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あかねのかわいさは全国区レベル!

 凛と思しき少女を見失い、凛の名を大声で叫んだ俺に見知らぬ男が声をかけてきた。


「何かお困り事ですかな?」


 振り返ると紳士然とした中年の男が一人立っていて、その男は俺の顔を知っていた。


「おや、あなたはレーザー兄妹の?」

「あんたは?」

「私はここの教会支部を管理している者ですよ」


 俺の名前を知っている理由は、教会の関係者だからと言う事らしい。そして、この男が指さしたのは、高層ビルの通りを挟んだ場所に建つちょっとぼろい建物だった。

 そこに目を向けると、「第二コロニー支部」と書かれた看板が掲げられていた。


 第二コロニー支部。

 第二?


 教会は順番にコロニーに番号を振っているのかも知れない。としたら、第二とは二番目にここに進出して来たのだろうか?

 だと言うのに、他のコロニーと違って、ここを完全な支配下に置いていないとはどう言う事なんだろう?


「何か、叫んでおられたようですが?」


 男の言葉が俺の思考に割って入ってきた。そうだ。教会の事なんかどうでもいい。


「この少女を探しているんですよ」


 相手が敵であろうがなんだろうが関係ない。あの写真をポケットから取り出して、手渡しながらたずねた。

 写真を手に取った時、男の表情に変化があった。何も知らないのなら、表情に変化なんかあるはずはない。期待しつつ待っている俺の耳に、期待を裏切る言葉が届いた。


「知りませんなぁ。

 教会にお入りになれば、何かお役に立てるのでしょうが」


 写真を返してくる男のにんまりとした表情は意味深だ。知っているが、教えてやらないと言う風にもとれる。


「お兄ちゃん」


 背後であかねの声がしたので振り返ると、ちょっと息を切らし気味で、ムッとした表情のあかねが立っていた。


「私を置いて、一人でどこかに行っちゃあ嫌なんだからね!」


 あかねが俺のところにやって来て、そう言って、俺のわき腹を軽くつねった。

 つねられた痛みにも、ちょっとぞくぞくしてしまう。って、俺ってM?


「それでは、私はこれで」


 教会の男は俺とあかねの世界を壊してはいけないと思った訳ではないだろうが、さっさと支部の建物の中に消えて行った。

 この男、凛の事を知っているかも知れないと言う気もするが、さっきの態度から言って、すんなりと教えてくれるとは思えない。それでも、やはり追うべきか?

 そんな思いで、教会の支部を見つめる俺にあかねが言った。


「お兄ちゃん、あの人は?」

「あ、ああ、このコロニーの教会の支部の人らしい」

「敵? やっちゃう?」


 またっく、お約束かと言うくらい、そう言ってあかねはあかねソードを構えてみせた。


「だから、それ違うから」

「そっか、そっか。そうだったね。

 で、お兄ちゃん、さっきの凛ちゃんだったの?」

「分からない。

 たぶん、そうじゃないかと思うんだけど。

 逃げられてしまった。

 そうだ。あかねも探してくれないか?」

「嫌なんだから」


 ちょっと口先を尖らし気味にして、ぷいっと横を向いて言った。やきもちを焼いて、凛を探すのを拒否。

 かわいいじゃないか。


「だってね、お兄ちゃん!」


 きっと、「お兄ちゃんを凛ちゃんには渡したくないんだから」とか言うんだろうと、うんうんと頷きながら、続きを待つ。


「その子が凛ちゃんだったとして、お兄ちゃんから逃げたんだとしたら、追いかけない方がいいと思うんだよね。

 逃げたんだとしたら、理由があるんだから」


 予想外な言葉があかねから返って来た。しかも、真っ当な答えな気がするじゃないか!

 俺の前から逃げた凛。あかねが言うとおり、そこには何か理由があるはず。だとしたら、その理由が分からないまま追いかけても、逃げるだけだ。

 そして、たとえ逃げる凛を捕まえたとしても、俺との再会を喜んでくれる筈もないかも知れない。


 あかねが言う事は理解出来る。

 が、感情的には納得できやしない。

 何が何でも、凛と会いたい。

 会ってから話をすればいいじゃないか。



「でもな、あかね」

「まずはお父さんを探したらどうかな?

