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あの時(凛編3)/もう一人の少女

 大きなガラスの向こうの男たちの雰囲気から感じていた異変。

 仲間割れのようにも思えたそれは、何かのシステム上のトラブルだったらしい。


「システムはマニュアル操作による緊急停止に入りました」


 私がいる実験室のような部屋に響いたメッセージ。

 照明は1レベル照度が落ちた。


 私はどうなるの?

 一瞬浮かんだそんな不安を打ち消すような出来事が起きた。


 カチャリ。

 そんな音を立て、私の体を固定していた枷が外れた。


 システムの緊急停止。

 それは私の実験の中止をも意味しているらしい。

 私の体を縛り付けていた枷が外れると、私はそのまま崩れるように倒れこんだ。

 両腕を床に付き、四つん這いになって顔を上げた時、私の周りを取り囲んでいたガラスの筒も天井に向かって上がり始めた。


 これで、完全に私の体は自由になった。

 今なら逃げ出せるかも。

 でも、逃げ出す方法が分からない。

 だったら、どうしたらいいの?


 状況も何も分からない私には、どうしたらいいのかと言う答えすらも思い浮かばない。

 何もできず、両手をついて体を支え、無為な時間を過ごす私の耳に新たな音声が届けられた。


「システムに異常が発生しました」


 部屋の各所に取り付けられていた赤色灯が点滅を始め、危機感を増幅させていく。


 何?

 なんなの?

 この場にいたら危険?


 とりあえず立ち上がり、辺りを見渡した私はこの部屋の中にいるもう一人の人影に気づいた。

 それは、黒いストレートの髪をした私と同じ丸裸の少女の後ろ姿。

 この部屋で、私一人を使って人体実験のようなものをしていた。そう思っていたのは誤りだったらしい。

 その子も私と同じ目に遭っていた?

 そう思うと、心強さと親近感が沸き起こって来る。


 一緒に、ここから逃げよう。

 私は立ちあがり、その子の所に駆け寄ろうとした。

 でも、その時すでに、その子はこの部屋と隣接する男たちがいる部屋につながる扉の前まで進んでいた。


 ズルズル。


 鈍い音を立てながら、その子がドアをスライドさせて開いた。


「だから言っただろ。

 検証前のシステムを使うなって!」

「仕方ないだろ。

 こっちだって、緊急事態だったんだから。

 佐々木が国外に連れら去られてしまってからでは遅いんだ!」


 開いた扉の向こうから男の人の怒鳴り声が聞こえてきた。

 やはりトラブルが起きて、男たちの間でもめ事が発生して、少女がドアを開いた事にも気づいていないらしい。


 それほど、険悪な雰囲気の男たち。

 しかも、そいつらは私たちを拉致った犯罪者。

 とてもじゃないけど、そんな場所に足を踏み入れる気にはなれない。

 と言うのに、その少女はその扉の向こうに足を踏み入れた。

 それも裸のまま、戸惑いも見せず。


 少女が部屋に入って来た事に気づいた男たちが、視線を少女に集中させた。


「そうだ。まずはこの子に」


 ズルズル。

 ドン。


 少女が扉を閉じると、ガラスの向こうの人の声は聞こえなくなった。

 再び訪れた静寂。


 一瞬停止していた私の思考が再び動き始めた。

 あの子を追って、あの扉の向こうに行く?

 だとしても、私にはあの子のように全裸で男たちの前に行くなんて事は考えられない。

 私が着ていた服がどこかにあるはず。

 私は部屋の中に目を向けた。

 私の考えは間違ってはいなかった。部屋の片隅に脱ぎ捨てたかのように、私の服は置かれていた。


 走り寄って、服を着る私。

 早く服を身につけたいと言う気持ちだけじゃなく、非常時を知らせている赤色灯の点灯と、あの子を追わなければと言う気持ちが私を慌てさせ、急いでいるはずなのに、どこか指の動きがぎこちない。


 服を着終えると、あの子がさっき使ったドアを目指した。

 あの子は軽々と開けたように感じたけど、実際には金属でできたちょっと重たいドアで、体重をかけてスライドさせて開いた。


 私がその部屋に入った時には、すでにあの子も、何かわめいている風だった男の人もいなかった。

 そこに残っていたのは金山と高山と言う二人の男の人だけだった。

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