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一瞬の惨劇

 これから乗り込もうと言うこのコロニーの教会支部。正確には闇社会の大物 鬼潰会の本部事務所。高垣がドアの取っ手に手をかけたが、鍵がかかっているらしい。


「任せて」


 あかねはそう言うと、高垣の前に回り込み、あかねソードをドアに突き立てた。金属でできたドアだったが、あかねソードのエネルギーに抗する事もできず、あっさりと穴をあけて、あかねソードを受け入れた。突き立てたあかねソードを上方に移動させ、人が入れる高さに到達すると、そこから横に移動させてから再び下に動かし、人が自由に出入りできるサイズにドアを焼き切ると、支えを失ったドアが、「ドカン」と言う音を立てて内側に倒れ込み、建物の内部が丸見えになった。


 広い玄関。

 そこに闇社会と思しき男たちがずらりと並んでいる。

 高垣がずいっと、一歩前に出ると、建物の中の男たちも銃を構えた。銃を構えた大勢の男たち相手では、高垣に勝ち目はないと思った時だった。


「客人たちを通せ」


 奥からの声に、ずらりと並んでいる男たちが一瞬戸惑った表情を浮かべたが、銃を懐にしまい俺たちに道を開けた。


「こちらへ」


 奥から出来た一人の男が俺たちを案内した部屋は、カラフルさを感じさせない殺伐とした事務所的な雰囲気で、部屋の奥の高級そうな机と革張りの椅子から、60代っぽい男が立ち上がり、その前に置かれた応接セットに俺たちを招いた。

 この男、何度かTVで見た事がある。この鬼潰会の会長だ。


「おや? これだけかい」


 俺たちを見渡して、会長が言った最初の言葉はこれだった。


「二人ほど、外に待たせている。

 あんたのところの二人の番にね」


 高垣が言った。


「なるほど。

 で、ここに何のようで」

「教会の事で、色々教えて欲しい事があってね」


 高垣の興味は教会が一番らしい。


「あ、その前に」


 俺が懐からあの写真を取り出して、会長に差し出した。


「この男の人は?」


 会長は凛ではなく、俺の父親に食いついて来た。


「俺の父親です。

 探しているんですが、知りませんか?」

「残念だが、知らないな」


 そう言って、写真を返してきた。


「で、教会の事を知りたいって?」


 会長が今度は高垣に視線を向けて言った。


「ああ。

 俺たちは教会の事で知りたい事が色々あってね」

「色々とは何をですかな?」

「たとえば、教祖の名前とか」

「教祖の名前は知らないな。

 俺たちには教祖としか名乗っていないからな」

「では、どんな人物かは知っているでしょう。

 さっきの写真の男?」


 えぇー!? 大久保と言い、この高垣と言い、俺の父親の事を疑っているのか?

 怪訝な視線を向けてみたが、高垣は全く無視している。


「いや。違うな。

 ただ、この男は見た事は無いが、教会関係者と言う可能性は否定しない」

「どうして?」


 俺としてはその言葉は受け入れられず、身を乗り出して聞いてみた。会長はあきれたような顔つきで言葉を続けた。


「どうしてって?

 そんな事言えるかよ。

 あんたたちこそ、教会とどんな関係なんだ?

 本部からは敵だと言う指令書が届いているが、単純にそう言う訳でもなさそうだし」

「私は敵でもいいんだけど」

「おい、あかね」


 敵認定されてしまえば、聞ける話もきけなくなるじゃないか。そんな思いで、あかねの過激発言をたしなめる。


「あんたたち、一体なんなんだ。

 あんたたちと下手に関わるのは危な過ぎる気がするな。

 帰ってくれ」


 会長は立ち上がった。もう俺たちとは話をしない。そう言う意思表示らしい。


「待ってくれ。

 俺は軍の士官だ。

 俺たちと組まないか?

 あんたの知っている事を教えてもらいたい」

「軍だと。そんなものと組める訳ないだろ」

「すでに軍はいくつかのコロニーに進駐を始めている。

 ここにもすぐに軍がやって来る。

 落とされるより、こちら側に立った方がいいんじゃないのか?」

「あんた、教会の真の恐ろしさを知らんのか?

