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加藤大佐 決戦の時

 テントの下、粗末なテーブルと椅子が用意された場所で、その加藤と言う軍人と俺とあかねは向かい合う事になった。なずなにひなたと服部は席をはずしてもらっている。


「やあ、君たちがレーザー兄妹か。

 武勇伝は聞き及んでいるよ」


 そう言って、にこやかな表情で手を差し出してきた。


「水野颯太です。

 隣が妹のあかね」


 代表で手を差し出して、俺だけが握手を交わした。どうせ、この人も俺の父親をこの崩壊した首都を作り上げた犯人に仕立て上げたいと思っているはずだ。とすれば、いわば敵みたいな人物。

 かわいいあかねの手を握らせてなんかやらない!


「どうぞ」


 手で仕草をしながら、席に着くよう促してきた。


「さてと、簡単な話は大久保から聞いているので、それについてまず答えておこう。

 反教会勢力のリーダー 犬塚さんと言う人物はまだここには来られていない。

 そして、高垣の処刑場所は私たちの部隊がいる場所との事だ」

「えぇーっと、ここって、今来たところですよね?

 その教会が言うあなたたちの部隊がいる場所って、元々いた場所の事なんじゃないんですか?」

「大丈夫だろ」


 そう言って、加藤は人差し指で上を指した。

 テント?

 意味不明?

 そんな思いで、テントに目を向けている俺に、加藤が上に向けて突き出した人差し指を数回動かす素振りをした。


「一突き、二突き、三突き」


 加藤の手ぶりに合わせて、あかねが俺の横で小声で数えている。

 これははっきり言って、また俺をいじめているのだ。

 加藤の手が止まった時、あかねが俺の耳元で囁くように言った。


「あれだけされたら、きっと空のはるか上、天国までいっちゃうよ」

「宇宙ってことか?」


 俺の言葉にあかねが頷くのを確かめると、視線を加藤に戻した。


「人工衛星? 情報収集衛星を教会は使っているって事ですか?」

「おそらく」

「マジですか!

 地対空ミサイルだけでなく、そんなものまで?

 それって、本当に教会の人がやっているんですか?

 首都の駐屯地にいた軍がやっているんじゃないんですか?」


 くどい質問だが、加藤には初めてする質問だ。


「それは私らにも分からない。

 首都に駐屯していた軍が絡んでいると言う可能性もあるだろうが、そうでない可能性もある。

 あと、あの日、軍の別の人工衛星が消息を絶っている。

 この現象と関係があるのか、偶然なのかは分かっていない」

「それは何の衛星なんですか?」

「地球観測衛星と言う名目で打ち上げられ、運用されていたものだが、実際の用途は分からない」

「軍の衛星なのに、分からないんですか?」


 そうなんだ。軍は秘密主義すぎる。

 まあ、それが必要な時もあるのは分かるが、今の場合、俺たちを信じちゃいないと言う事だ。


「ああ。残念だが。

 そんな重要な事を知っていた奴らは、こちらの世界にしかいなかったからな。

 こっちの世界で生き延びていたなら、聞き出せるだろうな。

 が、軍が来ていても姿を現さないと言うところから言って、死んでいるか、あの生き物の仲間になっているんだろうな」


 加藤がそう言って、俺を見た。その瞳、たじろぎも戸惑いもない。

 今の話は本当の事のように思える。


「一つ、聞いてもいいですか?」

「何かな?」

「任務はこちらの世界を取り戻す事だと思うんですが、この事態を引き起こした原因も調べるんですよね?」

「原因には特に興味は無い。

 まずはここでの戦いに勝利することだ」

「分かりました。

 例えば、ここで勝利し、勢力を拡大していく中で、この現象を引き起こした者が判明し、それが軍と密接に関わっていたとしたら、どうしますか?」

「ふっ、ふっふふふ」


 加藤は俺の問いに笑い始めた。

 続く言葉を、俺はじっと待つ。


「君はこの事態を引き起こし、教会なるものを率いているのが反乱軍と思っているのかね?」

「まあ、そうとまでは言ってませんが」

「君が言うとおり、疑うだけの材料があるのも事実だ。

 そして、真実は一つだ。

 それが軍であろうとなかろうとな。

 もし、我々がその答えをつかんだとしたら、それをそのまま報告するだけだ。

 その結果を判断するのは我々じゃない。君たち国民だ。

 それが民主国家と言うものだろ?」


 加藤の言葉と瞳には少しもたじろぎがない。これは本物かも知れない。

 ちょっと加藤に、この軍に好感を持ってしまった。




 そして、ひなたの父親を待つ間に日は過ぎていき、ひなたの父親より先に、高垣処刑の日がやって来てしまった。


 情報収集衛星の通過時間に気を配りつつ、加藤が仕上げたわな。

「今のところ、負け続けと言っていい状況だ。

 いつまでも、負けてられんだろう」

と言うほど、自信ありのわならしい。


 その加藤が控えるのは広大な市民公園の一段高くなった一角。背後の植栽の向こうには金網のフェンス。

 前面には居並ぶ兵士とその前に並ぶ戦車部隊は北海道から連れてきた精鋭らしい。

 その砲身が向けられた先は市民公園の先に広がるビル街。

 加藤の話では、教会側も戦車部隊を動かしてきているらしい。

 その戦車部隊が現れるとしたら、この公園につながるビル街を縫うように張り巡らされた車道から。

 加藤たちの背後や側面に回り込む道はすべて沿って建っていたビルを破壊し、残骸で通れないようにしたので、教会側に残された道は正面だけで、そこを狙い撃ちできるようにしているらしい。


