お仕置きの選択肢は村雨とあかねソードに、かんざし?
次の日、俺たちはひなたのコロニーを出た。
メンバーはあかね、ひなた、服部、鷲尾、矢野だ。俺以外は女の子と言う構成だが、ミニハーレム気分にはなれやしない。
鷲尾ははっきり言って、敵からの監視役、矢野は大人のボディから伝わってくるピンクのオーラを、漂わせた風格が打ち消していて、全く女性と言う存在で楽しませてくれやしない。
あかねを除いて、一番親近感を持てそうなひなたも性格がまじめすぎて、こちらはそもそもピンクのオーラを放っていないし、服部はなにかと突っかかって来るツンツン未果なんだから、話にもならない。
見た目は華やか、実態は窮屈感の方が大きい。
「あかねちゃん、あそこの生き物、光の目つぶしで戦闘不能にして!」
「颯太君は、あの辺りにあの生き物たちが潜んでいないか偵察に行って」
矢野が俺たちに指示を出し、俺とあかねを使いまくっている。
このパーティのリーダーは俺のはずなんだが、完全に矢野がリーダーなのである。
「お兄ちゃん、一突き大好きなのに、できなくて残念だね」
あかねがにこりとした笑みの裏から意地悪さを滲み出させながら言った。
「あら、颯太君って、突きが得意なの」
矢野があかねの言葉の表面を受け取って、俺にたずねてきた。
「あれ? 颯太君って、そうだったっけ?
あまり、そんなイメージ無いんだけど」
「そうそう。そんな記憶ないんだけど」
「服部、ひなたちゃんに同意するのはいいけど、お前、俺の剣道そんなに知っているのか?」
「し、し、知ってる訳ないでしょ。
見た事ないんだから」
「なんなんだ、そりゃあ」
意味不明な服部はともかく、ひなたの言葉は俺の試合のイメージからだろう。それは正しく、それほど俺は突きはやっていない。
「相手によるんだよ。
ねっ、お兄ちゃん」
「そうなんだ」
あかねが意味深な微笑みを俺に向けた。
あかねの意地悪から、逃れたい。
そんな思いで、あかねから視線をそらして、周りに目を凝らす。
はるか先にバリケードらしきものが、道を塞いでいる。
「あそこにコロニーらしきものが見えるけど?」
話題を変えるチャンスに飛びついた俺が大きめの声を上げて、指さした。
教会の鷲尾とはぐれるまでは、行先を明確にしていない。今までに行った事の無いコロニーを調べて回ると言う事にしつつ、爆心地や第2コロニーから遠ざかろうと、この世界の外縁部に向けて進んでいるだけだ。
「鷲尾さん。あれって、教会のコロニー?」
「はい。第8コロニーですね」
「教会の支配下に、あの二人はいないはず」
教会支配下のコロニーは極力避ける。
鷲尾とは普通のコロニーの中ではぐれたい。
今回見つけたコロニーはそう言う意味では意味のないコロニーではあったが、あかねのいじめから逃れるには、話題を変えれて、いいコロニーだった。
そのコロニーを後に、さらに進んでいき、そんなこんなで三回目に見つけたコロニーは教会の支配下じゃないらしい。
「じゃあ、入ってみますか」
そう言って入ったそのコロニーの規模は中規模程度で、鷲尾とはぐれるには適度な広さだった。
人の数もまずまず。すさんだ雰囲気はない。
だが、人々の表情はどこか暗く、元気さを感じられない。
ここのところ幸せそうな教会系のコロニーを見てき過ぎたからであって、このくらいが普通のコロニーと言えば、そうなのかも知れない。
「あまりお店がないね」
あかねの感想はもっともだ。
「すさんだ感はないが、寂れている感じかな」
そんな事を言いながら、コロニーの奥に進んでいく。目指すのはそれなりに進んで行ったコロニーの奥で、人通りのいないところ。そんな場所を目指していると言うのに、人々の喧騒が大きくなってきた。
「なんだ?」
「行ってみましょう」
矢野が言った。大人の矢野に主導権を奪われっぱなしだ。