 そうか。あんた、あの時は外の世界にいたんだろ?

 あの時の軍は全滅させられたんだから、外にいた者たちが、教会の恐ろしさを知らないのも無理ないか」


 噂では聞いていた。軍が教会と戦って敗れたと言う事を。

 それは真実だったのか? そんな視線を高垣に向けてみたが、全く無視している。


「あんた、あの時の軍が誰にやられたのかも、知らないんじゃないのか?

 そんな事も知らないでいるなんて、全く笑える話だ」

「お前はあの時の事を知っているのか?」

「知っているとも。

 奴らは人間じゃないさ」


 奴らは人間じゃない。こちらの世界に来てから、何度か聞いた事がある。

 教会には全知全能の神がいて、その神の力を分け与えられた特別な者たちを神の使いと呼ぶのだと。ただ、その力は蜘蛛の糸を吐く神の使いだとか、保護色の神の使いだとか、奇想天外な話ばかりで、俺は信じていなかった。だが、この男が言うのなら、神の使いの話が本当だと言う可能性はある。と言っても、記憶を操作する装置のように、何かの科学技術と言うのが一番可能性が高い気がするのだが。


「その内、あんたたちも、その力を目にする事だろう。

 すでに教会は軍を掃討する作戦を開始しているしな」

「なんだって」


 高垣がそう言った時、この建物の外と思えるところから銃声が聞こえ、会長の顔には険しさが、俺たちの顔には緊張が浮かんだ。


「見てこい」


 それでも会長はどかっと構えたまま、事務所の中の者たちに指示を出したが、一方の俺たちにそんな余裕はない。大久保となずなが襲われたんじゃないかと言う不安で、俺たちは慌てて立ち上がり玄関に向かった。


 俺たちが玄関にたどり着いた時、そこには惨状が広がっていた。が、その犠牲者はなずなたちではなく、鬼潰会の男たちだった。

 首があらぬ方向に曲がり口から血を垂らしている者、究極のエビぞりで体を半分に折られ、お腹から内臓をはみ出させ、血の海に沈んでいる者。かつて記憶を操作するシステムが破壊された現場で殺害されていた兵士たちと同じ状態で、みな血の上に沈んでいた。


 急を聞きつけ駆けつけた鬼潰会の者たちが銃を抜いたが、敵がだれなのか分からず、とりあえず構えたままだ。

 視界の中、唯一立っているのはなずなだけで、口の辺りを両手で押さえて震えている。なずなと一緒だった大久保は外で倒れているが、一応物理的な肉体の損壊はなく、死んでいるのか、生きているのかは分からない。


