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教祖のところへ

 俺とあかねの幸せなひと時を、いつも邪魔する大久保が戻って来たなずなにたずねた。


「で、なずなちゃんは、どうしたの?」

「そう、そう、そう。

 教会の教祖の居場所が分かったんだ!」


 なずなにしては珍しく、声のテンポは速く、大きめなだけでなく、両手を握りしめ、よっしゃあ! 的な手ぶりをしているところから言って、ちょっと興奮気味っぽい。


「どこだ」


 興奮気味のなずな以上に、興奮気味な声を上げたのは高垣だった。いや、俺だって、その言葉に気持ちは高ぶっている。

 高垣たちは心の奥底で、俺の父親と教会の関係を疑っている。教祖の上の存在、そこにまでたどり着かなければ、本当の答えにはならないとしても、教祖の正体を確認できれば、答えにぐっと近づく事は間違いない。


「連れてってあげるよ」


 なずながにっこりとした表情を高垣に向けて、そう言った。

 ああ、その笑顔を高垣なんかに向けるなよ! 的にちょっと胸が曇った。だが、すぐに俺の思考回路は冷静さを取り戻した。行くよりも早く、教祖に関する答えを出せる可能性がある! 


「顔は見たのか?」

「顔は知らない

 今いる場所が分かっただけだよ」


 顔が分からないなら、今この場で、なずなに教祖が俺の父親かどうかを確認させる事は、残念だが諦めるしかない。


「分かった。

 でもいいのか? えりなちゃんだったっけ、友達とは」

「うん。颯太くんの方が大事だし」


 友達より、俺の方が大事。

 その言葉が俺の胸をドキッとさせた。

 恋人一歩手前ってところか?

 ちょっとうれしいじゃないか。


「ねぇ?

 颯太くん、もしかして、今ドキッとしてくれたのかな?」


 顔に出ていたのだろうか?

 なずなに俺の心を読み取られたみたいだ。と、思った瞬間、わき腹につねられたような痛みを感じた。

 目を向けると、口先を尖らせ、ほっぺを膨らませたあかねが、俺のわき腹をつねっていた。


「ほかの女の子にでれでれしないで!」

「い、い、いや。でれでれしてないぞ。

 うん」


 動揺気味でどもった俺に、あかねは「ふん! 知らないんだから!」的な表情で、ぷいっと横を向いた。


「あかねちゃん、颯太君、本題に戻そう」

「はぁぁい」


 またまた、大久保が俺たちの世界を邪魔した。そして、二人の世界を邪魔されたと言うのに、お約束のように明るい返事を返すあかね。

 芝居じゃないよね? 的な視線をあかねに向ける俺の事など、どうでもいいかのように、大久保がなずなに言った。


「じゃあ、一緒に行こう。案内してくれ」

「ところで、教祖に会ってどうするの?」

「教祖が俺の父親かどうかを確かめたい。

 もちろん、それが俺の父親だったら、色々話を聞かないとな」


 なずなの言葉に、俺が一番に返した。


「颯太くんとしてはそうなのかもだけど、高垣さんたちにとっては、それだけでいいのかなぁ?

 教祖をなんとかしたら、教会って潰れるんじゃないかな。

 教会が潰れて無くなれば、ここも外の政府や軍の管理下になるんじゃないのかな?」

「それはそうだが、そんな事以上に俺は部下たちの仇をこの手で取る事の方が重要だ」


 なずなの言葉に、ぎゅっと右手を握りしめながら、高垣が言った。なんだか、なずなは教祖を殺せと唆しているようにも見えるし、高垣は殺る気に溢れている感がある。

 なずなの真意を測りかね、なずなを見つめている俺に気づいたなずなが言った。


「私ね。颯太くんたちに助けられて、自由になったけど、教会で無理やり働かされてたんだよね。だから、教会は大っ嫌いなんだ」


 納得だ。それだけ、なずなは嫌な思いをしてきたんだろう。


「なずなちゃんの気持ちは分かったよ。

 でもまあ、どうするかと言うのは難しいところだろうな」

「とにかく、教祖のところに行こう」


 高垣のその言葉に誰も異存はなく、なずなの案内で教祖がいると言うコロニーに向かう事になったが、その前に大久保があの鬼潰会のコロニーに立ち寄りたいと言いだした。鬼潰会の旧本部前で起きた事件の時、大久保は高垣から預かった銃を忘れてきてしまったので、それを取り返したいらしい。なずなに聞いたところでは、教祖がいるコロニーと位置的に逆方向ではないので、とりあえず承諾した俺たちは再び鬼潰会の旧本部前までやって来た。


 あの時、あかねが切り落とした監視カメラは元通りに設置され、赤いLEDが点灯して、動作している事を示しているし、あかねに切り裂かれたドアも新しいものに取り換えられている。

 完全に修復されているのは、教会の力によるものなのだろうか?

