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あの時(颯太の父編2)/壊れて行く人々と街

 仕方なく起動したプロジェクト・ゴッド・ドリーのシステム。

 私の目の前のディスプレイに起動メッセージとパスワード入力画面が表示された。キーボードを使って、パスワードを打ち込むと、ディスプレイにシステムのコンソールが表示された。

 まずは実験体のセット。

 私の操作で、少女を固定したベッドが垂直に立ち上がり、天井からガラスの筒が降りて来て、少女を囲んだ。

 それに続いて、スキャナシステムがガラスの筒の外周の最下部にセットされた。


 ふぅぅぅっ。

 大きく息を吐き出し、覚悟を決めると、スキャン開始をコンソールから指示した。

 ゆっくりとガラスの筒の外周に沿って、回転を始めたスキャンシステム。

 読みだしたデータから、人体の細胞のマップが作られていく。

 人ひとりを構成する何十兆と言う細胞のデータを読み出し、システムは全データを記憶していきながら、そのおおまかなマップをガラスの上部の壁に取り付けられたディスプレイに表示していくようになっている。


 そのディスプレイに目を向けると、読み出された細胞の情報が足元から積み上げられていく様子が表示されている。

 しばらくして、コンソールにスキャン完了のメッセージが表示された。

 スキャンは問題なく、完了した。

 続いて、3Dコピーの開始を指示する。


「高山君、このiPS細胞もあれか?」


 この遺伝子操作は高山の研究成果であって、彼が中心的な人物である。

 私を王将としたら、飛車、角が佐々木と高山である。

 その分、彼らの手を借りなければ、知らない部分もあり、あの時、私は誤ってiPS細胞の培養に遺伝子を組み替えると言うデフォルト設定を使ってしまっていた。


「ゴッドを冠するコピーですから、当然です」


 ガラスの向こうで動き始めたセル3Dプリンターが、人体を形成させていく。

 そこにできあがるのは遺伝子操作された、いわゆる異能の力を持つコピー人間だ。

 ガラスの向こうで、みるみる人体が作り上げられていく。

 あっという間に、ガラスの筒の中の少女と全く同一の物体が作り上げられた。


 横たわる人体。天井から降りてきた電気ショック装置が、むき出しになっている少女の若々しい左胸に触れた。


「電気ショック開始します」


 そう言ってから、少女の体に電気ショックを与えると、びくっと体がのけぞった。

 少女の左胸に触れている装置から、少女の心臓が鼓動を開始した情報が送られてきた。


「よし、ここまでは予定通りだな」

「はい。金山さん」


 金山と高山は嬉しそうだ。が、ここからが初めての事だ。


「行きますよ」


 そう言って、地下を除く首都圏内にいる人たち、全ての記憶を読みだす処理に入った。


「衛星 媽祖、千里眼システム起動完了」


 そうコンソールに表示されたかと思うと、読み出された記憶情報の断片が、コンソールにテキストとして流れていく。大量のデータ、そのすべてはスーパーコンピュータの中に送られ、処理されている。このコンソールには、読み出した人物の氏名だけが表示されているのだが、短時間に多くの人間の記憶を読みだしているため、コンソールに表示される名前も高速で流れ続けていて、氏名を確認することもできやしない。

 が、その様子がシステムが正しく動作している事を物語っている。


「やったじゃないか。

 いらぬ心配はしても仕方ないと言う事だ」


 金山は得意げだ。


「あとは、全ての記憶を再構成し終えた後で、あの子から佐々木に関連する情報を聞き出せば問題解決ですね」

「ああ」


 そう言った後で金山が不安な言葉を続けた。


「あれは何だ?」


 振り返ると、金山は壁の上部に取り付けられているディスプレイに、訝し気な視線を向けていた。座ったままの位置からではよく見えない私は椅子から立ち上がり、上部のディスプレイに目を向けた。

 そこにあるのは外の世界の様子を映し出しているディスプレイ。

 4台のディスプレイが、それぞれ異なる場所を順次切り替えながら、映し出している。画面は30秒程度で切り替えられていく。金山が言った「あれ」はすでに切り替わっていたのだろう。そこにはただの街の日常が映し出されていた。

