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破壊されたコントロールルーム

 司祭が偽りの力で人々を改宗させるために使っていた元ホールらしき建築物。全ての信者たちが本当にこのコロニーから出て行ったかどうかは分からないが、少なくとも俺たちがいるこの建物には近づいては来ない。

 いや、はっきり言って、信者どころかこのコロニーの一般人も、誰も近づいてこない。そんな建物の中を探して、俺たちは人の記憶を読み出す装置のコントロールルームを見つけた。


 10畳ほどの部屋に並べられたモニター。いくつかはカメラの映像で、いくつかはコンピュータ画面になっている。カメラ映像の一つはあの司祭がインチキをやっていたステージを映し出している。

 ここから操作していたことはほぼ間違いない。


 俺は人のコピーを製造したり、記憶を転送する装置を父親が開発していると言うのは聞いてはいたが、それだけであって、俺にもあかねにも操作する知識は無い。目の前にある装置は、今の俺たちにとって役に立つ代物ではない。


 いや、それ以上にこんなもの存在自身が許されるのだろうか?

 たとえ、父親が開発した装置だとしてもだ。


「で、どうしますか?

 俺的には破壊した方がよいかと思うんだけど」

「いや、それは止めておこう。

 外の世界にいる軍にでも引き渡した方がいいだろう」

「軍がこの世界に来るのか?

 いや、それ以上に、こんな装置は存在自身が問題だと思うんだけど」

「颯太くん。君は君のお父さんが開発したシステムを勝手に破壊できるのか?」

「そ、そ、それは」


 確かにそう言われてしまうと、勝手に破壊する気はひけてしまう。


「あかねちゃんはどう思う?」


 大久保はあかねにたずねた。


「私はお兄ちゃんに任せます。ねっ」


 そう言って、にこりとした笑みを浮かべて小首を傾げるあかね。

 か、か、かわいい。

 偽りのかわいさと知りつつも、胸がきゅんとなってしまう。


「ああ」


 あかねにはそう言って、大久保に向き直る。


「大久保さんが言うのも確かだ。

 この装置はこのままにしておこう。

 まずは教会の奴らの手に渡らないよう、軍がやってくるのなら、管理を任せよう」


 ちょっと兄貴っぽく言ってから、あかねに目を向けると、あかねは尊敬のまなざしっぽい視線を俺に向けていた。


「親子でもなかったんだね」


 なずなの声に振り返ると、「へぇぇぇ」的な表情で、部屋の入り口付近に立っていた。


「待ってろって言ったじゃないか」


 そう。この装置の事とは関係の無い者を巻き込むべきじゃないと言う考えから、なずなは連れてこない事にしていたのだ。だと言うのに、勝手についてきていたらしい。


「だって、一人じゃ心細くて。

 ごめんなさい」


 しょんぼり的な雰囲気で、そう言われると庇わずにいられなくなる。


「俺の方こそごめん。

 だよな。一人じゃ心配だよな」

「許してくれるんですかぁ?」


 俺の言葉になずなの表情がぱぁーっと明るくなったのを感じた。


「もちろんだよ。

 許すも許さないも無いよ」

「よかったぁ」


 女の子のうれしそうな笑顔はこんなに輝くんだ。そう思わずにいられないほど、かわいいじゃないか。しかも、こっちは妹と違い、きっと本当のかわいい系に違いない。そう一人、俺が頷いた時、あかねに脇腹辺りを軽くつねられた。


「お兄ちゃんのばか。

 なに、デレデレしてるのよ」


 あかねは口先を尖らしたふくれっ面だ。お兄ちゃんが別の女の子とデレデレしている事に妬いたと言うシチュエーションに、100点満点の対応。

 司祭を恫喝するあかねとは全くの別人だ。

 一体全体、どれが本当のあかねなんだ?

 いや、この全てがあかねなんだ。

 そう、これこそが小悪魔なんだ。

 いよいよ妹の小悪魔ぶりに磨きがかかってきたんじゃないのか?

 でも、いい。許す。

 その表情、俺の胸に突き刺さってしまうから。



 崩壊した首都圏を取り囲むだけで、何もしなかった軍。

 いや、こちらの世界では教会の特殊能力を身に付けた異能の神の使いたちとの戦いに破れたと言う話も聞いているが、ともかく、俺が知っている範囲では沈黙を守っていた軍が動いた。

 俺たちが人の記憶を読み出したり、書き込んだりできるシステムの監視をはじめてから一週間ほどでやって来た軍との折衝は全て大久保が行った。

 外の世界からこちらの世界に来る時も、大久保が裏のルートと言うものを駆使して、お金と策で軍の監視を掻い潜ってやって来たくらいだから、元々軍との何らかのつながりは持っているらしい。それは俺の父親もだったので、特に気にはしていないが。

 それよりも、爆心地を目指したい俺はここをさっさと出ていくため、軍が到着すると同時にシステムの管理を軍に引き継いだ。


 そして、その惨劇が起きたのは、俺たちが軍にシステムの管理を引き継いだ夜の事だった。軍は警備のため、そこに何人もの兵士たちを配置していたにも関わらず、システムは何者かによって、破壊され、警備についていた兵士たちも殺害された。

 その現場の惨状は直接見てはいないが聞くところによると、ある者は首が180°逆方向に向けられ、ある者は首が千切り取られると言う物理的な力で、肉体が破壊されたような状態で殺害されたらしい。ここの司祭も首をもぎ取られると言う肉体の物理的な損壊で殺されていた訳だから、犯人は同一人物かも知れない。兵士たちが惨殺された事で、軍は非常事態に入っているが、犯人は見つけられていない。


 銃器を装備していた大勢の兵士たちを一体どうやって?

 危険な犯人が今も近くにいるのか?


 そこは気にはなるが、襲われたのは軍であって、俺たちではない。それどころか、俺的にはあの装置の存在自身が疑問だったため、破壊されたと言うのはある意味好ましい事でもある。このコロニーは軍に任せて、さっさと次を目指すに限る。


 騒然とした空気の中、爆心地を目指すため、俺はあかねと大久保と共にバリケードを抜けて、コロニーの外に出た。

 そして、俺たちと一緒にいたいと言うので、なずなもである。これはかわいい女の子を一人、置いておくわけにはいかないからであって、あわよくば的なやましい心からではない。と、自分自身を納得させ、時折なずなが間近に近づいてきて俺に見せるうっとり笑顔に沸き起こるムラムラ的な気持ちと、股間に集まりそうになって来るエネルギーを理性で抑え込んでいた。

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