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脳裏に浮かんだイメージ(あかね編)

 気づいた時、私は目隠しをされ、手は後ろ手に縛られていた。体に伝わる揺れと耳に伝わる音から、車の中らしい。車に乗せられる前の事は、下校途中に突然背後から口を押えられた事しか覚えていない。


 拉致られた?

 どうして、私はこんな事になっているの?

 これから、私はどうなるの?

 助けを呼ぼうとしたけど、口には猿轡が。


「んー、んんーっ」


 そんな声ともならない呻き声を上げて、足をジタバタさせてみる。この車の中には、私をこんな目に合わせたであろう犯人もいるはずだけど、足に当たるのは車のシートだけ。そんな抵抗に何の意味もないと分かってはいても、じっとなんかしていられない。体を動かして役にも立たない抵抗を続けている内に、車は停車してドアが開いた。


「降りろ」


 男の人の声がしたと同時に腕をがしっと掴まれて、車の中から引きずり出された。


「あかね!」


 次に聞こえてきたのは、お父さんの声。


「んんんー」


 お父さんと言いたかったけど、猿轡が邪魔して、呻きにしかならない。


 私がさせられていた目隠しは外された。

 何m先だろうか。少し離れた場所にお父さんが一人で立っていた。辺りは何もない空き地。遠くに海が見える所から言って、埋め立て地らしい。

 そして、次に猿轡が外された。


「お父さん!」

「あかね!」


 そう叫んで、お父さんが私にところに駆けよろうとしたのを感じ、私も駆け出そうとした時だった。腕をがしっとつかまれ、引き戻されたかと思うと、首筋がひんやりとした。


「動くな!」


 恫喝気味の男の声が轟いた。首筋に感じたひんやり感。恐ろしい想像が脳裏をよぎり、その現実を否定したくて、恐る恐る視線を下に向けた私の視界に、ごつい男の手とその手に握りしめられた禍々しい金属光沢を放つ大きな刃物が映った。私の想像は否定できなかった。


「さてと、ではビジネスの話をしようか」


 別の男の声が背後からした。


「あかねを、あかねを返してくれ」

「水野さん、もちろん返してあげるよ。

 俺たちが言っている要求を飲んでくれたらね」

「だ、だ、だめだ。

 それだけは聞けない」

「お嬢さんがどうなってもいいのかな」

「あかねを、あかねを返してくれ。

 俺はどうなってもいい」

「分からん人だなぁ。

 あんたの命なんか要らないし、この子の命も要らない。

 俺たちが欲しいのは、あんたの研究成果なんだよ」

「だ、だ、だから、それはできない」

「いいのか。そんな事言って。

 やれっ!」


 その言葉が終わった瞬間、刃物をあてがわれ、ひんやりとした感触だった首筋に痛みが走り、温かいものが私の首筋を伝い方の辺りを流れて行くのを感じた。


「あかねに手を出すな!

 お願いだ。あかねは助けてくれ」


 お父さんの言葉に男たちは言葉で返さず、行動で返した。私の右頬に冷たい感触が断続的に伝わる。

 ペシッ、ペシッ。

 そんな音を私の頬と刃物が奏でた。


「今度は顔でもいいんだぜ」

「お父さん!」

「あかねを離してくれ」

「研究成果を渡すのか、渡さないのか」

「それはできない」

「脅しじゃないってのが、まだ分からないのか?

 やれ!」


 今度は右の頬に痛みが走り、温かい物が顎の辺りまで伝っていくのを感じた。


「俺たちは脅しじゃないんだぜ。

 さっさと渡すと言わなければ、こいつの命が無くなるぜ」

「あれだけは渡す訳にはいかない。

 それにまだ完成していない」

「ちっ。指一本でも切り落としてやるか」


 男はそう言うと、抵抗を示す私の力なんか無いかのように、私の右腕を持ち上げて、私の指にナイフを突きつけた。


 こ、こ、怖い。

 震えが止まらない。

 涙もあふれ出はじめてきた。


 そんな時だった。何か銃声のような音が耳に届いたかと思うと、私に刃物を突き付けていた男が突然尻餅をついて倒れ込んだ。


「敵はどこだ?」


 男たちが辺りをきょろきょろと見渡し始めた。

 銃撃して来た相手を探すのに気を盗られ、私の事なんか忘れられたかのようで、今が逃げ出すチャンスかも知れない。

 そう思っていて、足が震えて動けない。


「あかね!」


 そう言って、お父さんが私のところに駆けよろうとした。


「動くな!」


 男たちの誰かがそう叫んで銃口をお父さんに向けた時、銃撃が再開され、今度は止まない雷鳴のように私とお父さんの空間を震わせ続けた。私を捕まえていた男たちが次々に倒れていく中、私は怖くて動けないままだった。


「なめた真似をしくさって。

 交渉は決裂だ。

 こいつには死んでもらう」


 そんな男の声が聞こえた直後、脇腹あたりに激痛を感じた。脇腹に目を向けると、私のお腹はぱっくりと裂けて、血が噴き出していた。


「怖い。いや! 私は死ぬの?」


 意識と力が抜け、地面に倒れ込んだ。両手で体を支える事もできず、顔から。


「あかねぇぇ」


 近くにいるはずのお父さんの声が遠くに聞こえ、激しかった痛みも薄らいでいく。


「お、お、お父さん」


 そう言おうとしたけど、声にならなかった。ただ、寒い時期じゃないはずなのに、寒く感じて、視界も闇に覆われていった。

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