颯太、男の勘?
ひなたが鷲尾を幻術の世界に陥れるため、妖刀 村雨でかすかな傷をつけた鷲尾のふくらはぎ。その傷をしゃがんで眺める矢野につられて、同じようにしゃがみ込んだ俺は、その傷だけでなく、女の子のふくらはぎを本人に気づかれず間近で鑑賞できると言う魅力につられ、その視線をさらに上に向けつつあった。
そんな俺の邪な考えを見抜いたひなたは村雨で俺を脅し、あかねもあかねソードで脅しをかけてきた。そして、服部は怒った表情で、頭のかんざしを握りしめている。
「は、は、ははは。
お仕置きは不要かな?」
疑問形で終わらせ、ひなたに視線を戻す。
「なんで、男の人って、そんなにいやらしいの?」
まだ怒った感が残るひなた。でも、男とはそんなもんだし。と、一人納得しても、ひなたたちが許してくれる訳もない。なんて、思っていると、意外な言葉をあかねが言った。
「私以外は嫌なのっ!」
ええっ! そう言う意味で怒ってたの?
なら、見せてくれる? って、それは妹には変だから。
「あかねちゃん。
そう言う問題じゃないでしょ」
「でも、私はお兄ちゃんが他の女に興味持つのは嫌なんだよね!
お兄ちゃんは誰にも渡さないんだから!」
そう言って、またまた俺の腕に抱き着いて来た。
最近はこのパターンが多い。
このムニュッ感は好きだ。
なんて、ちょっとピンクな気分に浸っていると、ひなたと服部がムッとした表情でいる事に気づいた。
俺に向けている突き刺すような視線。
妹とべたべたしている俺に妬いた視線。な、訳ないよな。
まじめなひなたの事だ、いやらしいと思っているに違いない。
「ひなた、ところで、皮一枚と言えど、斬られても痛くはないのか?」
まじめな話題で怒りを逸らそうとしてみる。
「あー、それ。村雨が触れて、かすかに斬れた時には幻術に落ちてるからね」
「すげーっ!」
ひなたのご機嫌を取ろうとか言うんじゃなくて、マジな感想だ。
「で、どれくらいの間、幻術にかかっているんだ?」
「人と状況によるけど、短いと10分くらいかな」
「だったら、急いだほうがいいな」
そう言って、俺たちは鷲尾を置いてその場を離れる事にした。
今、鷲尾はうつらうつらとした中、俺たちと一緒にいると言う幻の世界に入っていて、その場を離れていく俺たちには全く気付かず、鷲尾は立ったままだ。俺の横を行くひなたにちらりと視線を向けると、表情も元に戻っていた。
続いて、服部に視線を向けると、ぷいっとふくれっ面で横を向いた。まだ怒っていると言うか、これがいつもの服部かも知れないが、ちょっとかわいく思えてしまった気がして、数回頭を振って、誤った思いを振り落とした。
一方の鷲尾だが、俺たちがこの場から離れた後、鷲尾の幻術が解けて、俺たちの姿が見えないことに気づいても、自分の意識がうつらうつらしている間に俺たちとはぐれたと理解するだろう。とすれば、教会と俺たちの間は悪化はしない。
「で、どこに行くの?」
「当然、俺の父親探し」
矢野にきっぱりそれだけ答えた。心当たりはあるが、どことは言いきれない。まあ、行けば分かる訳だが。
「お兄ちゃん、爆心地って解は無いんじゃないかな?」
「なんで?」
「ひなたちゃんのお父さんたちって、教会の中枢部を監視してるんだよね?
爆心地って、食料調達難しいよ」
あかねの言葉には一理ある。爆心地を完全に封鎖し、誰も行かせないかのような教会の巨大なコロニー。その目的は爆心地を封鎖するため。すべてはそう思わせるため。本当に大事なものは別の場所にある。
としたら……。
「第2コロニーに行こう。
すべてはそこにある」
「なんで? 根拠はあるの?」
俺の言葉に矢野が突っ込んできた。
行動に根拠を求める性分なのかもしれない。
俺としては、ぐだぐだと説明するのは面倒だ。
「勘!」
胸を逸らして、勘ではあるが自信はあるぞ! 的な態度で言ってみた。
「男の勘? 男の子の勘?」
「男と男の子って、違うの?」
あかねの俺をいじめるための言葉にひなたが食いついてしまった。
「たぶん、そうなんじゃないかな。
お兄ちゃんに聞かないと分からないんだけど」
あかねがひなたにそう言ってから、俺に視線を向けてきた。
「お兄ちゃん、男の子が男になるのはなんつきなのかな?
前に私に女の子が女になるのは? って、聞いたよね?
