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これまでのこと2

 あの日、軍が行った人間のコピーを作ると言う実験。

 その被験者が凛と言う可能性に、怒りの声を上げた俺。

 笑い飛ばせない理由は、その可能性を俺の深いところで感じ取っていたから。


「何度も言っていると思うが、実験の詳細は私は知らない。

 誰になんてこともだ」


 高垣の言葉は今までに何度となく聞かされてきたものだ。真実なのか、嘘なのか、俺には分からない。きっつい視線をそのまま横に移し、大久保を見た。


「私もその対象が誰だとか言う事は知らない。

 が、」

「が?」


 大久保の言葉に突っ込みを入れた。

 逃せばそのままだろうが、大久保としても言おうかどうしようか迷っていて、俺にその判断を任せた。そう俺は感じた。


「対象は両親がおらず、施設とかで暮らしているのではなく、一人で暮らしている10代半ばの女性だ。他にも条件があるのだが、この子はこの条件の対象か?」


 大久保はそう言うと、俺をじっと見つめている。

 今度は俺が追及を受ける側になってしまった。

 それもかなり不利な。


「この子は普通の子だ」


 意味不明の回答を返すのが、俺にできる精いっぱいだ。

 実のところ、凛は他に兄妹はいないし、両親は事故で一年ほど前に亡くなっていて、大久保が言う実験の対象条件の基本部分をクリアしている。


 としたら、まじで3Dコピーの実験にされたのか? 


 第2コロニーで見た凛そっくりの少女。凛の声を持つ教会の神の意思を取次ぐ者。

 教会は凛を探している。

 これらをつなぎ合わせる一つの仮説。

 頭に浮かんだ認めたくない仮説を顔を左右に数回振って、振り落とす。

 とりあえず、その考えはどこかへ捨て去ったはずなのに、形を変えて別の疑問が浮かび上がってくる。


 凛はそのために拉致られたのか?

 お父さんはそれを知っていたのか?


 怒りのような、悲しみのような理解できない思いが胸を締め付ける。


「ところで、一人暮らしの理由はなんなんですか?」


 あかねがたずねた。


「人ひとり消えても、騒ぐ者が少ないからだよ。

 発覚するまでに時間も稼げるしね」

「あれ?

 そう言えば、葉山って行方不明になってなかった?」


 服部が口走った事を責める事はできない。


「だったら、確定じゃないか」


 その大久保の一言が俺の怒りに火をつけた。

 ドン!

 両手で思いっきり力を込めて、目の前のテーブルを叩きながら、椅子から立ち上がった。


「全く、軍と言う奴らは……。

 人ひとりを拉致ったかと思えば、それを隠すために、あの事件の後、すぐに首都圏を包囲して、外の世界と遮断したんだろ!」


 大久保と高垣を睨み付けながら、怒鳴った。


「まだ、そうと決まった訳じゃないじゃない」


 自分が口走った事に責任を感じているのか、いつものツンツン口調ではなく、俺をなだめるような口調で、服部が言った。


「ああ」


 ほぼ確定だ。そう俺の論理的な思考がはじき出していても、俺の感情はそれを受け入れられないでいる。服部の言葉は信じるに足りない慰めと分かっていても、その言葉を受け入れたくて、肯定的な言葉を口にして席に座りなおした。


「包囲に関して、説明を続けよう」


 俺の言葉の包囲と言う部分を加藤が受けた。


「軍の包囲が早かっただろう。

 あれは前日に緊急展開の準備命令が下りていたからだ。

 でなければ、できる訳がない」

「じゃあ、やっぱり全ては軍がやったんじゃないですか?」

「まあ、最後まで聞いてくれ。

 同様の命令が警察にも出ていて、警察は前日から検問を敷いて、首都圏から出て行く者たちを念入りに調べていた」


 思い出した。前日の早朝に、五億円強奪事件が発生し、警察がその検問のため、首都圏から外に出る主要道路を昼頃には封鎖していた。

 もちろん、鉄道も。

 いや、確か検問とは関係なかったはずだが、空港も管制システム障害が発生したと言う事で、事実上離着陸する飛行機はすべてキャンセルになって、空港がとんでもない事になっていると言っていた。


「あれは現金輸送車を強奪した犯人を捕まえるためですよね?

 そして、空港はシステム障害が発生して閉鎖していた記憶が」

「一般人に気づかれにくいように、軍が海上も封鎖していた。

 そして、強奪事件と言うのは名目のために作られたもので、実際はそんな事件は起きていないし、空港もシステム障害じゃない。全てはある人物の身柄を確保するためで、警察もそのために動いていた」

「それは誰なんですか?」

「悪いが、私たちのところに詳細情報は届いていない。

 そして、私たちに命じられたのはある人物たちを包囲網から出さない事。

 包囲網の中よりその人物たちを捕らえる事だ」

「誰を捕まえるんですか?」

「その人物たちもその時点では特定されていなかった。

 特定後速やかに身柄を拘束すると言うことで、私たちは首都圏を包囲する形で展開準備を行っていたんだ」

「軍の動員まで必要な相手と言う事ですか?」

「背後の組織は近隣の某国の諜報部隊と言うことだ。

 組織的な行動をとられれば、民間人の被害を抑えつつ制圧するのは警察力だけでは不十分な可能性がある。

 それに、きっと絶対失敗できないほどの重大事案だったんだろう。

 ともかく、私が知っているのはそれだけだ。

 そして、そこにあの事態が起きた訳だ。

 異常事態に当時首都圏を包囲しようとしていた軍は、急きょ救援に向かおうとしたんだが、そこに上層部から新たな緊急命令が下りてきた。

 この事態に軍が主管していた実験が関係している可能性があると言う事で、首都圏の完全封鎖を各部隊に命令するものだった。

 軍は合わせて、その真偽を探るため爆心地に人や偵察機を派遣した。

 その偵察機の一機が撮影した写真の一枚が、さっき君が見せてくれたものだ。

 そして、首都圏に入った者は、すぐにあの生き物の存在に気づいた。

 最初に懸念されたのは、さっきその子も言っていたが、生物兵器的なものだ。

 そのため、首都圏の封鎖はさらに厳格に実行されるようになった。

 もはや一個人の人命より、人間と言う種族の維持の方が重要になったんだ」

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