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危機を救ったあかね

 戦車部隊が戦っていたのは、あの記憶を操作する装置があったコロニーの周辺で、俺たちが到着した時の戦況はと言うと、大勢は決した状態で膠着していた。

 戦場には神の使いに殺されたと思える兵たちの物理的に損壊したおびただしい死体が散乱していたが、軍が展開している戦車は大半が残存していた。神の使いも戦車を破壊する力は持っていないらしい。が、戦車側も神の使いを倒すことができないでいた。

 戦車は停止した状態。

 一般人ぽい三人の男がそれぞれ別々の戦車の上に乗っている。見た目20代あたりっぽいこの三人が、きっと神の使いなんだろう。

 どちらかが何か仕掛けるのを待っている。

 そんな感じだ。


 見渡せる範囲の地面に横たわっている死体の全てが軍服を着ているところから言って、神の使い側の死者はほとんど出ていないらしい。そして、あの人間の形をした生き物たちが、新鮮な遺体の肉に群がっていた。


「くっそぅ」


 そんな言葉を吐き出しながら、高垣が怒りに任せ、突然小銃をぶっ放した。その照準の先は一番近い戦車の上の神の使いで、こちらに気づいていなかったその神の使いは高垣の銃弾を全身に受け、血と肉片をまき散らしながら、絶命した。

 この神の使いがどんな力を持っていたのかは分からないが、あかねがあかねソードや銃撃で倒した保護色の神の使いと同様、こいつも銃弾で倒せたことから言って、こいつも肉体的防御力は普通の人間と同じか、強くても銃弾には耐えられない程度らしい。

 他の二人は当然、高垣の銃撃に反応していた。

 俺たちに近い方の一人が戦車から飛び降りて、こちらに向かってきた。

 その速さは異常で、人の数倍なんてレベルじゃない。

 へたをしたら新幹線レベルじゃないだろうか。

 このスピードがこいつらの力?

 とすれば、鬼潰会の者たちを瞬殺したり、目の前に広がる兵士たちを殺った力を持つ奴かも知れない。油断すると数分も経たず、俺も損壊した肉塊になってしまう。


 緊張が走る。

 もう一人は戦車の上から動いてはいない。俺たちを殺るのに、二人も要らないと言う事なんだろう。


 向かって来ている神の使いを迎撃しようと、大久保と高垣が銃撃を開始したが、神の使いは左右に高速で移動し、銃弾をかわし続けている。銃弾が見えているのか、高速に左右に移動する事で単に命中する確率を減らしているだけなのかは分からないが、かすり傷一つ負わせられないまま、二人の銃は弾切れになり、沈黙した。


