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決戦1/背後から忍び寄る敵

 高垣を連れた一団は公園の中ほどまで進んできたところで立ち止まり、高垣を磔にしている十字架の根元を埋め始めた。

 教会側に、他の動きは無い。

 加藤が率いる軍も、その行為をじっと見守っている。

 ただ時だけが流れ、戦いはまだ始まらない。


 俺的には、人数が少ない今を狙って攻撃をしかけ、高垣を奪還すべきと思わないでもないが、加藤の考えは違うらしい。


 それは作戦なのか?

 それとも、神の使いの力を恐れて、自分たちから攻撃を仕掛けられないのか?

 どちらなのか、俺には分からない。


 着々と進む十字架を地面に立てる作業。

 それが終わろうかと言う頃、地鳴りに似た音が遠くから聞こえ始めてきた。

 もうその正体は分かっている。

 戦車だ。それも、教会側の。


 視線をはるか先の公園に面するビル街の通りに目を向ける。

 ビルの隙間を通り抜け、空気が唸り声のような振動を俺たちの場所にまで届けている。

 やがて、そこに戦車が姿を現すと、加藤が声を張り上げた。


「撃てぇ」


 加藤の命令が轟くと、無線で伝えられたのか、戦車の砲撃が始まった。

 自分たちから攻めるのを控えている。

 そう思っていたのは誤りだったらしい。

 戦車部隊の砲撃の狙いは戦車部隊。


 教会の部隊に何両の戦車がいるのかは分からないが、ビル街の一本の道路から出てこれるのは横に並んで最大でも二両。

 そこを加藤の戦車部隊が放った砲弾が襲う。

 破壊されていく教会の戦車。

 戦車にばかり気を取られていたが、高垣の周辺にいた者たちも、こちらに向かってきていた。


 向かってくる敵に正面から降り注ぐ銃弾。

 が、それだけではなかった。

 ほぼ同時に、神の使いたちの左側面の地面から多くの兵が湧き出した。

 塹壕を掘って、そこをカムフラージュして、隠れていたらしい。

 左側面からも始まった一斉銃撃。

 逃げ場の無い十字砲火だ。


 降り注ぐ銃弾の雨に、次々に倒れていく神の使いの姿が見て取れたが、例の蜘蛛の糸を使う神の使いが蜘蛛の糸の防弾膜を作り上げると、もはや銃撃の効果はなくなった。

 正面、左側面に張り巡らされた防弾膜は銃撃の衝撃にゆらゆらと揺れ動きはするものの、貫通する銃弾は無い。

 防弾膜がその背後にいる神の使いたちを銃撃から守っている。

 教会側の主戦力は異様な速度での移動能力と異様な物理的な力を持った神の使いで、最初の攻撃で彼らにそれなりのダメージを与えられたはずだが、全滅してはいない。

 あの防弾膜の向こうに何人が生き残っているのか?

 数が少ない事を祈るしかない。


 その神の使いが隠れている防弾膜はゆっくりとこちらに向かって迫ってくる。

 蜘蛛の糸の神の使いの移動速度が遅い、と言うか人間レベルなのが救いで、異様な速度と力を持った主戦力の神の使いたちも、全速力で迫ってこれないようだ。

 その移動速度から言って、俺たちのところにやって来るまでには、まだ時間がある。

 視線をビル街に向けた。

 破壊された教会の戦車。

 その横をすり抜けて、公園に進入してきている戦車もあり、そこに向けて軍の砲撃が続けられている。


「まずいな」


 加藤が言った。どうやら、加藤は敵の戦車部隊すべてをこの公園に入る手前で阻止するつもりだったらしいが、すでに侵入を許してしまった。

 侵入してしまった敵の戦車が加藤の戦車部隊を狙うには、味方の神の使いたちが邪魔になるが、一段高い場所にいる俺たちを狙う事はできるはずだ。

 敵の砲撃音と同時に、あかねソードのバリアを使わなければならないかも知れない。

 なずなたちの前に出て、あかねソードの柄を構えて、その時を待つ。


 加藤の部隊の戦車の砲撃は激しいが、まだ公園に侵入してきた戦車を破壊できていない。

 もう一方の教会側はと言うと、いつ砲撃してきてもおかしくないと言うのに、一発の砲弾も放ってきていない。


「おかしいな」


 加藤が言ったその時、俺の耳元で囁く声があった。

 あかね? と一瞬思ったが、その声は違っていた。意外な事に服部だった。


「水野。背後の植栽に教会の保護色を使う化け物が二体いる。

 その武器を貸しなさいよ?」


 服部の言葉に、それとはなしに視線を植栽の向けて、あかねがいつも言うところのきょろきょろとぶらぶらを探してみる。何の不自然さもない緑の葉が生い茂る光景。

 服部の表情から伝わってくる緊迫感から言って、冗談なんかじゃないらしいが、俺には見つけられない。


「武器は貸せない。

 俺がやる。

 どこにいる?」


 服部の耳元に唇を近づけて、小声で言う。ふぅと息を吹きかけたい衝動を抑えながら。


「十mほど離れたところに二体が固まっていて、こちらにゆっくりと近づいてきている」

「何かあったの?」


 そう言って、俺の腕を引っ張ったのはなずなだった。


「いや、まあ、何でもないんだが」

「怖いの私」


 そう言って、なずなが俺の腕に抱きついて来た。ムニュッ感はうれしいが、緊急事態だけに、嬉しさも幸せ感も半減だ。視線を植栽に向けて、服部の言葉を確かめてみる。

 何の変哲もない植栽の光景に思えていたが、確かに服部が言った辺りに違和感がある。それはきょろきょろやぶらぶらではなく、何か揺らめく陽炎のような感じだ。


「なずな、ちょっと離れてくれないか?」

「私を守ってくれるって言ったじゃない」


 なずなは半べそ気味だ。


「だからこそ」


 そこまで言った時、俺は肩をつんつんされた。


「きょろきょろ」


 そう言って、目玉を左右に動かしていたあかねが、目玉の動きを止めた。


「きょろきょろなら、私に任せて」


 そこまで言ってから、少し大きめの声で続けた。


「ひなたちゃんに服部さん。それにお兄ちゃんも戦車の動き、ちゃんと見ててよね!」


 突然で意味不明の言葉に、一瞬「えっ?」的な視線をあかねに向けた後、ひなたに服部、そして名を呼ばれなかったなずなも、視線を正面の戦場に向けた。そして、その次の瞬間、辺りはまばゆい閃光に包まれた。


「なんだ?」


 背後で煌く強烈な光に加藤たちが声を上げて、振り向いた時には、もう光は収まっていて、彼らが見たものは、俺たちの背後に潜んでいた保護色の神の使い二人が、あかねに真っ二つに斬られて、地面に崩れ落ちる姿だった。


「それは?!」

「潜んでいたみたいですね。

 きっと、時を見て背後から襲い、指揮系統を混乱させる作戦だったんでしょう。

 だから、敵の戦車がここに砲撃を加えてこないのかも」

「なるほど。

 しかし、よく分かったね」

「服部さんが最初に気づいたみたいです」


 俺が加藤に言った。


「褒めてもらっても、うれしかないんだから」


 さっきまでとは違い、いつものツンツン口調だが、服部はどうやらさっきのように普通の口調もできるらしい。

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