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決戦3/なずな

 多くの兵士たちを瞬殺し、俺たちのところまでたどり着いた教会の神の使い、大きな瞳の少女は驚いたような顔つきで、立ち止まっている。この少女が再び動き出せば、加藤をはじめ、俺たち全員が命の危険にさらされてしまう。

 全神経を集中させ、少女を見る。

 その視線の先はなずな?

 しかも、この少女の顔、どこかで見たことが。


「なずな。何してるの、こんな所で」


 少女が言った言葉で、記憶がよみがえって来た。

 あの時も、この少女はそう言った。

 初めて保護色の神の使いと遭遇したコロニーにいたなずなの友達。確か田辺えりな。

 この子は神の使いだったのか!

 それも恐るべき力を持った。

 そう言えば、あのコロニーで司祭が「あれ? 田辺さんは?」とか言って、頼りにしていたのは、この子だったんだ。

 なずなはまだ教会側の人間?

 慌てて俺のすぐ横にいるなずなから離れつつ、視線を向けようとした時、何かがきらりと光ったのを感じ、次の瞬間には俺の体は支えきれない衝撃で数m離れた場所に吹き飛ばされ、植栽に背中から突っ込んでいた。


「な、な、何が起きた?」


 そう思った次の瞬間には、俺の体の上に服部が覆いかぶさっている事に気づいた。

 顔はほぼ俺の胸の辺り。


「おい。大丈夫か?」


 そう言って、服部の体を手で持って起こそうとした時、ちょっとしたムニュッ感が俺の親指に伝わって来た。胸だ、胸を触ってしまった。だが、この中途半端な柔らかさとちょっと固い感触。ブラの上から押しているらしい。

 ちょっとだけ沸き起こったいやらしい気持ちを、頭を数回振って振り落としてから、再び服部に声をかけた。


「大丈夫なのか?」

「うーん、だめ。痛い。

 なんて速さなの」


 その言葉に俺は田辺がいた場所に目を向けた。

 そこにはさっきと同じ場所に田辺は立っていた。

 じゃあ、服部に攻撃をかけたのは?


 見渡した俺の視界に、ひなたの背後に寄り添うように立っているなずなの姿が入って来た。


「こんな事になりたくなかったから、早くここを出ようと言ったんだけどさ」


 ひなたの右腕を後ろ手にねじりあげ、その首筋にナイフを突きつけているなずながうんざり気味に言った。とりあえずひなたの左腕は自由だが、左の腰に差している村雨を抜き去ることはできないし、かなりの力で腕をねじあげられているのか、時々苦痛に顔を歪めている。


 ほとんど無警戒状態で横から吹き飛ばされたので、なずなの攻撃を目の当たりにしてはいないが、きっと田辺と同じ力のはず。だと言うのに、あのナイフは何なんだ?

 それに服部も致命傷にはなっていない。


「なんで、ナイフを持っている。

 ひなたを離せ」

「あ、これね?

 その服部とか言う女が持ってたのよ。

 勘がいいし、気配を殺しながら、このナイフで素早く襲ってくるなんて驚きよ。

 でも、安心して。まだ殺さないように手加減してあげてるから。

 だって、颯太くんが死ぬところを見せてあげたいんだもん。

 ふふふ、楽しみだわ」


 人を殺すような事を笑顔で言えるなんて、悪魔だ。

 なずなはあの神の使いの力を持ち、しかも冷酷な心を持つ悪魔だったんだ。

 記憶を操作する装置を守る兵たち、瞬殺された鬼潰会の者たちをやったのはなずなと言う事だろう。今思えば、鬼潰会の会長の言動に少し変に感じるところがあったのは、なずなの事を知っていてからに違いない。


 この至近距離内にそんな恐るべき神の使いが二人。なずなたちに向けて加藤たちも銃を向けてはいるが、トリガーは引けないでいる。この二人が攻撃を再開すればいくら銃を構えていたとしても、加藤たちもあっという間に肉塊と化してしまうに違いない。


「だいたい、ここにいる女たちはばかなのよ。

 ここに残るなんて言うんだから。

 自分たちがどれだけ強いと思ってるのよ?」


 そう言って、なずなは視線をあかねにちらりと一瞬だけ向けた。

 あかねは女じゃない。女の子だ! なんて、こだわっている場合じゃない。

 あかねに目を向けると、なずなから少し離れたところで、なずなに向けてあかねソードを構えてはいるものの、呆然とした雰囲気でただ立っているだけと言う感じだ。


 あの時と同じだ。

 きっと今、あかねの頭の中は自分の首にナイフが突きつけられた記憶がフラッシュバックし、精神的なダメージを受けているに違いない。

 あかねも戦力外。

 俺一人で、この二人をやれるのか?

 自信は無いがやるしかない。

 あかねソードを持つ手に力を込める。


「しかもやって来たのがえりなちゃんで、私の正体ばれちゃうし。

 おかげで、私的には目的果たせずなんだよねぇ」

「目的って何なんだ?」


 答えてくれるとも思えないが、聞いてみる。


「颯太くんが探している人たちを見つけるのを待ってたんだよね」

「それって、教会も俺の父親や凛を探しているって事なのか?」

「まあ、そう言う事かな」


 なずなの言葉が本当だとしたら、教会も俺の父親や凛を探していると言う事になる。だとしたら、神の意思を取次ぐ者は凛じゃないと言う事だ。これで、完全に教会と俺の父親たちは無関係と言うことになる。

 いや、だとしたら?


「なんで、二人を探しているんだ?」

「それはね」

「なずな、喋り過ぎ!」


 なずなの言葉に田辺が割り込んできた。


「でも、教えてあげてもいいんじゃないのかな?

 だって、もう私の正体ばれちゃったから、役に立たないよ。こいつら。

 すぐに殺しちゃうしかないんだから」


 分かってはいたが、なずなも俺たちを殺す気でいる。

 完全な敵宣言だ。


「まあ、そうだね。

 で、どいつからやればいい?」


 にんまりとした悪魔の微笑みを浮かべた田辺の言葉。

 俺はあかねソードの切っ先を田辺の方向に向けて構えながら、少しでも距離を稼ぐため、植栽に沿って移動を始めた。

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