●ボランティア
熊本市災害ボランティアに参加される人達を応援する意味で、
彼らにこの話を贈りたい。
●ボランティア
明日の4月22日(金)午前9時から
熊本市災害ボランティアセンターが、中央区花畑町7番の花畑広場にて開設される。
それに合わせて災害ボランティアを募集するという。
私も母の介護が無ければ参加したところだ。
多分、多くの人が、震災で被災した人達を助ける為にボランティアとして活躍してくれるに違いない。
しかし、あるツイッターで、
ボランティアなどしても、損なだけだと、言っているのがあったが、
はたしてそうだろうか。
というよりも、損だから、とか徳だから、
という気持ちでみんなボランティアしていると考えている所が、
その人に欠けていると思った。
今日は、熊本市災害ボランティアに参加される人達に応援する意味で、
彼らにこの話を贈りたい。
これは、ある1人の女性のお話である。
彼女が二十歳の時、
阪神・淡路大震災が起きた。
大学生だった彼女は、
テレビに映る悲惨な光景を見て、我慢が出来ず、
翌週には、神戸にいた。
その後、
体育館に避難した人達のお世話をした。
炊き出しを手伝ったり、
用具などの配布など。
ある時、お爺ちゃんが、
手を怪我して食べられないというので、手伝っていると、
お爺ちゃんは、アレは嫌、これは嫌と我儘を言い出したので、困ってしまった。
すると、
それを見ていた中学生の男の子が来てくれて、
代わって手伝ってくれた。
「このお爺ちゃん、女の子には我まま言うんだよ。」
二人は笑った。
の中学生は、隆志君といった。
彼は、両親を震災で亡くしたのだが、
気丈にも頑張っていた。
自分自身こそがつらいのに、
他の被災したお年寄りやけが人を助けるボランティアをかってでていたのだ。
彼を目の前にすると、
自分が何悩んでいるんだろうと改めて考えさせられた。
その後、いろんなボランティアを隆志君と一緒に頑張った。
中学生の隆志君は、大学生の彼女よりも大人に見えた。
別れる時、
隆志君は、彼女に言った。
「ボランティアに来てくれて、どうもありがとうございました。
いつか、またお会いできる日を楽しみにしています。」
「いいえ、たいしたお手伝いもできずに、すみません。
頑張ってくださいね。」
そうして二人は復旧した駅で別れた。
それから2年。
彼女は、大きな会社に入社した。
平凡な日常が過ぎる中、
震災で避難している人達へのお手伝いや、
隆志君との日々が、思い出された。
「みんな、頑張っているだろうか。」
自分も頑張らねば。
しかし、運命は皮肉である。
30歳になったある日、会社に行く通勤途中で倒れた。
貧血で倒れたものだったが、精密検査をすると、
ある重大な病気が見つかった。
病名は、子宮ガン。
早期発見だったが、それが原因で会社を辞める事になった。
当時付き合っていた彼も、
波が引くように、去っていった。
悲しかったが、
子供が産めない自分には、彼を引き止める事は出来なかった。
その後、ある程度体調が戻ると、
スーパーのバイトを始めた。
そして体にも自信がつき始めると、
またある食品会社で働き始めた。
しかし、彼女が不得意とする営業に回された。
ある程度年齢がいっている彼女には拒否など贅沢は言えなかった。
一人で車での営業。
慣れないセールストーク。
そんな事を考えながら運転したいたある日。
車同士の交通事故にあってしまう。
車椅子生活になった。
自動的に仕事は辞めさせられた。
33歳になった自分にはもう何も無かった。
お金も、結婚も。
そう思った。
母には、これ以上迷惑をかけたくない。
将来介護してあげなければならないのに、
自分が介護してもらう方になってしまった。
そんな何も出来ない自分が情けなかった。
居なくなりたかった。
死にたい。
それでも、
ただ家に居るだけだと、段々心が荒んでいく。
彼女は、なるべく車椅子でも買い物に行った。
ある日、
家の近くのスーパーで買い物をしていると、
キャベツを落としてしまう。
床に転がったキャベツを、車椅子で追っていくと、
男の人がそのキャベツを拾ってくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って、上を見ると、
そこに居たのは、
なんと、
あの隆志君だった。
阪神・淡路大震災で出会ったあの中学生は、
立派な大人の男性になっていた。
彼は東京の会社で働いていたのだ。
あの時から13年がたっていたが、
隆志君は、彼女を覚えていたのだ。
でも、
車椅子になった自分を見られるのが、恥ずかしかった。
彼女は、
「では、失礼します。」と挨拶も早々にして
逃げ出すように車椅子を走らせた。
すると、
隆志君が駆け寄ってきて、
「ずっと、貴方を探していたんです。
実は、東京に就職したのも、
いつか貴方に会える事を期待してだったのですよ。」
そう言ってくれた。
その後、
久しぶりに二人は一緒に食事した。
堰を切ったように、
二人は色んな事を話した。
ボランティア当時に失敗した事。
おかしなお爺ちゃんの介護を一緒にした事。
こんなに笑ったのは、どの位前の事だろう。
彼女にとっても唯一、輝いた時期だったのかもしれない。
ボランティアが損だとか、徳だとかという気持ちは一切なかった。
ただ自分には何ができるんだろうと、思って足が向いただけだったあの日々。
その後、隆志君は何かにつけて、
彼女の家を訪れてくれ、
彼女がひとり暗くならないように映画とか食事に誘ってくれた。
しかし、
隆志君は自分よりも5歳も年下。
私なんかにかまっていたら、仕事や将来も無い。
そう思った彼女は、自ら彼から離れる決心をし、
ある日思い切って、言った。
「私の所へは、もう来ないで、
早くいい彼女を作って、幸せになってください。
今まで、ありがとう。
また会えて嬉しかったです。」
すると、
隆志君は、思わぬ事を言ったのだ。
「ボクと結婚してください。」
彼の思わぬ言葉に、しばし言葉を失った。
「私は歩けませんし、
子供も一生産めません。
嬉しいけど、貴方の迷惑になるだけです。」
そういって、泣いた。
でも、
隆志君は、
「いいんだ、
君が生きてさえいてくれれば、それでいいんだ。」
「君が、生きているだけいいんだよ。」
「結婚しよう」
その後、2人は結婚した。
驚く事に、彼女はそれ以後、
苦しいリハビリに耐えに耐え、まだ歩くには不自由だが、
台所に車椅子無しで立てるまでになったという。
きっと、2人なら幸せになるだろう。
END