 お父さんなら、凛ちゃんの事も何か知ってるんじゃないかな?」


 あかねは俺の言葉を封じて、父親を探す事を提案してきた。

 どうしたものかと思っている俺の視界に大久保の姿が映った。あかねとは別々に俺を追っていたのだろう。路地を抜けて俺を見つけると、俺のところに駆け寄ってきた。


「おお。颯太君、ここにいたのか」

「ええ」

「急に駆け出したけど、さっきの女の子があの写真の女の子だったのか?」


 大久保は俺の父親を疑っている。そんな奴に、爆心地で父親と一緒にいた凛だったなんて言う訳にはいかない。


「いえ。思い違いでした」


 そう言った以上、ここにとどまる事はできない。

 俺の父親は凛と一緒に写真に写っていたくらいだけに、凛の事を知っているはずだし、その居場所として一番可能性が高いのはこのコロニーと言う気はするが。


「そうか」


 ちょっとがっかり感を浮かべているように見える大久保を見ていると、やっぱ知らないと言ったのは正解だった気がする。

 俺の後を追って歩き始めたところで、大久保が立ち止まり、高層ビルに目を向けた。


「このビルは?」

「危険、立ち入り禁止らしいですよ」


 大久保の言葉に、さっき立て札で得た知識を披露した。


「立ち入り禁止?」


 大久保が不審げにそう言った。不審げな理由は、俺を信じていないからか、それとも俺と同じで、このまだ使えそうなビルが立ち入り禁止と言う事への疑問なのかは分からないが、いずれにしても、はっきりさせるため、何mか前を歩いている若い男の人に声をかけた。


「すみません。

 このコロニーの人ですか?」

「ああ、そうだが」

「このビルって、立ち入り禁止なんですか?

 まだ使えそうなんですけど」

「使えるかどうかは分からないが、立ち入り禁止だよ」

「なんで?」

「それはここに入った人で、戻って来た人はいないからだよ」

「はい?

 マジですか?」

「ああ。疑うのなら、入ってみたら?」

「お兄ちゃん、入る?」


 若い男のちょっと挑発気味の言葉に、あかねが俺の腕を引っ張りながら言った。


「だから、それ違うから」

「てへっ」


 ちろりと舌をだしながら、自分の頭を軽くこつんと叩いた。


「かわいい妹さんですね」


 若い男があかねの魅力にとらわれたらしい。そりゃあ、誰だってあかねのかわいさの前にはめろめろになるに違いない。兄の俺でさえなるんだから。


「立ち入り禁止だったでしょ」


 大久保に視線を向け、ちょっと自慢気に返す。


「ここはね。誰もいないはずなんだが、夜な夜な窓ガラスに光が映ることがあるらしい。

 なので、誰も戻って来ない理由は、ここに潜んでいる何者かが入った者を処分しているのかも知れない。

 だから、君みたいなかわいい子を危ない目に遭わせたくないので、絶対に入ってはいけないよ」

「はぁぃ。分かりました。

 ありがとうございました」


 諭すように言った男に、あかねがにこりとしながら、頭を下げた。男はえらくうれしそうだ。あかねのかわいさはどこの誰でも認める全国区レベルだ。

 男は何度か嬉しそうに振り返っては、あかねに手を振りながら、俺たちから離れて行った。

 この光景って、俺がなずなにしたのと逆じゃないか。

 俺には「いつまでやっているのか」的な事を言ったくせに、自分もにこやかに手を振りあっている。

 ちょっと、ムッとするじゃないか。

 そんな気分で、あかねと男を見ている内に、男は通りの向こうに姿を消した。


「あれ? お兄ちゃん。

 もしかして、妬いてくれてるのかな?」


 俺を覗き込むようにして、あかねが聞いてきた。


「そ、そ、そんな訳ないだろ」


 思わず、どきどきしてどもってしまった。


「えぇぇぇ、残念。えいっ!」


 口先を尖らせ、寂しそうにそう言いながら、あかねが俺のほっぺに人差し指を突き刺した。

 ぷっ!

 ほっぺを膨らませていたつもりはなかったが、そんな音が俺の口から洩れた。


「ふふっ。やっぱり妬いてくれてたんだぁ」


 そう言ってあかねが浮かべた笑顔、サイコーだ。


「あかねちゃん。

 お兄ちゃんで遊ぶのはその辺にしといてくれないか」


 俺たちの世界を大久保がぶち壊した。なんで、妹のあかねが俺で遊ぶ必要がある。俺が軽くだが妬いていたのは本当であって、それをあかねがうれしく思ったのも本当のはず。

 と、思っていたのに、あかねがまたまた予想外の事を言った。


「はぁぁい」


 ええっ! やっぱ、遊んでいたの?

 妬いた俺をうれしく思ってくれた訳じゃないの?


「なに? お兄ちゃん」


 戸惑う俺に、あかねはけろりとした表情で言ってのけた。

 たとえ遊ばれていてもいい。

 ほんのひと時、幸せな気分に浸れるから。

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