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大久保の素性

 爆心地をぐるりとドーナツ状に取り巻く巨大なコロニー。

 その内部は治安も食料も安定しているらしく、荒んだ雰囲気は一切なく、平穏な、そして平和な世界だった。かつての元の世界よりも、へたをしたら人々は平穏かも知れない。ぴりぴりした緊張感もなく、ゆっくりと静かに時が流れている気配すらあった。

 笑顔あふれる多くの人たちの中を進んでいく。

 誰も俺たちに気づいて警戒するような素振りもない。

 完全に俺たちはその中に溶け込んでいる。

 人々の生活を観察すると言うのも、教会を知る手だてではあるが、今はそれよりも爆心地に急ぎたい。そんな気分で、とにかく中心部に向かっていくと、現れたのはやはり大きな壁だった。


 どこかに出入り口があるはず。それを調べるため、俺たちは目についた中層のマンションの最上階に上り、爆心地を取り囲む壁に目を向けてみる。

 巨大な円を描くコロニーの壁。そのさらなる内側、爆心地側の一角の光景に目が留まった。

 斜めに向き、空を見上げる板状のものがずらりと並んだ敷地。

 メガソーラーだ。

 教会あるところに灯りあり。

 その源の一つかも知れない。


 もう一つ気づいたことがある。爆心地側には動くものが全くないのだ。

 全くの静的な世界。どうやら、あの生き物は爆心地側にはいないらしい。

 最初からいなかったとは考えられない。きっと、教会が駆逐したんだろう。

 視線を壁に戻し、ずっと壁に沿って動かしていく。

 何の特徴もないグレーな光景が続く中、どこかのお屋敷の巨大な庭園に爆心地側に抜ける門らしきものを発見した。


 爆心地側に抜ける門がある純和風の壁に取り囲まれたお屋敷の前に立った。

 門には看板のようなものは掲げられておらず、表札があったであろう場所は、表札のための大きな穴が空いているだけで、この建物の住人の素性を表すものは取り付けられていないが、聞いたところでは教祖の邸宅と言う事だった。


さて、どうしたものか。

悩みはじめた俺に、あかねの声が聞こえてきた。


「ほら、お兄ちゃん、これ」


 目を向けると、門の片隅にちゃんとドアホンが取り付けられていて、あかねがそれを今にも押しそうなポーズをしていた。


「しかしだな。相手はあの教祖だぞ」

「高山って言ったっけ?

 あの教祖さん、あなたたちを歓迎しますよって言ってたよね?」

「とにかく、押しちゃえば」


 なずなの言葉に、あかねがドアホンを押した。

 中から現れた若い女性は教祖に取り次いでくれ、俺たちは教祖と面会することになった。



 招かれた部屋の窓の向こうに広がるのは緑と池の日本庭園。部屋はそれに似合う畳の和室。

 大久保と俺は正座で問題ないが、あかねは辛いらしく、俺の横で女の子座りだ。座卓の向かいは教祖の高山を真ん中に、左右にかわいい女の子。

 パッと見は両手に花で、女の子をはべらしているとも言えるが、きっと護衛だ。

 神の使いに違いない。女の子と言う事で、俺たちを油断させているのかも知れない。


 とは言え、俺たちは、いや少なくとも俺とあかねはここで騒動を起こす気はないので、おそらく問題無いはずだ。


「今日は大久保さんもご一緒なんですね」


 最初に口を開いたのは教祖の高山だった。


「私の事をご存じで?」

「当たり前です。

 我が教会には全知全能の神がおられるのですから」


 なずなの言ったとおりだ。

 教会の中心にいる神は、全知全能の神。

 しかし、それは本当の事なのか?


「陸軍情報部 大久保 隆久 少佐」


 高山が続けた言葉に、大久保が一瞬、ドキッとしたような顔つきをしたことから言って、どうやら当たっているらしい。

 こいつも完璧な軍の人間だったって訳だ。

 しかも、情報部と言うところから言って、諜報関係とかかも知れない。


 素性を知られた事で、俺の反応を確認しようとしてか、大久保はちらりと俺に視線を向けた。しばらくはこの関係を続けるとしても、高垣と同様、俺の父親に責任を押し付けようとする敵認定確定だ。

 そんな俺の視線を感じたかどうかは知らないが、大久保はすぐに視線を高山に戻した。


「はっはっは。

 そのような事、どこかのデータベースか何かで検索して入手した情報程度の事で、全知全能とか言われると、笑わずにいられなくなりますよ」


 軍の情報機関の佐官。

 それを認めたと言う訳だ。

 そして、大久保の言うように、軍か何かのデータベースから引っ張って来れば容易な事。

 今までも科学技術を神の力と言ってきた偽教会だ。

 大久保の説が正しいだろう。


「いやはや。では、もっと違った事をご披露しましょうか?

 神よりすでにいくつかの事を教えてもらっていますので」

「それは楽しみですな」

「どれからいきましょうか」


 そう言う高山の表情はにんまりとしていて、自信ありげだ。

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