凛ちゃんのライバル、ひなたちゃん?
凛は俺たちが俺の父親と凛のコピーを見つけたら、教えてほしいと言った。
つまり、それは全知全能から外れた情報。
教会の全知全能の神。それは実は不完全なものらしい。
知っている情報と知らない情報。そこを俺的にははっきりさせたい。
「なんで?」
まずは、素直に探している理由から聞いてみた。
「私のコピーはね、たぶんなんだけど、最初はただの私個人に入れ替わろうとしてたんだと思うんだけど、今では教会の神の意思を取次ぐ立場の私に入れ替わる事になっちゃうんだよね。
それって、すっごく危険な訳。
私のように人々のためにって思っている訳じゃない人が力を手に入れたら、とんでもない事になるんだよ」
「なるほど。分かったよ。
で、凛は俺に頼ってくれてるって訳だ」
「うん」
そう言って微笑む凛は、いつもの凛だ。
「そう言えば、いつだったか、凛に頼られた事あったよな」
「それって、小学校の時の夏休みの宿題 自由研究の事かな?」
「ああ。そうだ。
覚えてくれていたんだね」
「当たり前だよ」
これは全知全能でなくても、凛なら知っているはずの事だ。
「そう言えば、今、別室に連れて来ている犬塚ひなたの事なんだけど、色々知っているんだよね?」
「有名な女子高生剣士」
「あの子って、そんな有名だったんだぁ!」
なぜだか、異様なほどの驚きの表情であかねが言った。
ここはそれほど驚く情報ではないだろ。
あかねの態度が分からなくて、ちょっと驚いた視線を向けた。
あかねは俺に視線を向けて、にこりとした表情で言葉を続けた。
「そう言えば、確か3歳くらいから、剣道を始めたんだったよね?」
あかねが語ったその話は、俺的には初めて聞く話だ。
ひなたの過去なんて、俺は知りやしない。
逆に、なんでそんな話をあかねが知っているんだ?
もしや、あかねも全知全能の神なのか?
「えぇーっと、そうなの?
俺は知らないんだが、なんで、あかねはそんな事知ってるんだ?」
「えっ? ひなたちゃんが言ってなかった?
あっ、そっか。あの時、お兄ちゃん、ひなたちゃんの胸の膨らみに視線をロックオンしてたから、耳からの情報は処理してなかったんだ」
いつの事だか分からないが、ひなたの胸の膨らみにロックオンしていた事があるのは確かだ。もし、あかねの話が本当だとして、他の女の子の胸に気を取られていて、話を聞いていなかったなんて、凛には思われたくはない。
なんて話をするんだ的な視線をあかねに向けながら反論した。
「えっ? いや、そんな事はない。
俺はひなたの胸なんか、見ていないぞ。
それに、そう言えば、そんな事言ってたような気もしてきた」
「その話は変ね。
あの子には剣道をやっていたお兄ちゃんがいたんだけど、不幸な事故で亡くなってね。
その後から剣道を始めたみたい。小学校低学年かな」
凛があかねに説明した。
全知全能の神がいる教会と言う事を示したいのだろう。としたら、あかねの話は間違いと言うことになる。
「そうなんだぁ。
私の思い違いだったかな。
あ、お兄ちゃん、話の邪魔してごめんね」
そう言ったかと思うと、あかねがちろりと舌を出して、自分の誤りをあっさりと認めた。って、今の話はなんだったんだ?
もしかして、あかねも凛を試しているのか?
