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だからこそ神なのよ!

「私は君の父親の友達なんかじゃない」


 この首都崩壊の事態を招いた張本人として、俺の父親を疑っている大久保がついに俺の父親の友人ではないと明かし、さらに言葉を続けた。


「立場上、身分は明かせないが、この事態の原因を調査している。

 そして、仮にこの事態が軍の研究施設での実験が原因だったとしても、研究者の暴走であって、政府や軍が直接あるいは間接的に命令したものではないと言う事を確かめるという方針の下」

「だから、俺の父親を犯人にしたがっていたって訳だ。

 でも、これはもう軍の積極的関与があったって証拠じゃないか!

 俺の父親が軍を動かせるわけないだろ。としたら、犯人は軍じゃないか!

 だというのに、事実に目をつぶり、俺の父親を犯人にしたいのか?」

「仮にこの事態を招いた首謀者が、軍関係者だったなんて事になったら、どうなると思う?

 政府、軍への信頼は地に落ちる事になる。

 そうなれば、この国が保てなくなる。

 分かるだろ?」

「そんな事のために、俺の父親を犯人にしたいのかよ!!

 軍が積極的に教会に関与していなければ、地対空ミサイルなんて使えるかよ!!

 一般人が扱える代物じゃないだろ!

 軍人以外に、誰がそんなものの扱い方を知っていると言うんだ!」

「なんでも知ってるのよ。

 だからこそ、神なのよ!」


 ぽそりと吐き出すようなずなの声に、視線を向けると、なずなははっとした顔で固まっていた。


 なんでも知っている。

 だからこそ神。

 当然のようになずなが言った。なずなは元々教会にいた訳で、何かを知っていてもおかしくはない。そう納得した俺に対し、あかねは納得していないらしい。


「それって、どう言う意味なのかな?」


 そうなずなにたずねているあかねは、ちょっとあんた何者? 的な不審げな顔つきだ。


「く、く、詳しい事は知らないんだけどね」


 なずなはあかねの威圧に押され気味らしく、ちょっとどもった。


「教会ではあの日、全知全能の神が降臨され、神の使いを作られたと言われてるんだよね。

 当然、神は全知全能だから、どんな事も知っているし、人にはできないような事もできるの。

 だから、兵器だって、操作する事はできちゃうんだよね」

「それって、本当なの?」

「言われているだけで、私には分かんないんだけど」


 宗教として、その中心となるものを神格化するのは当然である。それが真実でなくても。それだけに、そんな話があったとしても、自然な事ではある。問題はそれが真実なのかどうかだ。

 俺は教会は裾野の広い勢力だと考えていた。

 教会札、最新の高密度ホログラフ映像、それにコロニーの外の世界で見た電気工事、そして極め付けは軍でしか扱えないはずの兵器の操作。

 色んな勢力を傘下に収めるには、求心力が必要である。

 たとえば権力などの力や、精神的な力ともいえるカリスマ性や宗教の力。

 俺は宗教の力を以って、色んな勢力を傘下にしたと思っていた。

 が、色んな勢力の力じゃなく、これらが全知全能の神の仕業だとしたら。


 確か教会の司祭があの日の事をこう言っていたはずだ。

 軍が神を作ろうとして、神の逆鱗に触れた。

 神を作ろうとしている事に怒った神が自ら降臨したと言う事なのか?

 そんな事って、あり得る話なのか?


 司祭の話の前提。軍が作ろうとした神。

 やはりこれが謎を解く気がする。


「司祭が言っていた軍があの日、作ろうとしていた神とは何なんだ?

 高垣は知らないと言っていたが、あんたも知らないのか?」


 大久保に詰め寄ってみたが、瞼を閉じて、横に首を数回振った。


「私たちも本当に知らないんだよ。

 外の世界に残っている情報では、高垣さんが言ったように、人間の3Dコピーを作る実験だったはずだ。

 ただ、それも高垣さんが言ったように、実際には何かとんでもない事をしでかしたらしい。

 それが、神を作ると言う事なのかもしれないが、私たちにも分からないんだよ」

「本当に?」

「ああ。

 それを確かめるためにも、爆心地に行ってみる必要があると思う」

「て言うかさ、なんでさっさと爆心地に人行かせていないんだよ」

「軍も政府も行かせてるさ。

 だが、誰も戻って来ていないんだよ」

「マジかよ。

 そんなところに俺たちに行くように唆したって事か?」

「唆したは人聞きが悪いな。

 颯太君はそんな事を聞いていたら、来るのを止めたのかな?」

「それは……」

「来ただろう?

 私たちはね。君たちと一緒なら、安全なんじゃないかと思ったんだよ」

「つまり、爆心地を目指した者たちが戻ってこないのは、教会によるもの。

 そして、教会の教祖が俺の父親だから、俺たちと一緒なら、教会から危害は加えられないと考えていたと言う事だな」


 大久保が静かに頷いた。


「お兄ちゃん、どっちにしても行く事になるんだから、まあいいんじゃないかな」

「あかねちゃんの言うとおりだと思うんだけど。

 あの二人を探すんだよね?」


 あかねとなずなが言った。確かに、いま俺たちは何がどうであろうと、爆心地に行ってみるしかない。ただ、そこが気楽に行ける場所では無い事だけは分かった。

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