 そんな状況とは言え、万が一を思ってか、俺たちにここから離れるよう勧めてはいた。大久保はともかく、俺たちは軍側の人間じゃない。危険を冒してまで、一緒に教会相手に一戦交える理由は無い。とくになずなやひなたに服部を巻き込むことはできやしない。


「では、この場を離れます」


 そう挨拶を言いに加藤のところにやって来た。


「やあ、君たちか」


 近づく俺たちにそう声をかけてきた親近感ある言葉とは対照的に、加藤の表情は厳しい。


「何かあったんですか?」

「ああ。

 どうやら、教会の本体はまだ少し先だが、磔にした高垣を連れた一団がすぐそこまで来ているらしい」

「マジですか?」

「ああ。

 ここから離れるなら、今すぐ離れた方がいいだろう」


 加藤がここからすぐ離れるよう勧めてくれた。


「そうですね」

「早く行こうよ」


 振り返ると、曇った表情でなずなが何度も俺の服の裾を引っ張っていた。


「ああ、そうだな。その方がいいだろうな」

「お兄ちゃん、私はここにいるよ」

「なんで?」

「勘!」

「いや、だから、ここにいたら危ないし、それにあかねは女の子だって言ったじゃないか」

「だからぁ、今度は女の勘じゃないの。

 ただの勘!」

「いや、俺的にはここは危険すぎるから、離れるべきだと思うぞ」

「だったら、お兄ちゃん、ひなたちゃんになずなちゃんと服部さんだけここから離れさせてあげたら、どうかな?」


 にこりとした笑顔。軽く傾げた小首。


「ねっ!」


 そして、言葉によるダメ押し。ついつい「ああ、分かった」と言いそうになるのをぐっと抑えて、味方を増やし、あかねへの圧力を増やすため、なずなたちに同意を求める事にした。


「みんなでここから離れないとな」


 なずなに視線を合わせると、力強く頷いてくれた。

 まずは一票。俺の分も合わせると、まずは二票だ。

 これに、ひなたと服部を加えれば。

 そんな思いで、続いてひなたに目を向ける。


「あかねちゃんが残るって言うんなら、私も残るけど」


 ひなたの瞳に迷いはない。


「はい?

 危ないよ」

「でも、相手は教会だよね。

 私たちの敵だし」

「まあ、そうなんだけど」


 ひなたの父親は教会と敵対する勢力のリーダー。その娘として、ひなたは使命感的なものを持っているのかも知れない。これで二対二になってまった。


「しかしだなぁ。

 危ないよな、服部?」

「守ってって言われたって、守ってなんかあげないんだからね!」

「いや、それも何か違わなくない?」

「服部さんもお兄ちゃんと一緒は嫌なんだって」

「えぇーっと、そう言う意味じゃないんだけどさ」

「じゃあ、お兄ちゃんと一緒がいいの?」

「い、い、いい訳ないじゃない!

 なんで私が水野と一緒にいたい訳あるのよ!」


 どもりながら拒否るほど、俺は嫌なのか? ちょっと傷つき気味な視線を服部に向けると、服部と視線があった。なんだか、ちょっと服部のほっぺが赤みを帯びている気がしてならない。興奮するほど、俺を拒否なのか? 


「だったら、私たちは残るよ

 本当にお兄ちゃんはここから離れちゃうの?

 私の事守ってくれるって言ったのにぃ?」

「いや、だからさ」


 そこまで言った時、加藤が割って入ってきた。


「君たちには悪いが、もう来てしまったようだ」


 加藤が目を細めながら見据えている正面に、目を向けてみた。戦車部隊の隙間から見えるその先、先頭は十字に組まれた木材らしきものに、磔にされた高垣らしいき人物。

 その背後に20人ほどの姿が見て取れる。遠目で見る限りでは武装しているようには見えない。


「いいかぁ。

 高垣の奪還は目的の一つではあるが、彼も軍人の一人だ。

 命を捨てる覚悟はある。

 最悪の場合、高垣の安全を無視してでも攻撃をかける」


 加藤の声には強さがある。意思が現れているのだろう。

 部隊に緊張感があふれ、引き締まった感が伝わって来た。


 もはや、離脱しにくい。そんな気がする。

 なずなを巻き込むわけにはいかない。となれば、守るだけ。

 もちろん、あかねもだが。いや、あかねは一人でも大丈夫だろうが。


「ねぇ。颯太くん」


 なずなは俺の服の裾を強く引っ張って、ここから離れようと催促した。


「ごめん。

 でも、大丈夫。

 何があっても、なずなちゃんの事は俺が守るから」


 俺の言葉になずなが顔をしかめた。

 がっかりすぎるのだろう。


 こんな危険な場所、俺たち一般人にとってみたら、さっさと離れたいのは普通の事だ。

 ましてや、なずなは女の子なんだから。


 どんなことがあっても、そんななずなを俺が守る。

 決意を込めて、俺はポケットの中のあかねソードをきつく握りしめた。

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