「そ、そ、颯太くん助けてぇぇぇ」


 俺に気づいたなずなが絶叫気味に叫んで、俺の胸に飛び込んできた。


「何が起きたんだ?」


 なずなを抱きしめて、頭を撫でながら聞いてみた。


「外で監視されていた男たちが、大久保さんを襲ったんです。

 ちょうど、そこに教会の人なのかな? 見知らぬ人が来て、こんな事に」

「今、そいつはどこに?」

「もういない。

 教会に逆らうなって、言い残して」

「銃をしまえ。

 俺たちは教会に逆らう気は無い」


 男たちの背後で遅れてやって来た会長が言うと、男たちは銃を懐にしまった。


「これが教会の仕業だとして、ここまでの事をやられたのに、仕返しをしないのか?」


 高垣が会長に言った。完全に煽っているようだが、会長はそれを否定するかのように、静かに首を横に振った。


「この人たちに何も話していないし、俺たちは教会の力には逆らわんよ。

 あんたたちも、とっととここから立ち去ってくれ」


 会長はそう言い残して、再び奥に下がって行った。鬼潰会は教会には逆らわない。が、今ここで、俺たちとも敵対しない。そう言う事らしい。


「大久保さん」


 大久保に駆け寄って上半身を抱き起し、胸に手を当てると、呼吸と鼓動を感じる事ができた。どうやら、生きている。

 何度か揺すって声をかけると、目を開いた。


「う、う、うーん」

「大丈夫ですか?」

「はっ! 奴らは?」


 そう言って、大久保は辺りを見渡している。


「こ、こ、これは?」


 鬼潰会の者たちの惨状に気づき、驚きの声を上げた。


「教会の者にやられたみたいなんですが、何も見なかったんですか?」

「面目ない。

 あの男たちが突然銃を奪いに来て、すぐに気絶させられてしまったらしいんだ」



 大久保が首の後ろをさすり、立ち上がりながら言った。


「で、そっちは何か収獲が?」

「収獲無しです」

「お兄ちゃん、やっちゃう?」


 俺の言葉にあかねが言葉を挟んで来た。右手にはスイッチを入れていないあかねソードの柄が握られている。力ずくで情報を聞き出そうと言う事らしい。


「いや、だから、それ違うだろ」

「てへっ。そうだったね、お兄ちゃん」


 自分の頭を軽くこつんと叩きながら、ちろりと舌を出した。


「あ、あ、あかねちゃんは」


 かわいい風を装ったあかねに、声をかけたなずなは体を小さく震わし、怯えた表情のままで言葉を続けた。


「こ、こ、こんなとんでもない事ができる相手にも勝てるんですか?

 まだ近くにいるかも知れないんですよ」


 なずなの言った言葉の意味は重い事に気づいた。こいつらを惨殺した相手は教会に逆らうなと言い残した。その言葉は鬼潰会に対する圧力に違いなく、俺たちが力で鬼潰会の口を割ろうとすれば、今度は俺たちに牙を剥いてくる可能性がある。


「えぇぇー。たぶん、勝てるかな?

 私のお兄ちゃんを盗ろうなんて、泥棒猫にもね」


 あかねは小首を傾げながら、にこりと笑った。

 俺に抱きついて来たなずなへのあかねの宣戦布告だ! 

 それを笑顔で言ったところが、怖すぎる。

 話題をマジなものに戻したくて、ちょっと強張ったまま、なずなにたずねた。


「なずなちゃん。君は相手を見たんだよね?

 何人だった?」

「ひ、ひ、一人です。

 体格のいい大きな人が、力でぼきぼきっと」

「マジで一人で。

 しかも、素手で力によると言うのか?」


 なずなは頷いてみせた。俺は改めて、殺された人数を数え始めた。鬼潰会の者たちが、死体を建物の中に片づけているので、本当の人数は分からないが、残っている死体だけでも五体はある。銃声が響いてから、五人以上を殺害したとなると、ほぼ瞬殺である。

 これをやった相手は動きが異様に速いだけでなく、一瞬にして人間の体を破壊する力を持っていると言う事になる。

 これが鬼潰会が恐れる教会の力なのか?


 これはあかねが言うほど、簡単な敵ではない。これは油断していると、とんでもない事になる。


「あかね。これからは不用意に戦ってはならない」

「分かってるって、お兄ちゃん」



 にこりとしたあかねの笑顔。今までの事を思えば、その笑顔がよけいに信じられない。きっと、裏では思ってはいないはず。


「いいか。あかね。

 絶対だぞ」


 真剣な顔つきで、事の重大さを伝える俺の気持ちを感じ取ったのか、あかねもマジな顔つきになった。


「分かったよ。お兄ちゃん」

「話はついたかな?

 ここで聞いた話では、教会が軍を掃討する作戦に入ったらしい。

 すぐにここを出て、元のコロニーに一旦戻りたいのだが」


 割って入って来た高垣に、最初に反応したのは大久保だった。


「本当ですか?」


 俺的には凛と父親を探すことが最優先なんだが、本当の教会の力を知らないままぶつかるは危険すぎる気がする。

 軍と教会の戦い。これを見れば、教会の力を知る事ができるに違いない。


「一旦、俺たちも戻ろう」


 俺の言葉で全ては決し、そのまま俺たちは元のコロニーに引き返すことにした。

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