 左右にかわす必要が無くなった神の使いが、まっすぐに俺たちの所を目指し始めた。

 距離は一気に縮まってきている。

 向かってくる先は仲間を銃撃した高垣のところ。

 神の使いの進路から言って、俺はそう予測した。

 高垣から1mほど横に立ち、あかねソードを構えて全神経を視力に集中させながら、神の使いの接近を待つ。

 たとえ野球ボールの速度が150Km/hだとしても、凄腕バッターなら打ち返せる。

 しかも相手は野球ボールではなく、人間サイズだ。

 速度が新幹線レベルでも、あかねソードで真っ二つにできるはずだ。

 大久保と高垣が弾の装填をし終え、再び銃口を向けようとした時には、至近距離まで接近していて、銃撃は間に合わない。


 こいつを倒すのは俺だ。

 あかねソードを振り下ろし始めた時、神の使いは突如動きを横に変えていた。野球で言えば手元でぐいっと変化する変化球か。

 俺の体の動きがついていかない。

 あかねソードが空を虚しく切った時、神の使いは俺の横に到達し、その右手であかねソードを持つ俺の右腕を、左手で俺の首を掴んでいた。


 俺に向けられた男のにやりとした勝ち誇った冷酷な笑み。

 絶体絶命の危機。

 あかねの場合とは違った意味で、ぞくっとして背中が凍り付いた。


 しまった。

 すまない、あかね。俺はここまでだ。


 覚悟を決めて目を閉じた瞬間、神の使いに掴まれている首と右腕に大きな力を感じた。

 いよいよ俺も肉体を損壊させられて、この世から旅立つ。

 もう終わりだ。

 が、その次の瞬間、意外な感覚が俺に届けられた。


 肉の焦げる臭い、鮮血の臭い、体に降り注ぐ生暖かい液体。

 慌てて目を開いた俺が目にしたのは、両腕を切り落とされて、驚きと恐怖に引き攣った神の使いの姿だった。

 怯えた視線が向けられた先。そこにはあかねソードを振り下ろしたあかねがいた。


 あかねが"きっ"と目を見開き、振り下ろしていたあかねソードを今度は振り上げた。あかねソードは刀とは違い、斬れる方向がある訳じゃない。

 どちらからでも触れる物を焼き切っていく。

 あかねが振り上げたあかねソードが神の使いの体を真っ二つに切り裂いた。

 俺ではなく、神の使いが損壊した肉体に変わる事になった。


 俺の腕と首に力を加えていたのは、それを支える躯体を失った神の使いの腕の重さ、つまり重力だった。本体を失ってからもほんの数秒ほど、俺の腕と首にしがみついていた神の使いの両腕は力を失い、ぼとりと音を立てて、地面に落下した。


「私のお兄ちゃんに、何するのよ!」


 怒ったあかねの声。

 天下無敵のオーラさえ感じてしまう。


 助かった。

 そうホッとする間もなく、大久保と高垣の自動小銃が再び火を噴いた。銃弾が向かうその先に目を向けると、戦車の上に乗ったままだったはずのもう一人の神の使いが俺たちに接近していた。

 距離から言って、仲間が斬られてから動いたと言うより、俺があかねソードを構えた後で動いていた感じで、こいつもさっきの奴と同じ力の持ち主らしく、左右に高速に動いて、銃弾をかわしている。


 あかねがあかねソードを構えた。

 俺も気を取り直して、その横で構えた。

 向かってくる。

 そう思っていた神の使いは、俺たちとの勝負を諦めたらしく、方向を変えて、俺たちから遠ざかり始めた。

 追って、追える速さじゃない。遠ざかる神の使いの姿を最後まで目で追った。


「これで終わりかな?」

「保護色の神の使いがどこかにいると言う可能性はあるが」


 俺の問いに、大久保が答えた。確かに、その可能性はある。

 あたりに注意を凝らして見渡す。


「きょろきょろも、ぶらぶらも無いみたい」

「あかね。それ言うなって」

「ごめんなさぁい」

「いや、て言うか、さっきはありがとうな。助かったよ」

「お兄ちゃんを守るのは私の仕事だもん」


 胸を反らし気味に、明るい笑みを浮かべたあかねはかわいすぎて、ぞくぞくしてしまう。

 いや、妹に守られるのって変だろ!


「本当は俺がお前を守らないといけないのにな」

「そんなこと・な・い・よ」


 あかねはそう言い終えると、明るく笑った。

 やっぱ、あかねはかわいすぎる。


 そして、もしかしたら、俺よりはるかに強い?

 と言うか、異様なほど強い?

 俺的には、俺が妹を守らなければならない。

 頑張らねば。そんな思いで両拳を握りしめ、心の中で気合を入れた。



 最後の神の使いが敗走した事で、安心した戦車部隊の兵士たちが、戦車の中から、次々に姿を現した。彼らから聞いた話では、襲ってきた神の使いは全部で6人だったらしい。そのうちの何人かが蜘蛛の糸を操る神の使いで、その糸の力で砲弾や銃弾が無力化されただけでなく、戦車砲の射出口を糸の覆う事で射撃不能にした。そして、兵たちを殺戮したのはやはりあの動きの速い神の使いだったらしかった。


 たった六人で軍に立ち向かい、ほぼ壊滅させた。恐ろしい力。

 そんな力を持った神の使いだけに、大軍勢を形成すれば、ほぼ無敵だろう。

 が、今回は六人と少数。

 それは力に自信があるからなのか。それとも、絶対数が少ないのか?

 俺的には数が少ないと言うのを祈らずにいられなかった。

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