やっぱこれもひとつき?」
「なんで一月なの?」
「おい、あかね。そのネタはもういいから」
「そっか、される方とする方じゃ違うから?」
意地悪そうな笑みで俺を見つめるあかね。
ひなたは意味が分からず小首を傾げている。
かつてあかねに出した下ネタクイズ。
あかねはその時の俺の事を嫌がっていて、何かにつけて、その事で絡んでくる。
今も、からんできて、意地悪そうな笑みを浮かべている。
ひなたはそんなあかねの言葉の意味が分からず、小首を傾げている。
ひなたが意味を分かっていない内に、話題を変えたい。そう思っているところに、服部の言葉が届いた。
「妹にそんな事いったなんて、信じらんない。
水野、私が一突きであんたを天国に上らせてあげようか?」
いや、それ、男女が逆だろ? 一突きは男の仕事だろなんて、言葉を口にできないくらい服部の目つきは鋭い。この下ネタの意味を理解して、さっきの怒りの上に、さらに怒りが上乗せされた感じだ。
「ああ、そう言う事」
矢野も気づいたらしく、ちょっと意地悪な微笑みを俺に向けている。
きっと、この変態とか、スケベとか思っているに違いない。
「なに?」
ひなたが矢野と服部に視線を向けている。まじめなひなたはまだ分かっていないらしい。
あの時、この話の意味が分からなかったあかねにやってみせた仕草。
あれをひなたにも見せてやりたい気がしないでもない。
まじめな女の子が、それで変わっていく? なんて……。
でも、しゃがみ込み、鷲尾のふくらはぎから視線を上げてく俺を笑って許してくれず、マジな目で村雨を構えるようなまじめなひなただ。そんな確率より、怒りを買って、村雨で成敗される方が高そうだ。
この意味をひなたに知られるのは危険すぎる気がする。
「それはね」
「矢野さん、待ってください」
ひなたが怒るのを避けるため、これ以上、この話をされたくなくて、割って入った。
そんな俺の気持ちを感じ取った矢野が、にんまりと微笑んだ。
「だったら、私の言う事聞いてくれる?」
「な、な、なんですか?」
とりあえず、聞いてみる。
「あの子とここではぐれようと言う作戦みたいだけど、思い直してくれないかな?」
「なんで?」
「愚策だからよ」
「なんで愚策なんですか?」
「だってさ」
そう言って、矢野は自分の作戦を話し始めた。
「それいいんじゃないかな」
ひなたがすぐに賛成した。
しかし、矢野の作戦を実行した場合、その場で鷲尾が牙をむくと言う可能性がある。
なずながそうだったように。
鷲尾はきっと神の使い。どんな力なのかは分からないが。
「何かあったら、どうするんだよ。
鷲尾が牙をむく可能性があるだろ」
「むいてくれれば、どんな牙なのかも、分かるじゃない」
「うーん、たぶんなんだけど、幻術に陥っているから、その牙が向けられるのは幻の中の私たちであって、リアルな私たちじゃないと思うんだよね」
俺の言葉に矢野とひなたが言った。
「仮に俺たちが大丈夫だとしても、幻相手に戦ったら、どこ攻撃するか分からなくね?
その辺の関係ない人に被害が出たら、どうするんだよ」
「その時は私が止めるし、お兄ちゃんは絶対守るよ」
あかねが言った。
あかねも矢野の作戦に賛成なんだろう。
「あかね、だがな、守るのは俺だから。
俺があかねを守る。お兄ちゃんなんだから」
「ありがとう、お兄ちゃん」
そう言って、俺の腕に抱き着いて来た。
またまた俺を幸せにするムニュッ感が腕に伝わる。
上目遣いに俺を見つめるあかね。ぞくぞくしてしまう。って、芝居なんじゃないのか?
「あかね、芝居じゃないよな」
「お兄ちゃんって、私の事をそんな風に思ってたの?」
悲しげで、今にも涙を浮かべるんじゃないかと言う顔つきだ。
「いや、そんな訳ないよな。
俺はあかねを信じているし」
「よかったぁ」
そう言って、あかねがさらに力を込めて、俺の腕を抱き着いた。
さらに強まるムニュッ感。妹のムニュッ感でも十分幸せになってしまう。
「言っておくけど、私は水野なんか、守ってなんかやんないんだからねっ!」
さらに怒りを上積みした表情で服部が言った。
「うーん、服部、俺はお前に守られる事は無いと思うぞ。
俺がお前を守る事はあるかもだけど」
「ふん。そう言うんだったら、守らしてあげるわよ。
せいぜい、私を守りなさいよ」
「えぇーっと、かなり複雑な人間関係みたいだけど、」
矢野がそう前置きしてから、言葉を続けた。
「で、どうするの?」
「分かったよ。
それでいい」
ひなたの村雨の幻術を使って、矢野とこのコロニーではぐれてから、第2コロニーに向かうと言う俺の作戦は中止となった。




