだ」
「そんな嘘が私に通じる訳ないでしょ。
まっすぐ、ここに来たくせに」
睨み付けるように視線で、鷲尾が言った。
この子も何らかの神の使いで、その能力で俺たちのこれまでの行動を把握しているって事だろう。
やはり、衝突は避けられないか。そう覚悟を決め、さらに道路側に足を踏み出した時だった。
鷲尾の顔色が変わったかと思うと、叫んだ。
「凛様、銃器です」
その叫び声と同時に一発の銃声が響いた。
誰が誰を狙ったのかは分からないが、これで戦いが始まってしまった事は確実だ。
それはまるで、運動会のスタートの合図のピストルのようだが、大きく違うのは、それが本物の銃声だと言う事と、これから始まるのが殺し合いだと言う事だ。