が、矢野がそう言って喧騒の方向ら体を向けた時、矢野の大人の胸がぽよんと揺れるのを見た気がしたので、まあ良しとしよう。
大人の意味を俺にも教えてくれよ! なんて、頭の中で叫びながら、その後について行く。
喧騒の元はコロニーの中にある広場だった。
他に場所は無かったのかよ! と言いたいところだが、ジャングルジムのてっぺんに一人の男が立って、目の前に集まった人たちに演説のようなものをしていた。
パッとしない場所だが、集まった群衆たちは興奮気味だ。
「何度も言うが、これが最後のチャンスかも知れない。
教会との約束を破棄し、軍を受け入れるべきだ」
どうやら、軍につくべきか、教会につくべきかと言う話らしい。
「外から来たんだけど、どういう状況なの?」
矢野が集まっている人たちの近くにいた一人にたずねた。
「あ? ああ。
あんた教会の人?」
「いいえ」
「ここはな、教会の傘下に入る事を決めていたんだ。
教会の傘下に入れば、電気はあるし、食料もあるし。
だが、この前、軍が教会に勝ったとかで、軍からも使者が来たんだ。
で、どちらに付くべきかで、意見が割れているんだ。
あんたはどっちがいいと思う?」
「そりゃあ、軍でしょ」
うんうん。と頷いてしまった。それは同意と言う意味ではない。矢野の答えとしては当然と言う意味でだったが、男は俺が頷くのも確認して、そうか的な表情で唸っている。
「軍の補給部隊はそこまで来ている」
ジャングルジムの男がそう言うと、集まっている人たちがヒートアップしたのを感じた。
「そこまで来ているのか」
「軍の方が信じられるだろう」
みんなの視線は横にいる仲間か、ジャングルジムの男に向けられている。
群衆の輪最外周にいる俺たちに目を向けるような者の姿は見られない。
背後を振り返って見ても、人気は無い。
人気のない場所。
鷲尾をまくのは、そんな場所とは限らなさそうだ。
「ひなた」
そう呼び掛けて、視線をちらりと鷲尾に向けると、ひなたは右手を村雨の柄に手をかけて、小さく頷いた。
ひなたが密かに移動し、鷲尾の背後に回り込んだ。
チャッ!
抜刀したかと思うと、一瞬の内に鞘に納めた。
スカートからのぞく鷲尾のふくらはぎに、一直線に伸びる血のあとが見て取れる。
「終わったよ」
普通の声で、ひなたが言った。
「おいおい、しーっ!」
立てた人差し指を唇にあてて、ひなたに注意した。
「大丈夫だよ。
もう幻術の世界に入っているから、リアルな私たちの声は聞こえていないよ」
「マジで?」
頷くひなたから、鷲尾のふくらはぎに目を向けた。
なんと、そこにはしゃがみ込んでいる矢野の姿があった。
「何してるんですか?」
「いやあ。本当にうまく皮一枚斬ってるなあって」
その言葉につられて、俺もしゃがみ込んで、鷲尾のふくらはぎを背後から見てみた。
ほっそりとしていつつ、女の子の柔らかさを感じさせる輪郭と、白い肌。
その輪郭につられるかのように、視線が上に移動していく。
明るい日差しの下、くっきりとしていた輪郭はやがて太さを増していくと共に、濃い影に包まれていく。
この位置からだと見えるはず。生足のその上、スカートに隠された二つの足がつながっている部分に興味を抱きながら、視線を上げていきつつある俺の視界の中に、怪しく輝く金属光沢が入って来た。
「颯太君?
何しているのかな?」
ひなたが抜刀した村雨を俺の顔の前に突き出していた。
そのまま一度持ち上げ、構えなおして、振り下ろすと、俺の首は胴体から旅立ってしまうじゃないか。
「いやあ、マジでうまく斬っているなって。
は、は、ははは」
笑ってごまかしながら、立ちあがる。
「お兄ちゃん、お仕置きされるとしたら、村雨とあかねソードのどっちがいい?」
「水野って、女の子なら、誰でもいい奴なの?」
あかねがあかねソードの柄を握りしめながら、冷たい笑みを浮かべていた。そして、服部はなぜだか自分の頭で揺れるかんざしに右手をかけていた。