そんな視線をあかねに向けてから、話を戻した。
「あの子が持っている日本刀は実は妖刀だったんだ。
なんでも、抜刀すると刀が持つ妖力に囚われて、殺人鬼になっちゃうらしいんだ」
そこで言葉を止めて、深刻な悩みがあるんだ的な視線を凛に向けた。あかねは俺の横で、俺の嘘の話に突っ込みもせず、うんうん的に頷いている。どうやら、あかねは俺が凛を試している事を理解しているらしい。
としたら、さっきのあかねの話もその手の話なのかも知れない。
「で、今のままじゃあ、使い物にならないから、何とかならないかと頼られているんだけど、全知全能の神の力で何か知らないかな?」
「えぇーっと、颯太。
元々その手の類のものは信じてなかったよね?」
「ああ」
はっきり言って、今も神も仏も、あの世も信じちゃいない。が、ひなたの村雨の妖力だけは信じざるを得ないと思っている。
「そんなものはこの世になくて、人々が何かに頼りたくて作り上げたものが、神や仏の真実なんだよ。
まあ、全知全能の神を祀っている私が言うのもなんだけどね。
だから、ここだけの話にしておいて欲しいんだけど、妖力なんてものも誤解とか幻だから、それを解決する手段と言うのは、無いんだよ。
元々無いものを解決しようにもね」
「なるほど、そう言う事か。
分かったよ。
とりあえず、親と凛のコピーを探す事にするわ」
「心当たりとかはあるのかな?」
「悪いが無い」
そう言いきった俺の耳にあかねの言葉が届いた。
「凛ちゃんそっくりな女の子のいる場所でしょ?」
あかねがにんまり顔で俺を見た。
目の前の凛が探している凛のコピーと言う少女の居場所の心当たり。それが第2コロニーだと言う事は、あかねも知っている。
俺的には、今はそれを明かすべきじゃないと思い、「心当たりは無い」と答えた。
だと言うのに、ここで突っ込みか?
何を言う気だ。ちょっとした不安が沸き起こる。
「凛ちゃん。お兄ちゃんがそんな子のいる場所知ってたら、そこに行っちゃってるよ。
だって、お兄ちゃん、凛ちゃんにぞっこんだもん」
そこまで言って、あかねは視線を俺に戻した。
「ねっ! お兄ちゃん」
そう言う展開だったのか。
つまり、俺の言葉を援護してくれている訳だ。が、ちょっと照れる言い方じゃないか。
「な、な、何を言っているんだ」
「凛ちゃんはどうなのかな?」
戸惑う俺から視線を再び凛に移してあかねが言った。
「そう言えば、はっきりと気持ちを伝えた事無かったわね。
でも、そんなのは二人っきりの時がいいかな」
「妹がいる前じゃ言えないよねぇ」
あかねが意地悪そうな笑みを浮かべている。
「でもね、凛ちゃん。
ここだけの話なんだけど、ひなたちゃんがお兄ちゃんの事好きだって、私にこっそり言ったんだよ」
えぇっ! マジかよ!
全くの予想外の言葉だ。
が、男として、女の子に好きと言われて、悪い気はしない。
ちょっと、頬が熱くなったような気がする。
「男ってさ、必ず一人の女の人だけが好きって訳じゃないから、凛ちゃんがはっきりしないでいると、ひなたちゃんにお兄ちゃん盗られちゃうかも。
凛ちゃんのライバル登場だね!」
そう言い終えると、あかねは俺に目を向けて、微笑んだ。
「ねっ! お兄ちゃん」
「いや、お、お、俺は一人だけだぞ。
神に誓ってもいい」
「本当に?
だったら、私としてはうれしいかな」
凛がちょっとはにかんだ風の笑顔で、俺に言った。
「ねぇ、それはそうと、食べ物用意したんだから、食べて行ってよ」
「ごめん。
善は急げと言うからね。
行こう、あかね。
俺たちの手で、凛のコピーを見つけ出そう」
「凛ちゃん。
お兄ちゃん、照れて恥ずかしいんだよ」
立ち上がった俺の横で、あかねが言った。
段々恥ずかしくなってきそうで、出口を目指し始めた俺に、凛が待ったをかけた。
「待って、颯太」
「何?」
「連絡のために、一人連れて行ってもらっていいかな?」
そう言うと、凛はテーブルに置かれていた花瓶の中から、花を一本取りだすと、軽く振った。
何の、誰への合図だ?
そう思っていると、少女が一人部屋の中に入って来た。
「鷲尾彩です」
そう名乗ったのは、濃い茶色の背中辺りまでかかるストレートの髪をした俺たちと同じ年頃っぽい感じの女の子だった。




