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この世界の答え

 俺は今日会った凛との話の中で、教会の全知全能の神のヒントを得ようとしていた。それを感じ取っていたあかねは、俺の前でにんまりした笑みでベッドに腰かけると、ポンポンとベッドの自分の横のあたりを叩いた。あかねは妹なので、とりあえずそれなりの距離をとって、あかねの横に座った。


「ひなたの事もすべて知っているとか言っていたが、ひなたが持つ妖刀 村雨の事を凛は知らなかった。

 どうやら、知らないこともあるらしい」

「もう一つ知らない事があるみたいだったよ」

「なに?」

「ひなたちゃんが剣道を始めた時期とか、あの子の昔の事は知ってたみたいなんだけど、最近の事は知らないみたい」

「どう言う事?」

「ひなたちゃんがお兄ちゃんの事を好きだって話」

「意味分かんないんだが」


 俺の言葉にあかねが顔を近づけてくる。

 なんだ?

 ほっぺにキス? な訳ないよな。


「あ・の・ね」


 耳元で囁くあかねに、ぞくぞくしてしまっている俺の耳に衝撃の言葉が続けられた。


「あ・れ・は・う・そ」


 あかねはそう言うと、俺から顔を離した。

 ちょっと驚いた顔で、あかねに目を向けると、あかねは意地悪そうな笑みを浮かべていた。


 えぇぇぇっ! 嘘だったのかよ!


「ショックだった?」

「え? あ、いや、そんな事はないし。

 て言うか、元々信じてなかったしぃ」


 そう強がってみせる。

 俺って、あかねの嘘に踊らされていたのか?


「と、と、ところで、どうしてそんな嘘を言ったんだよ」


 隠そうとしているムッとした気分を隠しきれず、どもりながら、ちょっときつい口調になってしまった。


「だからぁ、最近の出来事も知っているのかな? って、思ったので試したの。

 知っていたら、嘘だとか言ったんじゃないかな。

 ひなたちゃんが三歳の時に剣道を始めたって私のつくり話を否定したくらいなんだから」


 ちょっと、胸を逸らしてあかねは威張り気味だ。そう言う事に気づいて調べたのは確かに威張っていいかも知れないが、方法が間違っているだろ! と、怒りたくもなる気持ちをぐっとこらえる。


「つまり、過去の事でも知っている事と知っていない事がある。

 最近の事は凛の居場所やひなたの事も含めて、今のところ知っている事実は確認されていない。

 と言う事だな」

「最近の事でも、知っている事があるのかどうかは分からないけど、今のところ知らないって事でいいんじゃないかな?

 あとは昔の事で、知っている事と知らない事の差は何なのか、って事が大事かな」

「その差は何なんだ?

 そこにすべての謎を解くカギがあるんじゃないか?」


 あかねがにんまりとした笑みを浮かべて、言葉を続ける。


「私が思うに、ひなたちゃんしか知らない事とか、あの日ひなたちゃんと一緒に下校していた友達のさくらちゃんしか知らない事は、きっと偽物 凛ちゃんは知らないはず」


 俺はずっと閃きそうで、閃かなかったこの世界の答えに手が届いた気がした。


「どんな仕組みなのかは分からないが、脳の中のシナプスの結合情報を読み出すシステムが完成していなくて、読み出すときにそこを破壊したと言う事か?

 今も記憶を持ち続けている人はあの時、記憶を読み出せていない人であって、その人しか知らない事は偽物 凛は知らないって事だな」

「たぶん。

 その集めた記憶を圧縮、再構築して偽物 凛ちゃんの頭に形成させた。

 神を作るとは、巨大な実験室である首都圏に住む人たちの記憶すべてを読み出して、一人の子の脳の中に再構築する事だったんじゃないかな。そして、その対象は高山とかではなくて、偽物 凛ちゃん。

 偽物 凛ちゃんを見ていると、神を作ると言う事は半ば成功したのかも知れないんだけど、あの実験自体は失敗したんだと思う。

 きっと、人間たちをあんな事にするつもりはなかった。

 なので、街の異変に気付いたお父さんはシステムを緊急停止したんじゃないかな。

 でも、そのシステム自身が未完成だったので、緊急停止がうまく停止せず、街の一部を破壊した。

 多くの人の記憶を一度に読み取ろうとしたんだから、その装置の数は多かったはず。

 破壊が起きた建物は、きっとその装置が近くにあった」

「たぶん、そんなところだな。

 もしかすると、その記憶はどこかにあって、元に戻すこともできるんじゃないだろうか?」

「そこはお父さんを見つけて、聞いてみないと」

「そうだな。

 あと気になるのは、教会は凛とお父さんを探して、何をしようとしているのかだな」

「で、あの子はどうするの?

 鷲尾さんの事だけどさ」

「そうそう。その事で来たんだ。

 ひなたを呼んできてくれないか」

「襲うの?」


 そう言って、あかねは自分の胸の辺りをかばい、ちょっと俺から距離をとってから、言葉を付け加えた。


「押し倒すんだったら、服部さんの方が問題にならないと思うんだけど」

「いや、だから、それ違うし、なんで服部なら問題にならないんだよ!

 それこそ、どれだけ怒られるか。あのツンツン娘だぞ!」

「本当に、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから」

「意味分からないんだけど。

 そもそも、俺の事、なんか誤解してない?」

「だって、なずなちゃんの事だって、いやらしい目で見てた時あったし、私に一突きなんて仕草でするし。

 普通、しないよ。そんな事。

 もしかして、欲求不満?」

「その話、許してくれよぅぅ。

 ひなたに、これからの事を話しておきたいんだよっ!」


 俺をいじめて楽しんでいるとしか思えないあかねに、最後は強い口調で言った。

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