 そんな風にドアを見つめる俺の視界に、あかねソードを構え、不敵な笑みを浮かべたあかねの後ろ姿が映った。

 監視カメラ越しの相手に、また切り落としちゃうぞ! と、無言で言っている風だ。そんなあかねにぞくぞくしてしまう。って、それではだめじゃないか。


「あかね。何度言ったら、分かるんだ」


 理性を取り戻して、兄としてあかねをたしなめる。

 ガチャッ! ちょっと重い音を立てて、ドアが開いた。

 またあかねに壊されたんじゃあ、たまらないと言う事じゃないと思うが、鬼潰会の反応は結構早かった。


「今度は何ですかい?」


 ドアの中から現れた男の表情は、俺たちと関わりたくなさげだ。


「ちょっと話があるので、会長さんと会わせてもらえませんか?」

「お待ちください」


 高垣の言葉を会長に取り次ぎに行った男が戻って来たのは、数十秒ほどしてからだった。その男の案内で俺たちが通された部屋は、あの時と同じカラフルさの無い事務所的雰囲気の部屋だった。

 応接セットのテーブルを挟んだ向かい側のソファに会長が座り、俺たちの側は高垣と大久保が座った。その背後に俺とあかねとなずなが立って、話を聞いている。この話は俺たちが主役じゃない。そう言う事だ。


「武器を貸してもらいたい」


 そう切り出したのは、大久保でもなく、高垣だった。

 話が違う。あの時、置き忘れてしまった高垣の銃を大久保が取りに、ここにやって来た筈だったと言うのに。


「武器が必要と言われましてもなぁ」

「あなたたちのところなら、色々持っているでしょう」

「はっはっは。持っているかどうかはともかく、その武器で何をしようと言うので?」

「世の中の害虫退治と言うところでしょうか」

「害虫たって、皆さんの事じゃないからね」


 高垣たちの会話にあかねが割って入った。にこりとした笑みと小首を傾げたあかね。やっぱ、あかねはかわいすぎる。って、そんなのんきな事を思っている場合じゃなかった。


「いや、あかね。それどころじゃないだろ。

 その武器で誰を狙う気でいると思っているんだ」

「大丈夫だよ。お兄ちゃん!」


 あかねがにこりと微笑んだ。

 あかねは俺の言葉の真意を分かっている風だ。まあ、教祖とかが俺たちの父親だなんて、信じられる訳もないし、もしそうだったとして、高垣たちが何かしようとすれば、力で止めればいい。そう言う事かも知れない。


「みなさんが気にされているのは、その武器が教会に対して、迷惑をかけないかって事ですよね?」


 今度はなぜだか、なずなが割って入ってきた。そのなずなの問いかけに、会長が頷いてみせた。


「そんな事、ぜぇぇぇぇったいありません!

 よね?」

「あ、あ、ああ。もちろんだ」


 最後に小首を傾げてみせたなずなの問いかけに、高垣が答えた。

 信じていいのか? そんな視線を会長がなずなに向けているのは、なずなの仕草がかわいいから??

 なずなが会長にこりとした笑みを返した。あかねもいいが、なずなもいい!


「分かった。

 なにが欲しい?」


 会長もなずなの魅力にやられたようだ。俺の周りの二人の女の子のかわいさには、誰も逆らえないんじゃないか? と、思わずにいられない。


 それから高垣は会長から、いくらかの武器と弾薬をバッグに詰めた状態で分けてもらう事になった。その間に、俺としては別のコロニーで司祭にしたのと同じ質問をしてみた。


「ところで、何で俺たちは教会の敵でなくなったんでしょうかね?」

「いずれは我々の仲間になると聞いているが、それ以上の詳しい事は知らないな」


 同じ答えが返ってきた。ともかく、敵視されなくなったと言う事は、教会の情報を利用できる可能性はあると言うことになる。


「そこのところが、よく分からないんだ」


 大久保が口を挟んで来た。


「俺たちはあるコロニーで教会の司祭を殺している」

「いや。あんたは教会の信者たちにそうは言ったが、殺したのは俺たちじゃないだろ」


 大久保の言葉に反論した。


「だが、司祭の配下の者たちを殺したのは事実だろ?」

「それはそうだが。あれは正当防衛ってもんだろ!」

「仲間割れか?」


 会長がめんどくさそうな顔をした。


「これまでの経緯は知らんが、前回ここに来た時も、実は敵ではなかったんじゃないのかな?」

「まあ、俺的には好んで敵対する気は無い」


 会長の問いに俺はそう答えた。横でなずなが数回頷いている。


「で、これから、どちらに?」


 教祖のいるコロニーなんて本当の事は、今銃器を分けてもらっていながら、言うわけにもいかないと言うのに、なずなはそんな事を思いもしなかったのか、あっさりと言ってのけた。


「教祖のいるコロニーに」

「銃器持ってですか?」


 会長は目が点になって、ちょっと戸惑っている。


「大丈夫ですよ。

 教会に迷惑をかけません!」


 なずなは戸惑いも無く、きっぱりと言い切った。もしかすると、なずなも詐欺師か小悪魔の才能があるんじゃないのか?

 あかねの俺へのかわいい態度、芝居だと思いたくはないが、芝居かも知れない。

 なずなの態度も芝居だったら、寂しいじゃないか!

 いや、女の子は怖い! って、事になってしまうかも。


「教祖様だけでなく、神の力をご覧になるかも知れませんね」


 会長はそう言って、意味深な笑みを浮かべている。

 また出て来た神の力。今度のコロニーで、それを知る事ができるかも知れない?

 俺的には父親との関係が無いことだけを祈りながら、教祖がいるコロニーに向かって行った。

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