頭の中をいじられた高垣
部屋を揺るがす振動。
みなが不安げな表情を浮かべている。
「なんだ?」
「戦車部隊が近づいてきているのかな?」
俺の言葉に矢野が言った。本当は軍人の矢野が言ったんだから、きっと当たりだ。
「しかし、そうだったとしたら、なんでだ?
交渉は明日だろ?」
「私、見てくる」
そう言って出て行ったひなたが戻って来るまでに、それほどの時間を要さなかった。ひなたの話では、このコロニーの周辺に軍の戦車部隊が展開し終えているらしかった。
そして、軍から使者としてあの高垣がやって来ているらしく、ひなたはそれだけ話すと、俺たちを残して、再び部屋を出て行った。
このコロニーの有力者たちと、軍の話し合い。軍に元々協力を求めると言っていただけあって、話し合いなんてすぐに終わるだろうと思っていた予想に反して、ひなたはなかなか戻ってこなかった。
ようやく戻って来たのは、この部屋に窓があれば、夕日が部屋の中をオレンジ色に染めているだろう頃だった。
「えぇーっと、颯太君とあかねちゃんは、ちょっと来てくれないかな」
ひなたはそう言って、俺とあかねを別の部屋に連れて行った。さっきの部屋から少し離れた、真ん中に小さなテーブルが一つ置かれただけの小さな部屋。
ひなたが座った対面に俺とあかねが並んで腰を下ろした。
「で、話って?」
「私のお父さんとも連絡がついたの」
「で、マスクの男の名前は聞いてくれた?」
「木原って名前らしいけど」
俺の父親ではないのか?
ちょっと残念だ。
としたら、何者なんだ?
「で、今交渉に来ている軍の高垣って男は教会に操られているらしいの」
木原と言う苗字に関する俺の反応などどうでもいいかのように、ひなたは話を続けた。
が、その言葉は俺の反応を無視するだけの大きな問題だ。
「なんだって!」
「私のお父さんたちは、教会の中枢部を奪取しようとしているらしいの」
「中枢部?」
「そこに何があるのか、どうして、それを奪取する必要があるのかは教えてくれなかったんだけど。
で、その近くにいるらしくて、監視もしているらしいの。
そしたら、高垣がそこに連れて来られて、半日ほどでそこから出て行った」
「それだけで、どうして教会に操られているって事になるんだ?」
「記憶を書き換えられたはずだって」
「そこには、記憶を書き換える装置があるって事か?」
「でしょうね」
「高垣の事は加藤とかに伝えたのか?」
「今は気づいていないふりをしてるの。
で、その高垣がソーラーパネルの蓄電システムが焼損したのなら、バリアも張れないだろ。もうここを守れるのは軍しかいない。
私たちの身の安全を確保するためにも、軍管理下のコロニーに移れって」
「確かに、光のバリアが無いと厳しいな。
で、どうするんだ?」
「そんなやり取りをしているところに、うまくお父さんから連絡があって、私と何人かが抜けて、お父さんと話してきたの。
それがさっきの話。
本当はね、ソーラーパネルはフェイクなの」
「つまりあれか。
人は見たいものしか見ないってやつか」
ひなたの言葉の意味を俺はそう理解した。
「お兄ちゃん、私は見ないんじゃなくて、お兄ちゃんが見たいものをちゃんと見せてあげたいな」
あかねがそう言って、にこりとした。
ありがとう、あかね。
見たよ。見たいもの。俺はあかねの笑顔を見たいんだ!
「だから、あかねちゃんって、お兄ちゃんにあんな態度なんだぁ」
ええっ!
そうなのか? やっぱ、あかねのあの態度は芝居なのか??
「違うよ。
私はお兄ちゃんが好きなんだもん」
そう言って、あかねがまたまた俺の腕に抱き着いて来た。
ムニュッ感! 見たいだけでなく、感じさせてくれる。
あかねはサイコーだ。
「あかねちゃん。
分かったから、話を戻そう」
「はあい」
そう言うとあかねは俺の腕から離れた。ここで、あかねを見ると、ただの妹のあかねになっているのが、いつもの事だ。
俺はムニュッ感とかわいいあかねの余韻に浸っていたくて、一人瞼を閉じた。
そんな俺の気持ちなど知らないひなたが、まじめな話を続けだした。
「ここを守る光のバリア。あれを作るエネルギーはどこから?
そう思った人があのソーラーパネルを見ると、あれがそうだと思っちゃう訳。
だから、今回蓄電システムを破壊した人も、教会のなのか高垣の指示なのかは分かんないんだけど、あれを狙ったんだと思う。
でも、本当はね。地下の高圧配線網から盗んでいるの」
かつてより首都の地下に電気を送るため張り巡らされている高圧の配線。
教会はその配線網を再構築し、自分たちの支配下にのみ電力を供給している。
「それって、教会のって事だよね。
確かに今も、この部屋の電気は点いているし」
笑わずにおられなかった。
教会あるところに光あり。その中にあかね色の光も入っていた訳だ。
教会あるところに、あかね色の光あり。
「そう。
なので、今でもバリアは使えるんだけど、今度使うとそのエネルギーがソーラーパネルじゃないとばれちゃうのよ。
しかも、乗り込んできている軍の高垣は教会に頭の中いじられちゃっているしするから、はっきり言って、私たちの敵なのよね」
「やっちゃう?」
ひなたはまじめだ。
ちょっと息抜きをしたくて、あかね風にあかねソードの柄を構えて言ってみた。
「そんな事で解決はしないわ」
さすがまじめなひなただ。マジな返事が返って来た。
「そうだよ。お兄ちゃん」
あかねまでひなた風の返事をしてきて、仕方ないので、あかねソードをポケットにしまった。
「ここを軍に引き渡すことにしたの。
みんなは安全なコロニーに移動する。
私たちはそれとは別に教会の中枢部に向かいましょう」
「待て。
二つ聞きたいことがある」
ひなたが言葉の代わりに頷いて、承諾を表した。
「ここのバリア装置を高垣に、教会に渡すつもりか」
「大丈夫よ。
私たちが去った後、遠隔操作でマスクの男がここを破壊するわ」
「よかった。
敵に渡す事には反対だからな。
それに、その話から言って、マスクの男も同意しているって事だよな?」
ひなたは再び頷いた。
「もう一つの質問。
教会の中枢部のある場所だが、それは爆心地近くじゃないのか?
としたら、教会のコロニーを通って行かなければならない」
「それは教えてもらえていないの。
危ないから、来てはならないって。
だから探さないといけないの」
「可能性が高いのは爆心地か、凛、おそらく本物の凛と出会った第2コロニーだ」
俺たちは目標として、本命を爆心地、最初に訪れるのは第2コロニーと定めた。
そして、ひなたは父親から危ないから来るなと言われたと言うのに、俺たちと行動を共にすることにした。




