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軍人 矢野

 あの危ない生き物たちがうろつくコロニーの外で、男たちに襲われていた矢野と言う大人の女性。と言っても、それは芝居で、目的は俺たちに近づくことらしい。それを知っているのは今のところ、俺だけだ。

 そんな事情を知らない俺と共にいる女性陣たちは、矢野の事をマジで心配顔で見ている。


「無事でよかったです。

 あの人たちはなんだったんですか?」


 矢野に質問したひなたの視線はもちろん、あかねの視線も、鷲尾の視線も、服部の視線も矢野に向けられている。どうして矢野が俺たちに近づいて来たのか。その答えは俺のシャツの中にある。一人で読めと言ったその答え。今はその答えを知るチャンスだ。

 みんなの視線が矢野に集中している隙をついて、ズボンに手を突っ込むと、シャツとおなかの隙間に手を入れて、矢野が入れたものを取り出した。

 みんなの視線は矢野に集中したままで、俺の事など気づかれていない。


「あの人たちの車で、コロニーを移動していたの。

 そしたら、突然、襲われて」

「そう言えば、こっちの世界に来てから、そんなの多い気が」

「こんな事になった時、あの生き物たちの男はそこら中で襲ってたよ。

 まったく」

「あれが男の本性なんじゃないかな?」

「本当、男の人って、そんな事ばっか」



 女性陣は男の非難で盛り上がっている。男は女の子が好きなんだよ! と言いたいが、そんな事言ったら、総攻撃されそうだ。

 そんな事を考えながら、取り出した紙を隠れて見た。


「彼女はきっと君たちの役に立つ。

 君の正義感に期待しているよ。加藤」


 つまりこの矢野って人は、軍側の鷲尾のような存在らしい。


「矢野さんも気を付けてくださいね。

 あの人、突然、胸揉むらしいです」


 はい?

 あかねの嘘を完全に信じ込んだ鷲尾が、変な事を矢野に言った。


「えっ? そうなの?」


 矢野が白い目で俺を見ている。初対面だけに、完全に信じ込んでいるじゃないか。


「そんな事してませんよ」

「なんですよね?」


 俺が否定すると、鷲尾がすかさず服部に話を振った。本当の事を言ってくれよ! と言う俺の願いもむなしく、服部が言う。


「許してなんかやらないんだから!」


 何を許してくれないと言っているんだぁぁ?

 抽象的過ぎて、話の流れから行けば、俺が胸を揉んだと言う事になってしまうじゃないか。

 どうせ、そんな風に誤解されるのなら、揉んでおけばよかったじゃないか!


「服部さん、ごめんね。

 お兄ちゃんは、もう服部さんに近づけないで、私だけのものにしておくねっ」


 あかねがにこりと微笑みながら言ったが、何かその表情には意地悪が隠されているように感じてしまうのはなぜなんだ?


「えっ? い、い、いえ、いえ、そ、そ、そんな事しなくていいから。

 本当、しなくていいから」


 服部の態度も意味分からない。


「だって。

 お兄ちゃん、もう服部さんはお兄ちゃんの事、誤解させるような事は言わないと思うよ」


 まじで、そうなのか?

 だとしたら、ありがとうぅぅ、あかね。いや、待て、最初にこの話を鷲尾に言ったのはあかねじゃないか!


「そう言う事なのね」


 矢野が意味深な笑みを浮かべて、俺を見てから、言葉を続けた。


「ところで、私も一緒に連れてってくれないかな?」


 拒否る事もできる。何しろ、高垣が俺たちとのかかわりを拒絶したばかりだ。

 が、加藤個人には高垣や大久保達とは違うものを感じる。


「どうするの? お兄ちゃん」

「そうだな。

 このままコロニーの外に置いていく訳にはいかないだろう」

「ありがとうございます」


 矢野がそう言って、頭を下げた。

 これでまた一人仲間が増えた。

 男の俺一人に、あかねにひなた。そして、数だけなら、俺にツンツンした態度をとるツンツン未果に、教会からの監視役と言っていい鷲尾、軍からの監視役的な矢野も加えると、人数バランス的にはミニハーレム状態だ。


「お兄ちゃん、あの人はきっと大人の・お・ん・なの人だね」


 あかねが俺の耳元近づいて、囁いた。

 そう。俺が今まで知る事のなかった大人の女の人が、仲間に加わった訳だ。それも干からびていない、ぴちぴちの。

 そんな事を考えていると、矢野の服が一枚、また一枚と俺の脳裏の中で、はぎ取られていく。

 体を寄せあった矢野と俺。矢野が俺を未知の世界に導いてくれる。

 大人の女は大人の女の魅力があるとか。そんな妄想を抱きながら、矢野の胸の膨らみから、腰のくびれ、スカートからのぞく足に視線を移動させていった。


「颯太くん。

 目つきが変だけど、邪な事考えていないよね?」


 そう言ったひなたの右手は脅しのためか、村雨の柄にかかっているし、鋭く突き刺さる目の光はマジだ。あかねが俺で遊んでいるとしたら、ひなたは遊びの通じないマジだけの奴。へたすると危ない存在だ。

 あかねに言ったあの下ネタ。あかねでさえ、あれだけしつこく根に持って、俺をいじめてくるだけの破壊力があったんだろう。

 もしも、あんな下ネタを冗談の通じないひなたに言ったら、村雨の錆にされるだけかも知れない。

 ひなたの前では下ネタはもちろん、女の子への興味も封印した方がいいかも知れない。


「もちろん。俺は草食系だし。は、は、ははは」

「どうして、そんなに気が多いの!

 浮気な男は嫌いなんだからねっ!」

「でもね、服部さん。

 お兄ちゃん自分で言ったでしょ。そうしょく系って。

 そうしょくけいって、女の子はみんな食べちゃうよの総食系なんだよ。

 知らなかった?」

「いや、あかね。

 それは違うぞ」


 そう言い返す俺の顔は引き攣っている気がした。

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