 ただ、一つどきっとしたのは目を向けた瞬間、映し出されていた道路で車の事故が起きたことだ。


「事故だ!」


 そうは言ったものの、事故は警察と消防の仕事であって、今私たちがどうこうと言うものではない。

 そんな思いで見つめる画面の中、後続の車も追突すると言う多重事故。


「まただ」


 高山のその言葉に、別の画面に目を向けると、他のカメラも事故を捉えていた。


「何が起きているんだ?」


 そう言ったのは金山だった。

 一定時間毎に切り替わっていく街の風景。

 しばらくすると、どの画面も異常な光景を映し出すようになっていった。

 それは、交通事故だけじゃなく、喧嘩のようないざこざもあちこちで起き始めていた。

 大きなトラブルもなく、成功裏に終わるかに思えた実験室の中の状況とは裏腹に、外の街の状況は異変に満ちていた。


「これはこのシステムが原因なんじゃないのか?」

「どう言う事だ?」


 私の言葉に金山が言った。


「記憶を読みだすのに失敗しているんじゃないのか?」

「ばかな。システムは次々に記憶を読み出しているじゃないか。

 システムのカウントによれば、すでにその数は200万人を超えているじゃないか」


 コンソールの片隅に表示されている記憶を読みだした人数を指差しながら、私の考えを金山は迷うことなく否定しはしたが、その顔が引き攣っているところから言って、その可能性を否定できていないのだろう。


「シナプスの結合を破壊しながら、読出しをしているって事ですか?」


 私の言葉の意味を理解した高山の言葉に、私はうなずいた。


「じゃあ、どうすれば?」

「今すぐ止めるしかないだろ」


 このシステムの中心人物だった佐々木がいれば何か他の策を思いつくかも知れないが、私たちではそれ以外の策は考えられない。


「馬鹿な事を言うな。

 システムは動き出したんだ。

 完了するまで待つんだ」

「これを見ろ。この実験は失敗だ」


 私はディスプレイを差して、金山に言った。


「この映像だけでは、何が起きているのか分からないだろ!

 この実験との関係なんて、もっと分かりやしない。

 このまま続けるんだ」

「何を言っているんだ!

 犠牲者が増え続けるだけだぞ」

「だから、言っているだろ。本当に関係しているのかどうかは分からないじゃないか」


 言っても無駄だ。

 間違っていると気づいても、止める事ができない典型的なこの国のエリート層だ。

 もはや、自分で止めるしかない。


 制御盤の片隅に設けられた非常停止スイッチ。私は制御盤に走り寄ると、非常停止スイッチを保護している透明のアクリル板を外した。


「何をする! 止めんか」


 金山の怒鳴り声を無視して、非常停止スイッチを押した。


「システムはマニュアル操作による緊急停止に入りました」


 流れる音声メッセージ。

 実験室の照明が一段暗くなって、異常状態に入った事を明示した。


「とりあえず、これで犠牲者は抑えられるはずだ」

「勝手な事をしやがって」

「何を言ってる!

 この責任、どうとるつもりなんだ。

 私だけじゃない。あなたにも責任はとってもらいますよ」


 ディスプレイを指さしながら、金山に向かって怒鳴った時だった。

 ディスプレイに映し出されている街のあちこちで、何かの爆発が映し出された。

 なんだ?

 ディスプレイを注視している私の耳に、予想外の音声メッセージが届けられ、緊急事態を知らせる赤色灯が点滅を始めた。


「システムに異常が発生しました」

「なんだ?」

「今度は何が起きている?」


 音声メッセージに高山と金山が、焦り気味の声を上げた。

 目を向けたコンソール。そこに表示されているメッセージは、とんでもない事を示していた。


 衛星 媽祖のスキャン波出力異常、地上設置スキャンシステムのサージアブゾーバーの破壊。

 スキャンシステムから離れた位置にいる不特定多数の人物の脳内を細かくスキャンする処理と、それにより読み出された大量のデータを処理するために各装置には途方もない大きさの電流を流し続けていた。

 そのシステムが緊急停止したため、急激に電流が遮断された事で発生したサージ電圧が、各所に取り付けていた装置を破壊したらしい。その構成は佐々木ほど詳しくないので、何が起きているのか分からないが、そう言うことらしい。


「緊急停止した事で、街に設置していた装置が破壊していて、それが街を破壊している」


 そう私が言った瞬間、照明が一瞬だけ消え、再び点灯した。コンソールには、非常電源の起動が表示されていて、ディスプレイには外の世界の様子は映らなくなっていた。装置の破壊が配電網に障害を与え、大規模停電を引き起こした可能性がある。

 一瞬だけ天井の照明に目を向けた金山が私に詰問調の言葉を投げかけてきた。


「なんで、そんな事が起きるんだ」

「つくりにもよるが、シングルレバーの水道を突然止めると、コンと言う音を立てる場合があるのを知ってるか?」


 私の問いに金山は頷いた。


「あれは流れている水を急に止めた事によるウォーターハンマーと言う現象だ。

 それが大きな衝撃だったり、何度も繰り返していると破壊することがある。

 それと同じようなものが起きている」

「そんな……。

 あの街の破壊も、この実験のせいだと言うのか」

「だから言っただろ。

 検証前のシステムを使うなって」


 私は金山に怒鳴り声を上げた。

 その怒りは、この実験を止める事ができなかった自分への怒りでもあった。

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