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あの時(颯太の父編3)/悲劇の少女

 未検証のまま起動したプロジェクト・ゴッド・ドリーのシステムは、地上にいた多くの者たちの記憶を破壊しただけでなく、緊急停止の失敗により街の構造物をも破壊した。この異常事態に、実験室の中は怒号が飛び交う状態になり始めていた。


「仕方ないだろ。

 こっちだって、緊急事態だったんだから。

 佐々木が国外に連れ去られてしまってからでは遅いんだ!」


 金山がそう怒鳴り気味に言った時だった。

 私は金山の背後に全裸の少女が現れた事に気づいた。

 この少女こそ、今や多くの者たちから記憶を奪い去り、自分だけのものにしてしまったゴッド・ドリー。


 少女に気づき表情を変えた私に気づいた金山と高山が、ふり返り自分たちの背後に目を向けた。少女の姿を確認した高山が興奮気味の口調で言った。


「そうだ。まずはこの子にどこまで記憶が書き込まれたのか確認しようじゃないか」


 そう言い終えると、高山は少女に近づき、ゆっくりとした口調でたずねた。


「私たちの事を知っているか?」

「金山防衛副大臣に、iPS細胞を使った3Dプリンターで人間を作り出す研究をしている水野教授に、その研究に使用するiPS細胞に遺伝子改変を行う研究をしている高山教授」

「おぉぉ。すごいぞ」


 こんな状況だと言うのに、感嘆の声を上げたのは金山だった。そんな成果を完全に吹き飛ばすほどのトラブルが街中を襲っている事には目を向けず、成果だけに目を向けようとするのも、典型的なこの国のエリートたちの姿だ。

 今度は金山が少女に駆け寄って、たずねた。


「この研究のメンバーにもう一人、佐々木と言うものがいたのだが、分かるか?」

「知っています」

「今、どこにいる?」

「川崎の帝都ホテル」

「彼は拉致されたはずだが、拉致した者たちの素性は分かるか?」

「分かります。

 すぐに救出に向かいましょう」

「見たか、水野君。

 これで佐々木君の身柄を確保できる」

「金山さん。今はそれどころじゃないでしょ。

 それに、重要な事を忘れていますよ。

 彼女が知っている佐々木君が他人から見た佐々木君でなく、本人の記憶からだとしたら」


 私の言葉の意味を悟った金山が慌てて少女に問いただした。


「佐々木君について知っているのはどんな事だ?」

「水野教授の研究のサブリーダーだった佐々木将明さんの事なら、何でも知っていますが」

「と言う事は」


 金山が絶句した。佐々木はすでに記憶を読みだされ、その脳は破壊されている可能性が高い。


「ともかくだ、帝都ホテルに行きませんか」

「分かった」


 高山の提案に金山は即、応じた。


「待て。そんな場合じゃないだろ。

 外の状況をどうするんだ」


 今は何も映し出してはいないが、さっきまで外の異様な様子を映し出していたディスプレイを指さして言った。


「そうだな。

 水野君は言っていたな。責任をどうするんだと。

 君にとってもらう事にするよ」

「なんだと!

 どう言う意味だ」

「奴を静かにさせろ」


 金山の言葉に、少女を装置に固定させ終えてから、部屋の片隅で待機していた男たちが私の前にやって来た。


「何をする気だ!」


 その言葉を言い終えるのとほぼ同時に、鳩尾に鈍痛を感じ、私は意識を失った。

 そして、私が意識を取り戻すきっかけとなったのは、生暖かい何かが私の顔に飛んできてぶつかる衝撃だった。

 それは決して固くて痛いものではない。

 鉄臭くて生暖かいそれは私の顔に当たった後、頬をツゥーと伝っていった。 


 なんだ?

 床に倒れ込んだまま、まだおぼろげな意識の中、目を開けた私が見たものは、あの少女に両腕をもぎ取られたオリジナルの少女の姿だった。


 床に転がる二本の腕。

 へし折られると言うおぞましい形で、自分の両腕を喪失した恐怖と、その痛み。そして、大量の出血で私の視界の中、オリジナルの少女は真っ青な顔で、床に崩れ落ちた。


「急いでいるんだ。もう行くぞ!」


 金山の声で、オリジナルの少女に蔑みのような視線を落としていた少女は反転し、私たちに背を向けた。私たちが作ったものは神ではなく、悪魔なのかも知れない。

 そして、部屋には誰もいなくなった。


 彼らは、私が意識を取り戻した事にも気づいていないらしいし、オリジナルの少女の命の事も、全く気にもかけていないらしい。

 このままでは、この少女が死んでしまう。

 この不運な少女をこのまま死なせる訳にはいかない。

 私と今にも死にかけている少女以外、誰もいなくなった部屋で、私は急いで立ち上がると、制御盤に走り寄り、非常停止のスイッチを元の状態に戻し、再起動を指示した。

 再起動までには時間がある。

 私は床に倒れている少女を抱きかかえ、セル3Dプリンターまで運んで行った。


 かすかな息とまだ冷め切っていない温もり。

 まだ可能性がある。


 上着を脱がして、へし折られ、もぎ取られた腕が露出するようにして、少女を寝かせると、再び制御盤に駆け寄った。

 3Dコピーは私が組み上げたシステム。

 完全コピーだけでなく、欠損した部分だけをコピーする機能もある。

 しかも、少女のデータは読み取ったばかりで、スキャンする必要もなければ、コピーに使用するiPS細胞も十分な残量がある。


 すぐに起動したセル3Dプリンターが欠損した少女の腕や血液の各種細胞を射出し、形成していく。失われた体液成分も補充しながら。

 両腕程度の再生に時間は要さない。

 両腕の再生が終わると、私は少女の下に駆け寄った。

 再生された左手の手首辺りを掴むと、ほんのりとした温もりを感じた。

 そして、あてがった親指のおなかに神経を集中させる。


 ドクン、ドクン。


 伝わってくる心臓の鼓動。

 この子は生きている。


「君、大丈夫か?」


 私が声をかけると、その少女は目を開けた瞬間、叫び声を上げた。


「きゃぁぁぁぁぁ」


 大きく、そして早い呼吸を繰り返す胸、顔を覆った両手の指の隙間から見える目は大きく開ききっていて、完全に怯えている。きっと腕をへし折られたときの恐怖の記憶が残っているんだろう。


「大丈夫だから。

 安心して」


 私のようなおじさんが抱きしめては、かえって恐怖すると言う気もしないではなかったが、この場合、抱きしめるべきだと判断し、きつく抱きしめた。


「嫌、嫌、嫌」

「もう大丈夫。

 落ち着いて。何もしないから」


 少女の呼吸が落ち着き始めた。


「君にはすまなかった」


 少女から離れると、私はそう言って頭を下げた。


「何なの?

 何をしたの?」


 大分落ち着きを取り戻してはいたが、その声にはまだ興奮が残っていた。私が話をしようとした時、少女は自分の両手を見つめて、ぽそりと言った。


「腕がある。

 私の腕はもぎ取られたんじゃなかったの?

 あれは夢だったの?」

「それも含めて、話をしよう」


 私がそう言うと、少女は私を不安そうな目で見つめた。

 そして、私は少女にこれまでの事を語った。

 少女は自分の両手を見つめながら言った。


「やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ。

 怖い。怖いよ」

「どうして、あんなことになったんだ?

 一体、何があったんだ?」


 私の問いかけに答え、少女は私が意識を失っている間の事を語り始めた。

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