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崩壊した首都へ

 この国の首都は、ある日、突然崩壊した。

 その日、首都圏で仕事をしていた俺の父親はその崩壊に巻き込まれて、生死は定かじゃない。

 同じように首都圏の中に大切な人がいた人たちは多いはずで、きっと探しに行きたいと強く思っているはずだ。

 だが、その首都圏内には謎の生物が闊歩していて危険と言う事で、軍が完全に包囲を固め、出る事も入る事も出来ない状態になっている。

 ちなみに、その謎の生物とは一言で言うと、ゾンビではなく野獣と化した元人間たちだ。どうしてそんな事になったのかは、未だ分かっていない。生物兵器が使われたと言う可能性もあると言う事で、一般人は軍の包囲網に近づくこともできないほど、厳重に首都圏は隔離されている。




「見てもらいたいのは、この写真だ」


 そう言って、俺の家のリビングのテーブルの上に一枚の写真を差し出したのは、俺の父親の友人で大久保と名乗っている40代っぽい男だ。

 その大久保と向かい合って、座っている俺がその写真を手に取った。

 俺の横に座っている高1の妹 あかねが覗き込んできた。それくらい、それはあかねにとっても興味ある写真と言う事だ。


「首都圏崩壊直後に爆心地付近に入った軍のヘリが撮影したものだ」


 大久保がそう説明した写真には、俺の父親と何故だか数か月前に何者かに拉致られ、行方不明になった俺の幼馴染 葉山 凛が寄り添うように写っているのだが、この二人が知り合いだったなんて記憶は無い。

 着衣には血痕っぽい赤黒い染みが付いていて、二人、あるいはどちらかが怪我をしていると言う可能性に不安を抱かずにいられない。


「しかし、なんで凛と一緒なんだ」

「凛とはそこに映っている女の子の事なのか?」


 凛の事を知っている訳もない大久保がたずねてきた。


「俺の幼馴染で、行方不明になっていたんです」

「なるほど。

 二人ともを知っていると言うのなら、なおさら一緒にこの二人を探しに行かないか?」

「しかし、軍の包囲を抜けられるのですか?」

「その手筈は私に任せて欲しい」

「じゃあ、行きますっ!」


 俺の母親は早くに亡くなった。父親が生きているなら、探しに行きたい。もちろん、拉致られたあの日に、救う事ができなかった凛もだ。

 俺の気持ちは即決だ。


「お兄ちゃん。行くのって、お父さんを探したいからかな?

 それとも、凛ちゃんなのかな?」

「そりゃあ、両方に決まってるだろ」

「えぇぇーっ」


 あかねが不満げにほっぺを膨らませている。


「そりゃあ、そうだろ」

「お兄ちゃんは、凛ちゃんにも誰にも渡さないんだから!」


 そう言って、俺の右腕に抱きついて来た。あかねの胸の膨らみが俺の腕を締め付けるムニュッ感。俺の脳は幸せ気分に包み込みこまれ、思考を麻痺させていく。二か月ほど入院していたあかねは、退院してから、ちょっとかわいい系になった?

 他の女の子に興味を示した兄にやきもちを妬いてみせるなんて!


「あかね、お前はお留守番だからな」


 そんなかわいい妹を危ない場所に連れてなんか行けやしない。


「私にはこれがあるもん!」


 ちょっと不満げな口調でそう言い終えると、俺の腕に抱きついていたのを止めて、ポケットにしまっていたらしい金属でできた20cmほどの円筒形の物をテーブルに置いた。


 ゴトリ。

 その重さが感じられる音が響いた。


「なんだ、それは?」


 初めてそれを見る大久保が言った。


 それは一か月ほど入院していたあかねが退院して来た日に、俺の父親が俺とあかねに護身用にと渡してくれた武器だ。起動した時の見た目はまるでSFの超大作でみるライ○セーバーのような感じで、光のエネルギーを利用しているらしい。まだ試したことはないのだが、俺の父親が言うには「有機物はもちろん鉄であろうとなんだろうと触れる物全てを一瞬の内に消失させてしまう」ほどの兵器級の代物だ。

 まあ、まだ使った事はないのだが。


「まあ、護身用のものですよ。

 名前はあかねソード」


 光のエネルギーを使っているとの事だが、エネルギーの高い青系の光ではなく、それが放つ光はあかね色。そこから取って、「あかねソード」と俺が名付けたのだ。


「それって、妹さんの名前?」

「そうなんですよぅ。

 お兄ちゃんったら、私と肌身離さず引っ付いていたいらしいんです」


 肌身離さず引っ付く!

 あかねと肌と肌で引っ付いく光景をイメージして、ちょっとムフフな気分になってしまっている俺の腕に、再びあかねが抱き着いて来た。

 ムニュッ感が俺に幸せとピンクな気分を運んで来て、俺の体内にムラムラと沸き起こって来た衝動と言うエネルギーが股間に蓄えられていく。って、妹相手に、それ変だから。


 気を取り直そうと、軽く左右に首を振って、怪しげな妄想を振り落とす。現実に戻った俺は、大久保の怪訝な視線が向けられている事に気づいた。


「いえ、ち、ち、違いますよ。

 光の剣で、ライト○ーバーみたいな感じなんです。

 その光の色があかね色だから、そう呼んでいるんです」


 そう言い訳してみた。まあ、本当のところはあかねの名前をとったんだが。って、俺はマジでシスコン?


「そう言えば、颯太君は剣道やってたんだよね?」

「ええ。でも、このあかねソードには刀身はないので、これで何かを受けて防ぐとか言う事はできないんです」


 そうなのだ。それが剣道をやっていた俺的には不便で、重要な問題なのだが、大久保には興味の無い話だったらしく、何の反応も示さず、さっさとあかねに視線を向けた。


「あかねちゃんも、剣道やってるの?」

「いいえ。私はやってませんっ!」

「だからこそ、居残りだ。

 あかねソードがあっても、素人のあかねじゃあ、それほど力にはならないじゃないか!」

「でも、そんな危ない時は、お兄ちゃんが守ってくれるよね?」


 俺の腕に抱きついたまま、ちょっとうるうるした瞳で俺を見上げながら言った。


 かわいい。守るよ。守る。

 即答したくなる気持ちをぐっとこらえる。が、それが限界で、否定する言葉が口から出ない。


「守ってくれないの?」

「守るよ。守る。守るに決まっているじゃないか!」


 あかねのダメ押しにこらえきれず、一気に本音が俺の口から一気に吐き出された。


「うれしぃぃぃ」


 抱き着いているあかねの腕の力が強まった。俺を見上げるあかねの笑顔と、腕に伝わる柔らかなムニュッ感!

 俺の言葉に間違いは無かった! そんな気分になってしまう。って、それ危ないから!


「いや、あかね」

「私、お兄ちゃんと一緒にいたいんだもん!」


 思い直して、再び拒否ろうとした俺に、ちょっと威張りんぼ気味にあかねが言った。

 ほっぺを膨らませ、ちょっと睨み気味の視線もかわいいじゃないか。

 そう、俺があかねを守ればいい。今、自分で言った訳だし。


「分かったよ。あかね。

 一緒に行こう」


と言う訳で、半分不本意、半分はあかねと一緒がうれしいと言う気持ちで、大久保と名乗る男と共に俺たち兄妹は崩壊した首都に足を踏み入れた。


 そこはかつての栄華は跡形もなくなり、知性も理性も失った野獣のような人の形をした生き物がうろつく廃墟の街だった。

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